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シスター誘拐犯

 前方に憲兵。

 右方には神官戦士団。

 左方にも憲兵。しかも本隊。

 後方は冒険者の集団。


 控えめに言ってもかなりの危機的状況だ。

 完全に包囲された俺たちはじりじりと詰められた。


「シントさぁん……これってピンチなんじゃ」

「なにか策があるのでしょう?」

「言って、シント。サナトゥスも、いける」


 ここでおっぱじめることはできない。

 事情を知らない憲兵だっている。真に対処すべきはソーディアンだ。


 いよいよもって、大仕事になりそう。

 だったらこちらも相応の増援をさせてもらおうか。

 なのでちょっとだけ時間を作る。


「シスター・セレーネ、少しだけ彼らを止めてください」

「へ?」

「俺はみんなに話をします。その時間がほしいんです」

「あ、は、はい」


 シスターはおろおろしながらも、前へ出た。


「おお、シスター・セレーネ。無事か。早くこちらへ」

「ガブリエル司教、その前に教えてください。あの巨人はあなたが作ったのですか?」

「な、なに?」


 直球の質問だ。

 顔色を変えた司教は俺を殺意のこもった目でにらむ。

 心中を代弁するのなら、余計なことを言いやがったな、か。


「それと、わたしがしていた治療のお金を請求していたというのは真実ですか?」

「なにを言う! そ……そのような……いいからこちらへ、シスター」

「質問に答えてください。みなさんを騙していたのですか?」

「ぬう……」


 司教はしどろもどろになった。

 シスター・セレーネと言い合っている内に、作戦を話そう。


「ディジアさん、≪空間ノ跳躍(ジャンプ)≫をお願いします」

「ええ、いつでも。場所はどうするのですか?」

「ダイアナとアイリーンを連れてフォールンまで」

「シント、あなたは?」

「俺は行きません」

「!!」


 驚いても滅多に表情を変えないディジアさんが、顔を歪ませた。


「わたくしたちだけ逃げろというのですか」

「違います。メンバーを全員連れてきてほしい」


 解決するにはみんなの力が必要だ。


「でも、だめです。置いていくなど」

「これはディジアさんにしかできないことなんです」

「……シント、そんな顔しても……うう」


 困らせるつもりで言ったんじゃない。俺には俺の役割がある。


「ダイアナ、アイリーン、ラナに伝えてくれ」

「う、うん」

「なにをですかぁ?」

「ガブリエル司教はフォールン出身だ。彼の過去を調べてほしいって。できれば最優先で」


 二人に指示を出して、ラナを手伝うようお願いした。

 時間が限られている。人手は多い方がいい。


「シント! あなたを置いていったりはしません!」

「いいえ、全員がフォールンへ行けばアブラムさんやビダルさんに矛先が向きかねない。囮が必要なんです」

「ディジア、わたしからもお願い。あなたのぶんまでシントの面倒を見るわ」

「イリア……」


 できればイリアさんにも行ってほしかったが、言い合っている時間はない。


「みんなを連れて夜に再びアークスへ来てください。集合は六時間後。場所はダムド商会の跡地にしましょう。いいですね?」

「……わかりました」


 ちょっと拗ねてるけど、彼女はうなずいた。


「俺はここにいる人たちを引きつけつつ、ソーディアンを探します。それではディジアさん、頼みました」

「必ず来るのですよ」

「もちろんです。俺が約束を破ったことはないでしょ?」

「シントったら……行きます。≪闇空ノ跳躍(ジャンプ)≫」


 黒い魔力に覆われ、ふっ、と三人が姿を消す。

 ここに残ったのは俺とイリアさんとシスター・セレーネだ。


「アーナズ君、やはりあの娘は『闇ノ使徒』だな?」

「まだそんなくだらないことを。いい加減にしたらどうです?」

「ま、待て! グリード団長! 今のはなんだ? 消えただと……」

「面妖な術を使う。全隊、シント・アーナズを捕らえ、聖女をお救いせよ」


 憲兵長官が指示を出す。

 そこで俺が手を挙げた。

 全員の注目が集まる。


「貴様、命乞いでもする気か?」

「ガブリエル司教、それは違います」

「ではなんだと言うのだ、罪人めが」

「罪人はあなただ。そしてここにいるほとんどの者がそう」


 あえて大声で話す。


「今ならまだ間に合う。こんな無駄なことはやめて、暴走した剣神機を止めるんだ。ヤツはどこかにいて力を蓄えている。また暴れ出すかもしれない」

「は、はあ? なにを……」

「悪事をやめるんだ。街を守れ」

「ふざけるな、犯罪者め!」

「アーナズ君、なにを言っているのかね。悪あがきはやめることだ、ぬっふっふっふ」


 あることないこと、全部俺のせいにして罪を着せるつもりだ。


「得体がしれん男だ。さっさとやれい」

「待ってください、長官。彼は重大なことを――」

「副長官、口をはさむな。さっさと逮捕せんか」

「やめてください! 彼は悪い人ではないのです!」


 シスター・セレーネがかばってくれるが、逆効果だろう。

 俺に対し、様々な感情がぶつけられる。

 殺意、憎悪、疑惑に困惑。負のオンパレード。

 

「これが最後だ。もしも言うことが聞けないのなら――」

「どうするというのかね」


 そばにいるイリアさんを右腕で抱き上げ、シスター・セレーネを左腕で抱き寄せる。


「アーナズさん!? い、いきなりなにをするんですか!」


 抗議についてはあとで聞こう。


「シスター・セレーネはもらった。せいぜい頑張って追ってこい」

「な、な、な……」


 シスターが俺を見上げて口をぱくぱくさせる。


「今回はシントが悪役みたいだね!」

「振りです。イリアさんもお願いしますよ」

「わかった! シスター・セレーネはもらったよ! じゃあね! おじさんたち!」

「なに!? どうする気だ!」


 イイ感じでみんな怒っている。さすがはイリアさんだ。


「アーナズ君、さきほどの術を使うつもりかな? させんよ」


 神官戦士団がボウガンを取り出した。

 ≪空間ノ跳躍(ジャンプ)≫は使わない。

 行くのは――空だ。


「しっかり捕まっていてください。≪飛衝(マジックフライ)≫」


 足から魔力の衝撃を発動。一気に上空へ昇る。


「えええええええええええええええ! そ、空あああああ! 高いですーー!」

「シスター、舌を噛まないように」

「だってええええええ! ひいいいいいいいいい!」


 噴水前に集まっていた男たちがあっという間に点だ。

 これから六時間、逃げ回る。

 同時にソーディアンを捕捉し、破壊だ。


 さて、どこに行こうか。

 やつらは血眼になって俺を探すだろう。


 ガブリエル司教にグリード団長。憲兵長官と副長官。さらには俺を狙う冒険者たち。そして、剣神機ソーディアン。

 倒すべき敵を集めて、まとめてぶっとばす。




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