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謎の寺院を調査せよ 3 屋内庭園

 時が戻されるというとんでもない罠を抜けた俺たちは、そこでもまた信じられないものを見る。


 生きている照明もさることながら、中には庭園があったのだ。

 天井は高く、かなりの広さを持った空間。そよ風すら感じる。

 色とりどりの花が咲き、小さいながらも噴水が確認できた。

 

「なんてことだ。太陽もないのにどうやって」

「すごいや。こんな場所があるのか」


 特にモイーズさんとシクステさんの驚きっぷりがすごい。

 素人目から見ても大発見に違いなかった。俺も驚いている。


「危険はなさそうだな。なにか遺物はないか? ホミング、こっちに来たまえ」

「じ、自分でやればいい」

「なんだと?」

「ぼ、僕の情報でここまで来た。あ、あなたの手柄じゃない。命令するな」

「このっ!」


 なにやらもめている。


「二人とも、落ち着いてください。ホミング氏の読みは当たっていましたが、開けたのはアーナズさんですよ」


 モイーズさんが止めに入る。

 落ち着いた二人は言葉を交わすこともなく、別々の場所を調べはじめるのだった。


「やれやれですね」

「たしかに」


 まとめ役は気苦労が多いだろうと思う。

 

「しかし、庭園から先は道がない。ここからはどうするのですか?」

「じっくりと調べるしかないですね。アーナズさん、ほんとうに申し訳ないのですが、もしも隠し扉などがあった場合はまたご協力いただけませんか。無論、報酬は上乗せさせていただきます」

「いえ、そこまでする必要は」


 冷静なように見えて、彼もまた興奮している。落ち着いてほしいものだ。

 いったんこの場を離れて、庭園の入り口まで戻る。


 いまのところ危険は感じないが、さきほどの時間巻き戻しを考えると全力で警戒するべきだろう。

 なので全体を入り口から見直したいと思った。

 しかしその時だ。

 ふと、視界の端に誰かの姿がうつった。


「ん?」


 庭園の一番奥に見える小さな丘めいたところに誰かが立っていたのだ。


「消えた? 幻覚か?」


 目をこする。

 誰の姿もない。

 見間違えとは思えないが。


(どうしたのです?)

「いま誰かがいたような」

(知ってるヒト?)

「まさか」


 シルエットからして女性だろう。顔までは確認できなかった。


「こういう遺跡にはゴーストがつきものですし、いてもおかしくない」


 フォールンとホーライでは罠としてあらわれた。

 驚きはなく、またか、という感想が出てくる。


「ただ悪い気配はしないんだよな」


 ゴーストはまがまがしい魔力をまとう。いればすぐにわかるはずだ。


「この山に来てから調子が狂いっぱなしです」

(わたくしもです。落ち着きません)

(わたしもよ。この中に入ってから変な感じが強くなってる)


 二人のことを考えると無理はできない。

 魔力障害と罠に加えてゴーストにも警戒しておこう。


 それから調査が続き、結局めぼしいものは発見できなかった。

 この庭園を見つけただけでもかなりの発見なのだが、研究者の方たちは納得がいかないようだ。


「しかたありませんね。今日はこの辺にしましょうか。だいぶ時間がたっている」

「もう夜ですねー。リーダー、メシにしましょうよ」


 俺たちは一度、食事休憩をしたが、モイーズさんとシクステさんは休まずにいろいろと調べていた。疲れているはずだ。


「明日の早朝からまた再開です」


 焦ったところでなにかが見つかるわけでもない。

 ドレスラー氏とホミング氏は仲たがいしたままだが、モイーズさんの言葉には素直に従った。



 ★★★★★★



 そして夜。

 見張りの番が来るまで時間を潰す。護衛役が五人もいるから担当する時間は長くない。割と楽だ。


(シント、結局ここはなんなのですか?)


 ディジアさんは遺跡自体が気になるようだ。

 説明したいところだが、それはあと。


「誰か来ます。説明はあとで」


 俺のテント外に人の気配だ。


「い、いるか? アーナズ氏」


 この声はホミング氏だ。

 

「いますよ。どうぞ」


 毎日誰かが訪ねてきている。暇つぶしと思えば苦じゃないけれど、妙な話はお断りだ。


 中に入って来たホミング氏は薄笑いを浮かべている。

 また二重契約の話であれば、聞くつもりはない。


「あの話でしたらお断りしたはずです」

「い、いや、あれはもういいんだ。そ、それよりも、扉を開けた方法について、き、聞きたい。そ、それと時間の件だ」


 ホミング氏はかなりの知識を持つ研究者。そういう話なら断る理由はない。


「俺にもよくわからないんです」


 前置きをして、経緯を話す。もちろんディジアさん関連の話は抜きだ。

 聞いたホミング氏はあごに手を当てて考えている。


「す、すごい話だ。き、君はまるで『ソーディアン』だな」

「いまなんと?」


 なぜここでソーディアンの話になる。


「き、君は『空白の時代』のことは?」

「なにもわからない時代ということしか知りません」

「い、いや、そ、それで合ってる」


 彼は楽しそうに笑う。


「じ、実は、わずかながら当時の資料が、あ、あるんだ」


 初耳だ。

 人類の歴史には『空白の時代』と呼ばれる年代が存在する。


 剣神と魔神がいたとされる時代は神話の物語として今に伝わるが、いわゆる剣魔大戦が終わったあとから剣帝アーサーが現れるまでの間は記録が残されておらず、なにもわからないのだ。

 

 相打ちの形で滅んだ二つの神。そのうち片方が残したモンスターは消えなかった。

 モンスターはあまりに強く、人類を絶滅寸前にまで追い詰める。


 しかしながら、だからといって人類はすぐに滅びかけたわけじゃない。

 当時の人々は長い年月をかけて徐々に生活圏を奪われていったのだ。


 その間の記録がない理由は諸説あって定かじゃない。

 だがホミング氏は『空白の時代』の記録があるのだという。


「ソ、ソーディアンは時に人を導き、時に敵と戦う、け、剣神の御遣いだ。人ではなく、ゆえに人知を超えた、ち、力を持つという」


 知らなかった。

 そんなおとぎ話じみた話があるのか。

 だったらアークスで破壊したあの剣神機はなんなんだ。

 あれこそがホミング氏の話す『ソーディアン』だとでも?


 客観的に見ればうなずけない話ではない。

 彼の言うソーディアンがモンスターに対する兵器だとすれば、おかしいところはないのだ。暴走さえしなければ。


「……は、話せてよかった。そ、そろそろ戻るよ」


 腕時計を見て時間を確認している。彼の時計のおかげで、巻き戻る時間に気づけた。


「いい時計ですね」

「あ、ああ、帝都で流行ってる」

「可愛らしいデザインですが、贈られたものですか?」


 世間話程度に聞いてみる。自分で買う時の参考にしようと考えた。


「い、いや、妻に贈ろうと思っているものだ」


 奥さんがいるのか。指輪をしていないからてっきり独身とばかり。


「どんな奥さんなのですか?」

「つ、妻はいない」


 ん?

 もしかして、亡くなっているのかな。


「つ、妻ができたときに贈るんだ」

「えーと?」

「ま、まあ、恋人を作って結婚まで持ち込む必要が、あ、あるけどな」


 クリアすべき段階が多くないか?

 意味わからん。


 ホミング氏はテントから去った。

 なんか釈然としない。


「あれ? これは、メモ?」


 ホミング氏が座っていたところに紙切れが落ちている。書いてあるのは調査記録の走り書き。

 急いで外へ出て呼び止める。


「忘れものです」

「あ、ああ、す、すまないな」


 紙を受け取った彼は自分のテントへと帰っていった。

 

「……」


 おかしい。

 まただ。

 なにか変だな。

 

(また黙ってどうしたのよ)

(異変が?)

「異変と言うか、『違う』んです」

(違う、とは?)

「気のせいかなー」


 ホミング氏の行動が少しばかり変なんだ。

 ()()()()()()()()()()()()()



 ★★★★★★



 朝――


 寝ていた俺の耳に誰かの大声が入ってくる。


「アーナズさん! 起きてください!」


 モイーズさんの声だ。

 ただごとではない雰囲気に、急いで身を起こす。


「どうしました?」

「いなくなっているんです!」

「いなくなった?」

「ええ! ホミング氏とベルディアさんが!」


 二人が消えた?

 

「す、すぐに来てください。みんなもう集まっています!」

「わかりました。すぐに」


 着替えも中途半端なままに、俺は中央テントへと向かうのだった。

 

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