ファミリアバース 21 食事中はお静かに
ガラルホルン家の第一公女アイシアを振り切り、果樹園にたどり着いた俺たちは、スーナさんを交えて、事情を説明した。
初めは害獣退治だったこと。そこでラナと出会い、遺跡で冒険したこと。そしてゼロセブンさんと共闘したことを。
スーナさんは驚きながらも話を最後まで聞いてくれた。
「そう……ラナちゃん、お腹が空いていたのね。なんてこと。これをお食べ」
「お、おばあちゃ~ん」
泣いて抱き着くラナ。微笑ましい光景だ。
「ウィリアム。娘を放ってアーナズさんを襲うだなんて、なんて恥ずかしいことを。反省しなさい」
「……いや、すまん」
「いつまでもフラフラしてないで、家を持ちなさい。お嫁さんはどこ?」
「結婚はしていないんだ」
ゼロセブンさん、改め、ウィリアムさんはバツが悪そうに話し始める。
奥さんになるはずだった人は、何年か前に病気で亡くなった。彼はスパイという仕事柄、結婚に踏み切れず、結局ここまで来てしまったそうだ。
「だからその……ラナをだな」
「それはいいけど、あなたはどうするの?」
「なにも考えていない。行く宛もない。どうするかわからない」
ウィリアムさんはガラルホルン家、帝国、もしかしたらラグナ家にも追われる。
ここだって狙われるかもしれない。
「ならしばらくここにいて、ちゃんと考えなさい」
スーナさんの言葉には厳しさと優しさがあった。
有無を言わせない母親の迫力もあってか、彼は観念してうなずく。
「アーナズさん、ほんとうにありがとう。あなたがいなかったらどうなっていたか」
「いえ、俺の方こそあんな美味しいリンゴをいただきました。そのお礼です」
そう言うと、スーナさんは嬉しそうにして、カゴいっぱいのリンゴをくれた。
全部は持ちきれないし、申し訳ないので、二つ……いや、三つだけいただくことにする。
「ウィリアムさんとラナはしばらくここにいてくれ」
「しかし……」
「すぐに話をつけます。ウィリアムさんはここで二人を守ってほしい」
もしかしたら、ガラルホルン家やラグナ家の人たちがこの果樹園に来るかもしれない。
だから、アイシアは俺が一人で相手をする。
「終わったらまた来ます」
こうしていったん別れを告げるのだった。
★★★★★★
「やっぱり美味しいなー! 手が止まらない!」
先日訪れた食事処で料理を堪能する。
お昼時で賑う店内には活気が溢れていた。
またもやメニューを上から下まで頼み、食べ尽くす。
この世にはたくさんの美味しいものが溢れていて、感動するしかない。
昨日はスーナさんのところから宿に直行した。すぐに寝て、起きたらなんとお昼。
丸一日寝てしまったのだった。
食べ終わったら冒険者の集会所に行き、害獣退治の顛末を報告するつもりだ。
そうして舌鼓を打っていると、ものすごい勢いで店の扉が開いた。
――来たか。
華麗な衣服を身に纏ったガラルホルン家の第一公女アイシア。
お供の四人を引き連れ、俺の座るテーブルまでやってくる。
「ものども! 控えよ! ガラルホルン家の第一公女アイシアさまなるぞ!」
お供の一人が大声で言うと、食事中の人たちはその場で跪いた。
いい加減にしてくれないかな、それ。みんな楽しく食事をしているのに野暮だろう。
「食事中だからやめてくれ。人に向かって大声をだすのはよくない」
「なっ……貴様っ!」
四人が剣を抜きかける。
それを止めたのは、アイシアだった。
彼女は静かな物腰で、テーブルの対面に座る。
言葉はない。
怒っているのかな? うん、怒ってる。
「ねえ~ シント~ 昨日のアレってな~に?」
アレというのは≪空間ノ移動≫のことだろう。
「魔法。≪空間ノ移動≫って言うんだ」
食事をしながら答える。
「あなたは魔法を使えないはずでしょ~ トリックは~?」
「タネも仕掛けもございません。魔法で君を移動させた」
「はあ~~~? そもそもそんな魔法あるわけないもの~」
「それは君が知らないだけでは?」
会話をしていると、空気がピリピリしてくる。彼女のお供たちは顔を引きつらせているし、アイシアからは圧力が増した。
これは闘気ってヤツか。
なるほど。改めて向かい合うと、押し潰されそうになる。
「食事中なんだ。終わったら話を聞くから外で待っていてほしい」
考えてみれば二日ぶりの食事だ。邪魔されたくない。静かに食べたい。
アイシアはさっと髪をかき上げた。
そして――
「ふざけないで~!」
勢いよくテーブルの上を払う。
まずい! これでは頼んだ料理がダメになる。
即座に≪次元ノ断裂≫を発動。
払いのけられた料理の数々が異次元の穴に吸い込まれ、逆側に作った穴から出てくる。
皿は無事に着地。
「あれ~? なんで~?」
払われる前と同じ状況になったテーブルで、俺は食事を続けた。
うん、美味しい。
「姫さま! ここは我らが!」
「このような不埒者は退治してくれる!」
いきり立つお供の人たち。
呆れるな。
彼らのせいで他のお客さんたちが帰ってしまった。給仕のお姉さんも怖がっている。
なんの権利があって日常を壊すのか、と問いたい。
「≪風纏之陣≫」
騒ぎ立てるお供の男に魔法をかけた。
「かっ……」
頭の周りにだけ風を纏わせて、声を出させないようにする。
食事中はお静かに。
「がはっ! ひゅー……ひゅー……」
魔法を解くと静かになる。
これでよし。
「アイシア、待てと言ってるだろう」
「……あんまり調子に乗らないで~ なんだったら町ごと潰すわ~」
どうしてそうなる。
「脅し?」
「そう、脅しよ~」
さすがに一般人へ手は出さないと思うが、脅されると心がざわつく。
「なにが目的だ?」
「スパイを引き渡して~ あとあなたも連れてくわ~」
ブレないな。
行く気なんてないし、ウィリアムさんやラナには手を出させない。
「君の言うことを聞く気はない」
きっぱり断ると、アイシアが目を細くする。優雅な振る舞いで椅子に背を預け、俺をじっと見てきた。
「すいぶんと自信たっぷりじゃない~?」
「そんなことはないよ。いつもどおりだ」
「ふ~ん……そこまで言うなら~」
彼女が妖しい笑みをする。
なにをする気だ?
「勝負よ~」
勝負?
「わたしが勝ったら~ ペットになってもらうわ~」
「俺が勝ったら?」
「ぷぷ~ ありえないけど~ 言うこと聞いてあ・げ・るぅ~」
思いがけず交渉が成立した。
説得の方法を考えていたけれど、これならわかりやすくていい。
超名門の大貴族。ガラルホルン家の第一公女アイシア。【神格】に選ばれた超人。
かつてない強敵だけど、やってみようと思う。




