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ファミリアバース 19 『波濤』。そして。

 あっという間に退路を断たれてしまった。

 叔父上直属だという部隊『波濤(はとう)』。相当な手練れに思える。


「さあ! 観念しろ! 坊ちゃん!」


 ずいぶんと気が早い。

 こっちにはまだ話したいことがある。


「待った」

「……いまさらなにを言う気ですか! 謝っても遅い!」


 謝るつもりはない。

 用があるのは、マスク姿の彼だ。


「また会いましたね」

「……こちらは会いたくはなかった。してやられたしな。家畜みたいな扱いはされるし、ひどい話だ」


 俺たちの会話が呑気に聞こえたようで、波濤の隊長ディートリヒが激怒する。


「なにを喋っている! ゼロセブン! さっさとしかけろ!」


 この人はゼロセブンというのか。


「ずいぶんと変わった名前だ」

「……そんなわけないだろう。コードネームだ。まったく、どんな勘違いだ? 少年」

「あなたはラナのお父さん、ですよね?」

「……!」


 ラナの名前を出すと、ゼロセブンが硬直した。

 当たりだ。さっき彼女と会話した時、もしかして、と思ったんだ。


「なぜ知っている? ラナはどこだ? 居場所を言え!」

「俺は冒険者です。彼女から依頼を受けたので、逃がしました」


 ゼロセブンが俺をマスク越しにじっと見てくる。嘘かどうかを見極めているな。


「さっきからなにをしている! 貴様は帝国にもガラルホルンにも追われる身! 我らが救ってやったというのに!」


 激昂するディートリヒの言葉で話が見えてきた。

 ラナのお父さんはラグナ家の庇護下に入る代わり、こうして戦いに駆り出されている。

 ならば彼は敵じゃない。


「使えないゴミが! そもそも貴様がしくじらなければこうはならなかったんだぞ!」

「そうなんですか?」

「……あの夜、君をさらって終わるはずだった。帝国やガラルホルンから逃げるには、ラグナの力が必要だ」


 それは違う。

 ラグナの下についても結局は利用されて、おそらくは死ぬ。そしてラナも。

 マール従兄さんの所業を見れば、それがわかる。


「ちっ! さっさと坊ちゃんを!」

「少し、うるさいな」


 言葉と共に魔力をみなぎらせる。

 力の放出が彼らの足を止めた。

 話の途中だ。黙っていてほしい。


「ゼロセブンさん、それは違う。ラグナは守ってなんかくれない」

「……」

「あなたも男なら、親なら、大切なものは自分で守るべきだと思う」


 わずかな沈黙。

 そしてゼロセブンさんはため息をついた。


「……やれやれだ、少年」


 彼はゆっくりと歩き、俺の隣に立つ。


「ゼロセブン、どういうつもりだ?」

「見てわからないか? おまえたちと共にいるのは終わりだということだな。一緒にいると臭くてかなわん。ひどい話だ」

「き……貴様ぁっ!」


 ディートリヒがますます怒る。

 この人、かなり口が悪い。


「ゼロセブンさん、俺から距離を空けてください。できれば一人くらい倒してくれると嬉しい」

「それはいいが、どうする気だ、少年。計画は? 作戦は?」

「奇襲します」

「なに?」


 ゼロセブンさんがびっくりしている。

 

 俺が走り出すと、少し遅れて彼も動き出した。


 ≪自動障壁(オートシールド)≫を発動しつつ、攻撃の準備に入る。


「この【才能】なしが! 我らに歯向かうなど!」


 【才能】がなくても、やれることはある。


 彼らのうち六人が一斉に≪サンダーボルト≫を撃ってきた。

 

 雷の魔法は弾速が早い分、命中率が悪い。加えて距離が離れれば離れるほど威力が減衰する。この間合いなら≪自動障壁(オートシールド)≫で十分。


 いくつかの雷が障壁によって防がれると、彼らは驚いていた。


「い、いつの間に障壁を!? くっ……その服は対魔法の装備か!」


 なにか勘違いをしているみたいだけど、わざわざ説明してやる義理はない。

 雷をくぐり抜けて、位置につく。ここからが奇襲だ。


「≪土之石陣(アースウォール)≫」


 地面に触れて魔法を発動。

 俺と『波濤』の男たちを阻むように、土壁が生成される。


「ばかな! 土魔法だと!? しかもなんだこの規模は……」

「隊長! ご指示を!」

「これではなにも見えません!」


 壁越しに彼らの声が聞こえる。

 土の壁を巡らして迷路を作った。『波濤』の男たちは分断されて動けない。

 

「≪探視(サーチアイ)≫」


 目に魔力を集めて探索用の魔法を使う。

 見える。

 壁越しでもはっきりと彼らの位置を把握した。


「≪魔弾(マダン)≫」

「ぬぐあっ!?」


 狙いを澄ました一撃が、壁を突き抜けて男の一人を倒す。


「どうした!? なにがあった!?」


 彼らにはなにが起きているかわからない。

 続けざまに≪魔弾(マダン)≫を放ち、壁越しに数を減らす。


「くそっ! に、逃げろ!」


 逃げようとしても無駄だ。

 迷路にしておいたから、出るのは手間取るはず。

 そこを狙い撃つ。


「ぐっはあっ!」


 これで五人目。

 残るはディートリヒだけだ。


 ≪土之石陣(アースウォール)≫を解除。

 崩れ落ちる土壁の先で、『波濤』の隊長は青ざめていた。


「ゼロセブンさんの方は……問題なさそうだ」


 彼は『波濤』の二人を相手取り、追い詰めている。

 ラナは『へっぽこ工作員』とか言っていたが、けっこう強い。


「ぼ、坊ちゃん……なぜ魔法を……【才能】がないはずでは……?」

「【才能】がないから魔法が使えないなんて、それは誰が言ったんですか?」

「は?」

「皇帝陛下が言った? 偉い学者先生? いったい誰が?」


 真面目に聞いてみると、ディートリヒは返答に詰まる。

 【才能】がなくとも魔法が使える人間もいた。それだけのこと。


「くっ……こうなれば!」


 彼が取り出したのは、小さな笛だった。

 見覚えがある。マールの農園で見たモンスターを操るものだ。


「まさかモンスターを?」

「くくく……使いたくはなかったが、これであなたを倒しますよ!」


 なんてバカなことを。

 こんなところにモンスターを連れてきて、町の人が被害にあったらどうするつもりなんだ。


 ディートリヒが笛を吹く。

 俺は身構えた。

 いいさ、出てきた瞬間に吹き飛ばしてやる。


 しかし、出てきたのは別の、しかもモンスターじゃなくて人間だった。


「うん?」


 見間違えじゃないよね?

 見間違えであってほしいのですが。


「シント~ 見つけたわ~」


 綺麗な金髪にところどころ青い房が混じる髪で、長身の女性。おっとりとした雰囲気を身に纏う。

 元は全部金髪だったのに、【神格】神剣『水姫』の影響で一部青くなったらしい。

 超名門大貴族、大陸で一番のお金持ち、ガラルホルン家の第一公女アイシア。

 母さんの歳の離れたいとこで、俺からするといとこ叔母、だろうか。つまり親戚ってこと。


「アイシア!? なんでここに」


 会うのは二年ぶりくらいだろうか。

 それにしてもすごい格好だ。鎧、なんだろうけど、肌の露出が多いし、『ドレス風鎧』とでも言えばいいのか。

 それ鎧の意味ある? と聞いてみたい。


 昔はラグナの本宅に来るたび、俺のところへやってきては無茶なことを要求していたなー。

 いつしか顔を見せなくなったのは、彼女がガラルホルンの軍を率いて戦っていたからだ。


 十六歳の初陣で賊を討伐。反乱の平定、モンスター退治といくつもの功績を上げていた。

 さらに卓越した戦略眼を持ち、今や帝国でも屈指の将と呼ばれている。

 他にも、帝国で人気の盤上競技『剣棋(けんぎ)』の達人だ。俺なんか一度も勝ったことない。


 かなり驚いたが、ディートリヒはもっと驚いている。


「アイシアだと……? そのお姿……ま、まさか」


 思考停止しているディートリヒを通り過ぎ、彼女と彼女のお供たちが俺の前に立つ。


「ひかえおろう! 公女殿下であるぞ!」

「貴様ら、頭が高い!」


 ディートリヒと残った二人の男。そしてゼロセブンさんが(ひざまず)く。

 一瞬で戦闘が終わった。さすが、と言っておくべきかな。


「まさか~ こんなところで会えるなんて~ うふふ~」


 間延びした独特の口調。間違いなくガラルホルン家の第一公女アイシアだ。


「二重スパイを追って来たの~ でもぉ……シント~ これって運命よね~」

「ごめん、なに言ってるかわからない」


 しかし、ディートリヒはモンスターを呼んだはず。

 つまりは――


「なんか~ モンスターいたから~ みんな斬っちゃったの~」

「あ、うん」


 そうだよね。


「ねえ~ シント~ ピンチだったのよね~?」


 いや、別に。


「お待ちください! 公女殿下!」


 ここでディートリヒが間に入ってきた。

 なにを言うつもりなのか。


「これはラグナ家内々のこと。どうかお関りになりませんよう」

「え~ ラグナ家~?」


 ラグナ家の名前を出せばなんとかなる、と彼は思ったんだろう。


「そうです。これ以上関わりになれば内政干渉ともなりますぞ!」

「はいど~ん!」

「!?」


 抜き手も見えない超速の斬撃。

 世界で最も美しいと言われる剣が、ディートリヒのど真ん中を一刀両断した。

 肉体が左右に分かれて、崩れ落ちる。

 即死だ。


「アイシア! なにをするんだ!」


 彼女は答えなかった。

 言葉もなく、妖しく微笑むのみだ。

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