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シント・アーナズ【エブリデイ】4 問題児?

 テイラー夫妻、アイリーン・ハサウェイの三人は採用。

 これから来るリーア・ナイトレイという人が最後の一人だ。


「こんにちわー」


 約束の時間よりも少し早くリーア・ナイトレイさんはやってきた。

 赤みがかったブラウンのショートカット。猫を思わせる目が印象的だ。

 身長は178センチの俺と同じくらい。いかにも俊敏そうで、これもまた猫科の動物を思わせるしなやかな足取りだった。

 持っている長い得物に目が行く。

 槍、なんだろうけど、袋がかぶせてある穂先は横に広い。初めて見る形状だ。


「リーア・ナイトレイよ」

「シント・アーナズ。ギルドマスターです。お座りください」


 感じる雰囲気は強者のものだ。

 かなり強いという話だし、採用したいところだった。


「あなたがヒヒイロカネ級の?」


 いきなり質問か。

 物怖じしない性格なんだろう。


「ええ、そうです」

「へえ……」


 目つきが鋭くなる。俺を探っているようだった。


「ではさっそく話を聞かせていただいても?」

「もちろんよ」

「まずは一つ。前に所属していたギルドをやめたそうですが、その理由を教えていただきたい」

「……いきなりね。調べたの?」

「ええ」


 ナイトレイ嬢から発せられる圧が増した。


「言わなきゃだめ?」

「そうですね。ぜひ」

「そう……」


 なにやら事情がありそうだ。

 少し待つと、彼女は話し始めた。


「喧嘩みたいなものよ」

「ただの喧嘩ですか?」

「いいえ、ちょっといろいろあって」

「そのいろいろが聞きたい」


 大事なことだ。

 彼女は嫌そうにしながらも聞かせてくれた。


 冒険者として活動を始めたナイトレイ嬢は、【才能】と体格、武技の素質に恵まれたおかげでめきめきと頭角を現し、かなりの早さでシルバー級となる。

 そこで、とあるギルドにスカウトされたのだという。


「破格の給料だったから、ソロでやるよりもいいと思ったの。でもそれが間違いだった」


 契約書をよく読まずにサインした彼女は後悔することとなる。

 数々の依頼を達成しているはずなのに、いつまでたっても等級が上がらなかった。不審に思ったナイトレイ嬢は単独で冒険者庁に問い合わせたところ、ライセンスには昇級のポイントが一切入っていなかったのだという。


「驚いたわ。調べたら、ギルドメンバーのポイントが全部マスターのライセンスに入っていたのよ」


 話を聞いて俺も驚いた。

 メンバーがする仕事の成果は、全てそのギルドのマスターが達成したことになっていたのだという。


「ギルマスの等級はミスリル。でも仕事をしている気配がなかったからおかしいと思ったのよね」

「実力以上の箔をつけたのか」

「そう。マスターのランクが上がれば有名になって依頼も増える。ミスリル級になんてなれば周りからちやほやされるしね」


 俺、ちやほやされた記憶がない。


「給料が高かったのは不満を言わせないため、ですね」

「それも合ってる。契約書のすみに小さく書いてあったの。抗議したらそれを盾に言われたわ。高い給料をもらっておいていまさら言うなってね」


 ここでナイトレイ嬢の顔が曇る。


「ギルドメンバーにも協力をお願いしたのよ。でも逆にやめろって言われた。みんなも苦しんでいるって思ったのに、違ったみたい」


 その人達は高い給料をふいにしたくなかったんだろうと思う。


「それでもめたのよ。いろいろなところにかけ合ったけど、その時の冒険者庁にギルマスと結託してる嫌な奴がいて、最悪だった。たしか……ゲース男爵とかいう男よ」


 ああ、あの人か。

 俺やミューズさんに絡んできた変な人だ。


「彼は捕まりましたよ」

「知ってる。でもあんまりスカッとしなかったわね。なにせこっちはもめたのが原因でどこのギルドにも入れないし、依頼もあまり受けられないし」


 腕が立つのにシルバー級どまりなのはそれが原因か。


「それがもめた原因で、ギルドを辞めた理由よ。これでいい?」

「ええ、ありがとうございました」

「なにか言いたそうね」

「まあ、そうですね」


 また彼女からの圧が増す。だいぶ攻撃的だ。


「俺はナイトレイ嬢が正しいと思いますよ」

「……そ、そう?」


 肯定されるとは思わなかったようだ。


「そのギルマスは冒険者の風上にも置けない男だ。人間としても。あなたがそのまま立場を受け入れたらずっと搾取され続けたはず。戦うのがいい」

「そんな風に言われるとは思わなかったわ」

「だが、やり方を間違えた」

「――!?」


 卑劣な手を使う男に真正面から挑んでも不利だ。

 

「証拠を固め、しかるべきところに相談し、言い逃れができなくなったところで完膚なきまでに叩く。そうするべきだった。相手にするにはどうあがいても割に合わない、と思わせるまで徹底的に」

「それができたら誰も苦労はしないわ!」


 ナイトレイ嬢が大声を上げたことで、一瞬、ミューズさんやディジアさんとイリアさん、そして説明を受けていた新メンバーのテイラー夫妻やハサウェイ嬢の目が集まる。


「それでもやらなければ覆せない」

「――っ!」


 少しばかり攻撃的だが、悪い人間じゃない。不正を暴こうとしたし、仲間のことも考えた。


「では次の質問です。ウチのギルドへ応募した理由を教えてください」

「……」


 彼女は口をとがらせている。


「ここって女性冒険者限定でしょ?」


 そーなの?

 俺、ギルドマスターなのに初めて聞いた。


「できたばかりだっていうし、また一から始めるにはいいと思ったわ」

「なるほど。でもウチは女性限定じゃないですよ」

「噂になってたけど」


 うーむ。

 たしかにウチは女性の比率が高い。

 男性のメンバーは俺とアミールだけ。今回新たに加わるダグマさんを入れても三人だ。一方で女性陣はアニャさんとアイリーンさんが加入し、九人となる。


 話がそれた。

 ナイトレイ嬢は採用しようと思う。

 きっと彼女はちゃんとした場所で仕事がしたいのだろうと感じた。

 ウチも創業から一年近く。『ちゃんとしたところ』と自分で言ってもいいよね。


「ねえ、ギルドマスター」

「質問ですか?」

「そういえばあなた、あの時どこにいたの?」

「どこ、とは?」

「フォールンの大穴事件の時」


 黒獣との激戦中、俺は遺跡の中にいた。その時のことを言っているのだろうか。


「……私のことを調べたんなら、こっちも言わせてもらうわ。カサンドラねえさんとアリステラ姐さんとは一緒に戦ったけど、あなたはいなかったわよね?」


 目つきがより鋭さを増す。

 前のギルドマスターと同じではないか。そう疑っているのがわかった。


「遺跡の中で別の敵と戦っていました」

「ほんとう? ちょっと信じられないわ」

「事実です」


 言っても信じないか。しかたない。


「証明してみせてよ」

「証明ですか」

「姐さんたちはたしかに強いわ。でも実際に手合わせしてみて……悪いけど、ここじゃ私が一番強いと思うの」


 すごい物言いだ。

 どこかの誰かを思い起こす自信と勝気。


「まるでフランみたいだな」

「誰?」


 今ごろフランはくしゃみでもしているんじゃないかな。


「ヒヒイロカネ級が本物だって証明してほしいのよ」

「じゃあやりましょう」

「ほんと?」


 彼女の瞳が獲物を狩ろうとする肉食動物のようにぎらりと光った。


「ええ、もちろんです」

「私が勝ったら……ギルドマスターとは言わないわ。副マスターにしてよ」

「検討しましょう」

 

 この方がシンプルでいい。

 ちょうど実力のほどが見たいと思っていたところだ。


 ナイトレイ嬢が前衛をこなせるのなら、ウチのギルド戦力はさらに上がる。

 みんなの負担も減るだろう。


「では庭へ」


 立ち上がりかけたところでミューズさんが止めてくる。 


「ちょっと、シント」

「だいじょうぶ。ナイトレイ嬢と少し訓練をするだけです」


 たまにはこういうのもいいだろうと思う。



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