表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
259/517

ダムド商会

 夜の教会での潜入調査は、最後こそ妙な雰囲気となったものの、情報を得ることができた。

 その中の一つに、ガブリエル司教と取引をしていたという『ダムド商会』の名がある。


 翌日。

 アークスの外れにある工業区域まで俺たちは来ていた。

 資材を扱う会社は全てこの区域に集まっているとの話なので、朝から全員で来たのだが――


「ダムド商会が、ない?」


 この辺で働いているというおじさんに道を聞いたところ、まさかまさかの話だった。


「あそこは潰れたよ」

「潰れた……いつごろか教えていただけませんか?」

「あー、いつだったかな。たしか、去年の夏ごろだったはず」

「そうでしたか。場所はご存知でしょうか」

「それなら、ここから遠くねえよ」


 親切なおじさんでよかった。

 ダムド商会の跡地を教えてもらい、改めて礼を述べる。


「けどあんまり近寄らねえ方がいい。あぶねえからな」

「はい。ありがとうございます」


 アークスの治安が悪いのはわかっている。気をつけていこう。


「シント、難しい顔をしていますが、だいじょうぶですか?」

「話しに聞きに行くのに、潰れたんじゃね」


 ディジアさんとイリアさんが俺の顔を見上げて言う。

 計算が狂ったのはたしかだ。

 ダムド商会で教団との取引について聞くつもりが、いきなりくじかれた。


「シントさん、出直しですかぁ?」

「それとも、行って、みる?」

「そうだね。跡地に行ってみようか」


 なんでもいいから手がかりがほしいと思う。



 ★★★★★★



 教えてもらった跡地にはまだ建物があった。

 取り壊されてはおらず、朽ちるのをただ待っているような状態だ。


「誰かいるな」

「話し声が聞こえます」


 がらんとした広い建物の中で、陽気な声が響いている。

 従業員がまだ残っているかもしれない。


 いちおうの警戒をしつつ、中に入ってみる。

 奥の倉庫らしき場所にいたのは、二組の男女だった。


 若い男性二人が、ボールを投げて遊んでいる。

 少し離れたところで、今どきの女性二人が木箱に座り、退屈そうにそれを眺めていた。


「タッくーん、誰か来たよー」

「あん?」


 バンダナをした男性がこちらを見て目を細める。

 

「なんだおまえら」


 こちらを怪しんでいる目だ。緊張しているようにも見える。


「あのう、ここってダムド商会ですよね? 従業員の方ですか?」


 思い切ってストレートに聞いてみる。


「いや、ちげーけど」

「ここでなにを?」

「遊んでるだけだよ」


 そうだったか。従業員だと期待したが、普通の若者らしい。


「おまえらなによ? 憲兵……には見えねえけど」

「冒険者です。よければ話を聞かせてもらえませんか」

「なんだよ、ビビって損したぜ。追い出されるかと思った」

「なに言ってんのタッくーん、こんな小さい子連れてる憲兵なんているわけないじゃーん」

「おまえビビりすぎ」

「だよねー」

「う、うるせーよ!」


 とても呑気で楽しそう。こっちも緊張が解けた。

 この四人の男女は、いわゆる暇を持て余した若者であり、たまにここへ来ては遊んでいるのだという。


「ここには誰も近づかねえかんな。おかげで貸し切りの秘密基地ってわけ」

「誰も近づかない?」


 さっきのおじさんも似たようなことを言っていた。


「ここねー、幽霊が出るって噂なんだよ」

「そうそう、ここの社長、首を吊ったんだって」


 それで誰も来ないのか。

 しかしこの世に幽霊はいない。いるのは魔物だけだ。あとは――


「え? わたしじゃ、ないよ?」


 ダイアナが持つ【神格】疑剣サナトゥスは、亡くなった人間の記憶を元に、具現化させることが可能だ。


「首を吊ったというのは?」

「理由までは知らね。商売が失敗したんじゃねえの?」


 タッくん、呼ばれた若者はとても気さくで話しやすかった。他の人たちもそう。

 しかしながら、これ以上の情報はなさそうだ。

 建物の中には目立ったものがなく、何かあるとは思えない。

 

「しらみつぶしに探すしかないか……いや、幽霊……」


 再びダイアナに目を向けた。


「ダイアナ、サナトゥスでなにかできないかな」

「うん、もしかしたら、やれるかも」


 思いつきだが、彼女はすぐにわかってくれた。

 サナトゥスを抜き放ち、集中を始める。


「なんだ? なにすんだ?」

「えー、なになにー?」


 タッくんたちは興味津々だ。

 そして、変化が訪れる。

 疑剣サナトゥスの呼び出しに応じて、半透明の人間が俺たちの前に現れた。


「へ……?」

「う、うそ! ほんとに幽霊……」


 若者たちが腰を抜かしてその場に尻もちをつく。

 

「成功だな。ありがとう、ダイアナ」

「う、うん、お話、聞けると思う」


 声もなく呆気に取られるタッくんたちはひとまず放っておこう。


「すみません、あなたはダムド商会の人ですか?」

「……そう、だ」


 だいぶ声が聞き取りづらい。


「教団と魔晶石の取引をしたのはあなた?」

「……違う。おれは……」


 見た目からして、そこまで老けていない。三十代半ばといったところか。


「あの野郎……カムラン……あいつが、おれを、騙した……」


 騙した、というのは聞き捨てならない。

 さらに話を聞いてみる。


 ダムド商会は主に建築用の資材を扱う会社だった。

 この人は親友のカムランという男とともに小さな商会を大きくし、順調だったという。

 しかしある時、突然ラグナ家の者たちが来て、莫大な金を請求されたという話だった。

 しかもユリス・ラグナの使いと名乗ったそうだ。


 ここでユリス従兄さんか。

 いま聞いている話は、俺と戦う少し前のことだろう。


「商会を担保に……あいつは魔晶石を仕入れた……商会を売っただけでは支払いが足りず……破産、した……」


 なんということだ。

 

「あなたはそれを知らなかった?」

「……後の祭り……あいつはおれに秘密で……ゆるせねえ……ゆるせねえ……」


 なにもかもを失ったこの人は、首を吊った。

 あまりにもひどい結末。やるせない気持ちになってしまう。


「カムランがどこにいるかは知っていますか?」

「あの野郎は……持ち逃げした金で……成り上がった……『悪徒街あくとがい』で……ゆるさねえ……どこまでも……恨みぬいて……アアアアアアアアアアアア」


 怨嗟の声とともに、彼は消え去った。

 同時にダイアナが大きく息を吐く。

 あまり長くは具現化できないようだな。


「シントさん……? ダイアナちゃんはなにをしたんですかぁ……?」


 アイリーンが泣きそうだ。

 見るのが初めてだから、無理もない。


「あとで説明するよ。それよりもタッくんさん」

「変な呼び方すんなよ……まあいいけど……」


 彼らは状況がよくわかっていない。話すと長いからいまは聞きたいことだけを聞く。


「悪徒街というのは?」

「……あ、ああ。ここから少し行ったとこにばかでけえ水路がある。いまは使われてねえ、昔の下水道だ」


 そこがカムランという男の根城か。

 是非とも話を聞かなければならないだろう。


「お、おい、おまえ、シントっつったか。まさか行くなんて言うんじゃねえだろな」

「やめなよー、マジでやばいって」

「やばい?」

「知らねえのかよ! あそこはな、ギャングにマフィアに殺し屋……そんな連中の吹き溜まりなんだぜ! 行ったら殺されちまう!」


 悪徒街という名に相応しい場所みたいだ。


「心配してくれてありがとう。それでは」


 ニッコリと笑いかけて、早々に外へ出る。


 せっかくだから行ってみようじゃない、悪徒街。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ