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支部作りも大変 4 救出作戦

 アークスに存在する悪党の吹き溜まり。通商『悪徒街』。

 太古の昔に作られたという巨大なトンネルを利用した薄暗い場所だ。


「よくもぬけぬけと……顔を出せたもんだなあ。ええ?」


 体を動かしたくなる低音のきいた音楽に合わせて、照明が妖しく明滅している。

 ここは『カムラン・ホール』。悪徒街の中にある酒場である。


 酒瓶の置かれたガラスのテーブルをはさみ、げっそりと痩せた男が殺意のこもった目を向けてくる。

 彼はカムラン。この前に知り合った悪い人だ。


「それとここは未成年出入り禁止だ。そんな子ども連れてくるんじゃあねえ。前にもそう言っただろうが」


 そこは真面目か?

 カムランはディジアさんとイリアさんを見て顔をしかめた。


「まあまあ、元気かなと思ってここに寄りました」

「このざまが元気に見えるのか、おい」


 彼は震える手でグラスを持ち、酒を飲む。喋っているだけでつらそう。

 剣神教団の地下施設まで案内をしてもらった際、俺たちは伝説のモンスター『コンガマトー』に遭遇。カムランはモンスターに捕まり体液を吸われた。

 すんでのところで助けたけど後遺症がひどそう。


「てめえのせいで……歩くのもやっとだ」

「人のせいにしないでほしい。しかもこっちはあなたを助けた。むしろ感謝してしかるべきでは? あ、ディジアさん、イリアさん。お菓子がありますよ」

「いただきます」

「包み紙がきらきらしてるー」

「緊張感を持てよ! このクソガキめ!」


 俺たちのテーブルはいかつい男たちに囲まれている。


「でもみなさん、どちらかといえばニコニコしていますが」

「……」


 カムランが黙り込む。

 代わりに側近の男が教えてくれた。


 悪徳憲兵は悪徒街を放置するかわりに金を要求してきていた。最初はそれでよかったが徐々に要求が大きくなり、最終的にはとうてい支払える額ではなくなっていたそうだ。

 そこへ都合よく俺たちが来て、結果的に倒すこととなった。

 大手を振って悪事ができるとのことだ。


 いやダメでしょう。

 新しく生まれ変わった憲兵隊に捕まるし、冒険者だっているのだ。


「で、何の用だ。言っておくが答えるつもりはねえぞ」


 髪の色がすっかり白くなってしまったカムランは意固地になっている。


「反帝国レジスタンスの情報をください」

「はあ?」

「アークス総監の息子が誘拐されたんです。まさかあなたが指示を?」

「ふ、ふざけんじゃねえ! ようやく歩けるようになったってのにそんなあぶねえ真似ができるか!」

「組織と関わりがあるのですね」

「ねえよ!」

「資金や武器を流しているんでしょう?」


 場合によっては戦闘になりかねない。そう考えて魔法の準備をしたが、そうはならなかった。


「それはずいぶん前の話だ。もう手は切った。あいつら、ガラルだろうがラグナだろうが関係なくちょっかいを出してんだ。街のカタギにも手を出しやがる。面倒は見切れねえ」


 厄介な存在だな。後先考えない暴徒にも等しい者たちか。


「悪事を償うと思って拠点の場所を教えてください。そうすれば――」

「脅しは通じねえよ。それとおれは悪事なんてやってねえ」


 表向きは、だろう。自分で手は汚さない。カムランはそんなタイプだ。


「脅しではありませんよ。誘拐された少年が助かればあなたたちも多少は気分が良いでしょ?」

「……」


 彼はまた黙った。

 やがて、観念したように口を開く。


「反帝国レジスタンスの拠点はこの工業区にある。悪徒街を出て西に二ブロック先。工場に偽装した砦だ」

「目印は?」

「古ぼけた赤い看板がある。字はかすれて読めねえからすぐにわかるはずだ」


 いちおう礼を言って席を立つ。


「待て。てめえ、この街のモンじゃねえんだよな? なんでまたアークスに来た」

「ウチのギルドの支部を作ろうと思って」

「ぶっ!?」


 カムランが酒を噴き出す。


「最悪だぜ……」


 悪人からそう思ってもらえるのなら俺にとっては褒め言葉だろう。

 悪い事したらすぐに捕まえようと思うのだった。



 ★★★★★★



 悪徒街を出てすぐに飛ぶ。

 飛翔の魔法で教えられた場所へと向かった。

 ディジアさんとイリアさんには本と剣の姿になってもらっている。


「あれかな?」


 工業区域のはじっこだ。

 古い赤の看板が見える。

 建物はさほど大きくない。ただ、どんな罠が待っているかわからないし、警戒もしているはずだ。


(さっそくブッ潰すのですか?)

「その前にまずはマクシミリアン君がいるかどうかを確認します」


 ここではない可能性もある。

 空から建物に近づき、≪透視クリアアイ≫を発動。

 

「十人程度か。マクシミリアン君は……いるな」


 二階の奥に腕を縛られた状態で座らされている。

 ひどいことをするものだ。


(どうするの?)

「彼を無傷で救うには囮がいりますね」


 そうだな。

 伯爵にお願いしてみよう。

 彼はマクシミリアン君の実の父親だし、自分の手で助けたいはずだ。


 ここでユーターンし、総監府へと向かった。

 

 で、総監府。

 すぐにダメオン伯爵と会う。


「もう拠点を割り出したと? ふーむ、君は思っていたよりも優秀なのだな」

「お世辞はいりません。それよりも敵の数が少しだけ多い。手が必要です」

「そうか。しかし私の兵にはそこまでの手練れがおらん」

「ともに大戦を戦った人たちではないのですか?」

「私の元で生き残った者らはみな爵位を授与されて、それぞれが自分の領地を持っておる」


 昇進したんだな。そりゃそうか。

 しかたない。

 

「ん? なにを……」


 がっちりと伯爵の肥えた体を抱える。


「しっかり掴まっていてください。飛びます」

「なにを言っているのかわからんが」

「では≪飛衝マジックフライ≫」

「おわあああああああ!」


 少しばかり重いが、いける。

 開けっ放しの窓から出て、天へ。


「ば、ば、ばかなああああ! どうなっているのだ! 離さんか!」

「離したら落ちて死にますよ」

「ひいいいいいいいいい!」


 おじさんの叫びが耳を打つ。

 急ごう、俺の耳がもたない。


 

 ★★★★★★



 問題なく反帝国レジスタンスの拠点前に到着。

 近くの物陰に身を潜める。


「はあっ……はあっ……アーナズ君、なにを」

「静かに。見つかる」

「くっ……」


 建物の外には見張りが二人。

 さっき確認したままなら中には十人程だ。

 腰にはナイフが装備されている。派手な武装ではないけれど、気をつけなければ。


「なぜ私を連れてきたのだ。いや、そもそも空を行くだなどと聞いておらんぞ」

「あの中ではあなたが一番の手練れでしょう。マクシミリアン君も父親が助けに来れば嬉しいはずだ」

「それはそうだが……相談くらいしないか。あと武器をくれ。私は丸腰だ」

「武器はありません」

「はい?」


 伯爵がものすごい間抜け面になった。


「待て待て! 徒手空拳で戦えと?」

「丸腰だからいいんです。伯爵には戦うのではなく、囮を」

「……は、はい?」


 さらに目が点になる。


「武器を持っていたら警戒されます。やつらに近づき、引きつけてください」

「あほか君は。私は伯爵だぞ。いくらなんでも――ハッ!?」


 途中で気づいたか。

 ときおり鋭い。


「伯爵だからこそ、囮として有効だと……言うのではあるまいな?」

「さすがです。おっしゃる通り」

「なぁにがさすがだ! なんという策を! 君は……私を謀殺する気か!」

「疑り深いですね。全てはマクシミリアン君を無傷で救出するためです」


 息子の名前を出すとおとなしくなる。


「いいですか? まずは伯爵自らが交渉にきたフリをして、息子に会わせろと言ってください」

「くっ……やるしかないのか……」

「マクシミリアン君の無事を確認したら、俺たちがやります。伯爵は合図とともに彼の盾になってほしい」

「た、盾!?」

「できるかぎり速やかに制圧しますけど、危険がゼロにはならない」

「もっといい方法はないのか……?」


 強硬策をとるのは、時間がないからだ。


「マクシミリアン君が誘拐されてからどのくらい時間が?」

「すでに丸一日以上たっておる」

「誘拐事件は、時間がたてばたつほど危険が増す。誘拐された者の生存確率がどんどん下がっていきます。焦れたやつらがマクシミリアン君に危害を加えだすのも時間の問題だ」

「なっ!?」


 今ここでやるしかない。


「ディジアさん、イリアさん、すみませんが本と剣になって伯爵にくっついてください。俺が魔法を使うと同時にしかけてほしいんです」

「……」

「……」


 なんだ。

 急に黙り込んだぞ。


「どうしたのですか」

「知らない人についていったらだめだとシントは言っていました」

「うん、言った。知らない人にはくっついていかない」


 えー……


「そう……ですね。わかりました」


 絶対にくっついて行きたくない。

 そんな意思を感じ取ったので別の作戦としよう。





 

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