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奇跡の聖女

 聖女があらわれたことで、いったん静まり返る教会内。

 彼女の一挙一動に注目が集まる。


 中央の祭壇前に立った聖女は、両手で杖を持ち、祈りを捧げた。

 そして振り向き、フードを取り払う。

 この場にいる人たちからため息が漏れた。

 

(きれいな方ですね)

(あ、でも耳が尖ってる。アリステラと一緒)


 褐色の肌に、紫の色合いが濃いダークヘア。長く伸ばした髪が美しくそよ風になびく。

 明るいブラウンの瞳が、集まった人々を見つめた。顔のパーツは黄金比かつ左右対称。かなりの美貌だと思う。

 そしてイリアさんが言った通り、ぴんと耳が尖っていた。

 聖女はエルフだったのか。


「みなさま。お集りいただいて嬉しいです。微力ながらみなさまの健康を手助けいたしますね」

「おお! 聖女様!」

「ばんざい! 聖女様ばんざい!」


 明るくて優しそうな笑顔だった。

 歳は俺とそう変わらないくらいだろうか。想像していたよりも若い。


(……)

(……)


 ディジアさんとイリアさんは黙り込んでいる。


「では先頭の方、こちらへ」

「は、はいい」


 足を引きずる女性が前に出る。

 聖女は女性の足を包み込むように手の平を当てた。


「――!?」

(シント)

(これは)


 驚いて口から内臓が出るかと思った。

 魔力。しかも今まで見たことのない、神々しいものだ。


「ああ……暖かいわ。足の痛みが……引いて」

「もう少しじっとしていてくださいね」


 聖女が行う治療は、おそらく魔法。

 いまだかつて存在したことのない『回復魔法』だと思う。


 心臓がバクバクしてきた。

 治癒をされている女性の足は血色が良くなり、やがてしっかりと伸びる。


「歩けますわ! ああ、なんてことでしょう!」

「しばらくは走ったりしないこと。怪我には気をつけてくださいね」

「ありがとうございます! 聖女様! ありがとうございます!」


 喜びに満ち溢れる女性は、聖女の手を取って何度もお礼を言う。

 それを教団員が引きはがして、次の人間を通した。


「驚いたな。詐欺やぺてんなんかじゃない」


 回復魔法は存在しないとされてきた。

 歴史上、回復や治癒の【才能】が発現したことはない。


 つまり、史上初の極めて希少な【才能】となるだろう。

 信じられない。

 思わず口を手で押さえる。


(シント、見て)

「イリアさん?」


 聖女は変わらず治療を続けていた。

 ちゃんと見ている。


(違います。あの杖……)

「ディジアさんまで」


 なんの変哲もない木の杖だろう。だが、聖女が回復魔法を使う一瞬だけ、魔力のたかぶりを感じた。

 即座に≪探視サーチアイ≫を発動。

 

「なんてことだ」


 俺が目撃したのは、杖に内包する魔力。

 木の杖に隠された、あまりにも莫大な量の力。


 一度気がつくと冷や汗が止まらなくなった。

 まるで、【神格】にも匹敵する――


「違う! まるで、じゃない!」


 まさか【神格】だっていうのか?


(なんか、見てると変な気分になるわ)

(あれだけの魔力……)


 ディジアさんとイリアさんが本と剣の姿でプルプルしている。

 待て。落ち着け、俺。

 ほんとうに【神格】かどうかはわからない。

 俺もなんだか震えてきた。

 と、ここで誰かが声をかけてくる。


「君! そこの君!」

「動かないで」


 白ローブを着た男女がこちらへやってきた。

 

「剣と盾を持った君だ。そこでなにをしている」

「怪しいわね」


 俺のことを言っているようだ。

 いきなり初手から怪しまれてしまった。

 しかたない。


 柱の影に身を移し魔法を使う。

 使用した≪光迷彩(カムフラージ)≫は姿を限りなく見えにくくする光魔法だ。


「……あれ? いないわ」

「たしかにいたはず……」


 教団員は俺を見失った。

 今の内にここを離れよう。

 俺はともかく、ディジアさんとイリアさんが変だ。


 見つからないよう避難場所を探す。

 すぐに古ぼけた扉を見つけた。


 みんな聖女に目が釘付けだ。今なら気づかれずに入れるだろう。

 静かにドアを開けて身を滑り込ませる。


「誰もいない。少し休もう。ディジアさん、イリアさん、だいじょうぶですか?」

(……ざわざわするわ)

(心が乱れます、シント)


 杖の魔力に当てられている。これは避難した方がいい。

 そう思い、≪空間ノ跳躍(ジャンプ)≫を使って民宿に戻ろうとした時だ。


「さっさと入りたまえ」

「なんだよ! なにすんだ!」


 放り込まれるようにして、男性が中へ入ってくる。

 さっき会話した人だった。腕の骨折は治っているようだ。


 さらに白ローブを着た体格のいい男が二人。

 倒れ込む男性に対し、ニッコリと笑いかける。


「こんなところに連れてきてなにするつもりだ!」

「ああ、お布施をいただきたく」

「お、お布施?」

「ええ、そうです」


 彼らは姿を消したままの俺には気づいていない。

 避難するために入ったけれど、思いがけず手がかりが掴めそうだ。


「腕が治ったでしょう?」

「だったら払ってもらわねえとなあ?」

「だって……施しって」

「無料だなどと誰も言ってないんですが。なあ?」

「ああ、言ってない言ってない」

「そんな……」


 アブラムさんから聞いた話そのままだ。


「100万アーサルいただきましょうか」

「100万!? そんな金あるわけない!」

「では家でもなんでも売ればいい」

「な、なにを……」


 ひどい話だ。

 やはり、無料と偽って金を取り立てている。

 

「ふざけんな! こうなったら憲兵に――ぐわ!」


 抗議は拳で黙らされた。

 男性の口から血が飛び出る。

 ≪光迷彩(カムフラージ)≫を解除。

 続けて魔法を発動。


「≪衝破ショウハ≫!」


 衝撃波で白ローブの男たちを吹き飛ばす。


「おがあああああああ!」

「ぐえはっ!?」


 棚や机を巻き込み、壁にめり込む。


「へ? な、なんで……」

「≪空間ノ跳躍(ジャンプ)≫」


 殴られた男性を空間移動。これで難を逃れられるはず。

 自分も移動させたいところだったが、音を聞きつけて教団員が入ってくる。


「なんだ!?」

「どうした!」


 再び≪光迷彩(カムフラージ)≫を発動し、部屋のすみで息を止めた。

 

「おい! やられてるぞ!」

「どうなってる……? この有様……爆弾でも使ったのか?」

「しっかりしろ! なにがあった!」

「賊か? 奥の殿を固めろ! 司教さまにもご報告を!」


 倒した二人はしばらく目覚めないだろう。

 今の内に部屋を出る。


 男たちの隙間を強引に行くしかない。

 さっと抜けてすっと出る。

 脱出は成功。このまま外へ行こう。


「さっさと出よう」


 そうして≪光迷彩(カムフラージ)≫を解いたあと、突然声をかけられる。


「待って、そこの方」


 俺を呼びとめたのは聖女だ。

 注目が一気に集まる。

 少しまずいかも。


「手から血が出ています」

「あれ?」


 どこかで引っかけたか。

 切り傷ができている。


「こちらへ。治しますので」

「いえ、このくらいは平気ですから」

「だめです。化膿したらどうするんですか」


 聖女が俺の方へ向かってくる。

 誰も止められない。


「さあ、手を」


 従うしかないか。

 手を差し出すと、両手で握られる。

 暖かい手だ。

 

「剣神さま、わたしに力をお貸しください……≪リジネ≫」


 詠唱。

 魔法なのは間違いない。

 優しい光とともに手の傷がゆっくりとふさがっていく。


「はい。これでだいじょうぶですよー」

「ありがとうございます」

「冒険者の方、でしょうか?」

「そんなところです」


 聖女が顔を近づけてくる。

 

「あなたの魔力……ずいぶんと変わっているんですね。それに、ちょっと不思議なものが二つ?」


 ディジアさんとイリアさんに気がついている?


「聖女様!」

「みな待っております」

「あ、はい。ごめんなさい」


 急かされて彼女は戻った。

 俺も何か言われる前に出よう。


「それにしても……」


 ほんとうに回復魔法だったとは。

 聖女に秘密があるとすれば、あの杖か。


 そして、暴力。

 詐欺は確定的。あとは証拠をつかもう。


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