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神前試合五番勝負 2 先鋒戦

 神前試合五番勝負が始まる。

 こちらの先鋒はカサンドラ。新たな槍を手に前へ出る。

 対してあちらの先鋒もまた槍を持った鎧武者だった。


 見物客から歓声が上がる。

 有名人なのか。


「待った、カサンドラ」

「なにさ」


 戦う前に言っておきたいことがあった。


「ギルドマスターとしてのお願いがある」


 見つめ合い、そして言う。


「圧倒しろ」

「……!」


 瞬間、彼女の身がぶるりと震えた。

 怖気づいた、なんてことはない。武者震いだ。


 大きく息を吐いて呼吸を整える。

 カサンドラは力強くうなずき、前へ出た。

 両者がにらみあう。


「帝国人の女、おまえも槍の使い手か」

「そうさ」

「我が槍はホウゾウイン流。おまえの流派はなんだ?」

「ないね」

「ない? ふん……雑魚が」

「言ってな」


 カサンドラは挑発にのらない。むしろ闘志をみなぎらせている。


「我はホンダ家が嫡男! 『撃突』のタダカツなり! 勝利を主上に捧げる!」


 槍を小枝のように振り回し、名乗りを上げる。

 『撃突』のタダカツ。よほどの手練れに見えた。


「あたしは『撃槍』のカサンドラ。名乗り合うってのも悪くないねえ」


 盛り上がってきたな。ぞくぞくする。

 審判が手を掲げ、舞台上から音がなくなった。


「では……尋常に――始め!」


 合図と同時に先鋒二人が前へ出る。

 まずはお互い牽制、と思いきや。


「おお……」

「いいぞ! やれい!」


 すさまじい突きの応酬に観衆がわいた。

 互いの槍がかするたび火花を散らす。


「ぬう! 我が名槍『蝗切いなごきり』と同等であるとは!」


 驚きが漏れる。


「だが! これでどうだ!」

「!」


 足払いからの振り上げ、上段叩き潰し。

 受けたカサンドラが一歩下がる。


「死ねい! 『撃突』!」


 タダカツも【才能】がそのまま異名になっているタイプとみた。

 『撃突』が発動し、渾身の突きをカサンドラに見舞う。

 しかし、彼女は槍の柄でそれを受けた。


 渡した新しい槍はとてつもない突きを受けきる。

 再び歓声。あちら陣営は押せ押せムードだ。


「シント! まずいんじゃ……」

「いいえ、ミューズさん。俺にはカサンドラが決めるタイミングをうかがっているように見えます」


 カサンドラは激情を押し殺し、力を溜めている。

 タダカツが前に踏み込んで、突きのラッシュを仕掛けた。

 守りに回るカサンドラだったが、最後の一発を柄で受け流し、逸らす。


 わずかに体勢を崩したタダカツは半歩後退した。

 それが仇となる。

 タイミングを見極めたカサンドラがついに動いたのだ。


「『撃槍・吹雪ふぶき』!!」


 力強く踏み込んだ足から伝わる震動。

 怒涛の突連打がタダカツを襲う。

 いつ終わるともしれない槍の突き連はさながら真横から叩きつける吹雪。

 

「なにっ!」


 防ぎきれないタダカツの腕や足から血が落ちる。


「『撃槍・三日月みかづき』!」

「ぐお!」


 三日月を思わせる軌道は下からの払い上げ。

 かろうじて防御したタダカツであったが、大きく上へ槍を弾かれる。


 勝負は決まった。

 カサンドラはがら空きになった胴へと最後の攻撃を仕掛ける。


「『撃槍・散花さんか』!」


 回転横薙ぎ。

 槍の穂先がタダカツの脇腹にめり込み、めりぃ、と音を立てる。

 彼女の槍は止まらない。

 二度、三度と目にも止まらぬ速さで同じ部位を薙ぎ払う。


「ぬぐおあああああああああああああああああ!」


 『撃槍・吹雪』でつけた傷から、そして口から吐き出される血が宙を舞い、空に血の花を咲かせた。

 お美事みごと

 乱れ散り咲く狂い雪月花。

 内に秘める激情が解き放たれた瞬間であった。


 吹き飛んだタダカツは舞台のはじまで飛んで、固い柵にぶつかり、止まる。

 すでに意識はない。終わった。


「しょ……勝負あり! イエヨシ様方! 一勝!」


 審判の声が響いて、怒号にも似た歓声が上がる。

 文句のつけようもない勝利だ。

 まずは星一つを獲得だな。


「ふう……かなりの使い手だったさ」

「カサンドラ、すごいものを見せてもらったよ」

「あんたに言われてもねえ」

「ならフランはどう?」

「ん?」


 ガラルホルン家の席にいる第三公女フランヴェルジュがこちらを見ている。

 彼女の目はぎらつき、すさまじい闘気が溢れていた。

 見つめている先は、カサンドラだ。


「いつか必ずお返しするさ」


 彼女は以前、フランと一戦交えている。

 結果はアリステラと二人がかりで敗北。

 いいライバル関係、と考えておくか。


「ほっほっほ、よもやタダカツを仕留めるとはのう」

「お見事です、カサンドラさん」


 大御所様とオユキさんがやってくる。


「シントはよい仲間をもっておるな」

「ええ、最高の仲間です」

「シント! はっきり言わないでおくれ!」


 ほんとうのことを言っただけ。

 とにかくもこちら陣営は盛り上がっている。

 対して主上側はというと。


「ええい! その軟弱者をさっさと運び出せ! 異国人などに……しかも女に負けるとは……あとで処罰する!」


 だいぶ怒っている。

 あちら陣営の計算が狂ったのは間違いない。

 先鋒戦の勝敗は後の試合への影響が大きい。だから俺はカサンドラに圧倒しろとお願いした。


「やったね、カサンドラ」

「ありがとうさ、ラナ。次はあんただよ」

「姉さん、怪我はない?」

「ああ、なんてことないね」

「ほんと? 実はものすごく緊張してたんじゃ……」

「言わないでおくれ。実は吐きそうだったんだ」

「でもおめでとう。さすがは僕の姉さんだ」


 さて、次は次鋒戦。

 ウチの諜報員であるラナの出番だ。


「ラナ、いける?」

「もっちろん!」


 手慣れた様子で袖の中からシュリケンを取り出す。

 両手で器用に回し、流れによどみがない。短剣代わりに使う気か。


「そういえばラナの【才能】ってなんだっけ?」

「言ってないよ。誰にも言うなってパパが」


 それはそうだ。

 失礼な質問だったな。


「わたしの【才能】は『右手が左手、左手が右手』」


 けっきょく言うんかい!

 ラナの【才能】は両手が利き手になり、器用さが増すというものだ。


「あとね、『猫足ねこあし』」

「……ん?」

「あ、これも言っちゃいけなかったんだ。でもいいや。みんな家族だし」


 待った。

 【才能】が二つ!?

 俺以外のみんなもめちゃくちゃ驚いている。


 しかし、ありえない話ではない。

 ごくごく稀に、信じられない確率で【才能】を二つ持って生まれる人間がいるという噂がある。

 なんてことだ。噂はほんとうだった。


「初めて聞いた」

「あたしもだよ」

「はー、そんな子もいるのね」

「ごめんごめん、スパイだったからなんか隠しちゃうんだよねー」


 衝撃的な事実なのになんか軽い。


「ラナ、気をつけて」

「わかってる。全速でいくよ」


 次鋒戦が始まろうとしていた。


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