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ファミリアバース 17 遺跡に眠るもの

「くしゅんっ!」

「ちょっと! いきなりくしゃみって!」

「ごめん。誰か俺の噂でもしてたかなー……いや、そんなわけないか」


 急に鼻がむずむずした。

 気を取り直そう。


「遺跡?」


 聞き返すと、ラナが大きく頷いた。

 彼女の持つ情報によれば、ダレンガルトの有名な観光地である太古の遺跡に、【神格】が眠っているということだった。


「そうなの。剣神教団が新たに見つけた古文書にあったんだー」


 剣神教団とは、古くから帝国にある宗教団体。

 創造と秩序を司る『剣神』への信仰は古くからあって、モンスターの出現で一度途切れてしまった人類の歴史を紡ぎ直そうというのが、教団の理念と聞く。


「血を(もたら)すもの、何人も眠りを妨げるなかれ――」

「血をもたらすもの?」

「教団の研究者は【神格】魔竜『ブラッドドラゴン』じゃないかって」


 でもそれだけで【神格】があるだなんて、結論づけるには早すぎないだろうか。

 ラグナ、ガラルホルン、剣神教団が動き出しているなら、確かなようにも思えるが。


 彼女が口にした【神格】魔竜『ブラッドドラゴン』は、残された記録が非常に少ない、謎の神器だ。ほんとうに(ドラゴン)だとは思えないから、なにかの比喩だろう。


「根拠は?」

「古文書を書いた人のせいだってさー」


 彼女が口にした名は『アルレエス』。過去に生きた人で歴史上の人物。【神格】研究に人生を捧げた偉人だと本で読んだことがある。


 なるほど。

 いくつもの【神格】やそれらのレプリカを発見した人が書いたものであれば、信憑性はぐっと高くなる。


「じゃあ行こう」

「へ?」

「遺跡にだよ」

「なんで!?」

「説明したでしょう。今の状態でおばあちゃんちに行ってもダメだと」


 ラナはがっくりと肩を落とした。



 ★★★★★★



 山中の小屋から目的の遺跡に行くのは簡単だ。

 町を避けて迂回するように行けばいい。


 問題があるとすれば、ラグナやガラルホルンの人たちを遭遇してしまう可能性だけだ。

 しかしこれは心配しすぎだった。


 ラナは素早くて夜目が効き、暗くてもすいすい進んで行く。

 彼女の先導のもと、たいして時間がかからずに遺跡にまでたどり着いた。


「ラナはすごいな。こんなに早く着くなんて」

「コソコソするのは得意なんだよ」


 言い方。


あかり、つけるね」


 小さなランタンに明かりを灯すと、大きな建造物がよく見えた。

 

「かなり古い遺跡なんだってさ」

「へー」


 古ぼけた石造りの遺跡はいつ建てられたものなのか、想像ができなかった。

 入り口付近には新しく整備された道に加え、案内盤まである。

 さすがは有名な観光地だ。


「受付は閉まっているみたいだな」

「こんな時間だもん」


 扉は閉まっていない。

 勝手に入るのは申し訳ないんだけど、ここは行かせてもらおう。


 ランタンによって照らされる遺跡内はがらんとしていて、音もない。

 いくつかの朽ちた石像や壁画があるだけで、特に目を引く物はなかった。


「シント、やっぱりガセなんだよ。【神格】に限った話じゃなく、お宝の話なんてだいたいでまかせだってパパが言ってた」

「お父さんが?」

「うん、パパ、表向きはお宝さがしだから」


 そういえばトーマスさんがそんなこと言ってたな。

 ただ、町の人が思うようなホラ吹きではなかった。お宝さがし、つまりは冒険家。しかしてその実態はスパイだったわけだ。


「まだないと決めるのは早い」


 魔法を発動する。


「≪探視(サーチアイ)≫」


 もしも魔法による仕掛けがあるのなら、≪探視(サーチアイ)≫で判別できる。

 

 読みは当たった。

 石像の台座下から薄い魔力の流れ。人為的な痕跡がある。

 台座に近寄って調べてみると、浮かび上がる文字があった。


「魔法で文字を刻んでいる?」


 浮かび上がった文字は、俺が持っている本の文字とそっくりだった。

 東方の文字よりもさらに古いもの。意味は不明だ。


「シント?」

「ラナ、たぶんこの下になにかある」

「え、うそ!」


 嘘じゃない。

 ただこの石像にどんな仕掛けがあるのか。


 ≪次元ノ断裂(ディメンション)≫で収納しておいた古書を取り出した。

 ヒントが隠されているかもしれないと思ったからだ。


「うーん、特になにもないな」


 後半の謎文字を解読しなければダメなのだろうか。そんなの何十年とかかる。


「あ」

「え……光ってる」


 古書が怪しい光を帯び始め、勝手にページがめくれた。

 

「その本捨てなよ! まぶしいってば!」


 本は捨てられない。俺の命よりも大事なものだ。

 そして、状況が変わった。

 

 石像が崩れて粉々になる。

 その下に現れたのは階段だった。


「わ! なにこれすごい!」


 隠された地下への入り口。

 

「シント、行ってみようよ」

「ああ、行こう」


 だが……なぜだ?

 この本に反応したのは間違いない。


 ただの古い本じゃないとは思っていたけど、どうなっているのだろう。

 魔法のスキルブックではない? だったらなんなんだ。


 疑問は尽きないものの、立ち止まって考えている暇はない。

 中に入ろう。


 

 ★★★★★★



 ラナから魔法式ランタンを受け取って、前に出る。

 地下室には古代の空気がそのまま閉じ込められていて、興味をそそった。


 足音の反響を聞く限りでは、たいして広くない。

 案の定ほぼ一本道であり、小部屋がたまにあるくらいだ。


「なんにもないね」

「時間が経ちすぎてボロボロだ」


 小部屋には家具とか紙の切れ端があった。しかしそれらは古すぎて今にも崩れそう。

 さらに道を進み、やがて突き当りに出る。


 いかにもなにかが待ち受けていそうな、立派な扉だ。

 ≪探視(サーチアイ)≫で調べても異常は見られない。

 

「開けてみよう」

「う、うん」


 重い扉をゆっくり開けてみる。長年放置されているだろう扉がきしむ音を出した。

 空けた先は丸い部屋。ランタンで照らすと、ラナが悲鳴を上げた。


「ぎゃああ!」


 その声の方がびっくりしてしまう。


「ラナ、よく見て。石像だ」

「あー、びっくりしたよ……でもなんか変な像」


 羽の生えたネコ? 顔の部分は人間だ。

 なんていう生き物なのか気になる。モンスターに見えなくもない。


 一歩進む。

 すると部屋に変化が訪れた。

 壁に備え付けられた松明が、なにもしていないのに火を灯す。


「な、なに? シント、これ……」

「俺の後ろに下がって」


 魔法のからくりかな。≪探視(サーチアイ)≫にも反応しなかったし、太古の技術かもしれない。

 変化はそれだけにとどまらない。

 人面獣の石像が動き出した。


「逃げようよ! まずいってこれ!」

「まあまあ、様子を見よう」


 危険は感じなかった。

 そして、石像が声を発する。


『我は此処(ここ)を守護せし者(なり)。そなたらは何故足を踏み入れるのか』


 問いかけられている。

 正直に答えよう。


「ここにすごいものがあると聞いて」

『ほう。しかし、(よこしま)で愚かな者を通す訳にいかぬ』

「ではどうすれば?」

『此処は試験の間である。我の問いかけに答えよ。正なる解を示す時、道は開かれん』


 問いかけか。


『答えられるのは一度のみ。我の求める答えではなかった時、道は閉ざされん』


 条件が厳しいけど、やるしかないだろう。


「わかりました。問いをお願いします」

『では(なんじ)に問う。【それは安全をもたらすもの。繁栄をもたらすもの。しかし築いたものを破壊するもの】。この問いや如何(いかん)


 安全、繁栄、破壊か。三つの単語はヒントになりそうだけど。


「ぜんぜんわかんないんですけどぉ……」

「ゆっくり考えようよ。時間は無制限ですよね?」


 石像に聞いてみたが、返事はない。


「安全か……うーん。そうだな。わかったよ」

「へ? ほんと? はやっ!?」

「ああ。答えは『火』じゃないかな」


 火は様々な安全を人に与えた。たき火は獣を寄せつけず、夜の闇を照らす。食べ物に火を通せばお腹は壊さないしね。そしてそれは人の繁栄に繋がる。人口が増加して町が作られ、軍隊ができるわけだし。しかし一方で使い方を間違えればたちまち破壊に変わる。


『見事也。では次の問いに移ろう』

「まだあるの!?」


 ラナがげんなりしている。


『汝に問う。【朝は四本足、昼は二本足、夕は三本足。この、時とともに、変わる生き物はなにか】。この問いや如何』

「そんな生き物いたら目玉飛び出るよぉ……」


 彼女の反応には苦笑するしかない。

 石像の問いかけが示すのは生き物。朝、昼、夕で変化する。

 なんとなくわかってきたな。


 さっきの問いもヒントになる。

 これはきっと一日の変化じゃないんだ。

 朝昼夜と区切っておきながら、わざわざ、時とともに、と強調している。それが鍵になった。


「シント、こんなの無理。動物博士じゃないとわかんない」

「いや、わかったよ」

「ええっ!?」


 生き物で二本足。ここに着目するとわかってくる。


「答えは『人間』ですね?」

『見事也』

「人間……? なんで?」

「生まれた時は赤ちゃんではいはいするから四本足。成長すると二本足で立ち、歳を取って足腰が弱くなると杖をつくから三本足。二本足で立つ生き物ってほとんどいないし、三本になるならなおさら絞られる」

「はえ~」


 ラナは表情がころころ変わって面白い。


『それでは最後の問いに移ろう』


 やっと最後か。どんな問題か楽しみになってきた。


『汝に問う。【道があるとする。先になにがあるのかわからず、しかしすれ違うのは一瞬。後ろにあるものは不変。振り返った時に見えるものはなにか】。この問いや如何』


 これは……難しそうだ。


「ごめん、ぜんっぜんわかんないよ」

「そうだね」


 問いの内容を考えてみる。

 不変。変えられないもの。

 道を進んでいるのだから、歩いている。後ろには行けないってことかな。


「……」

「シント、もういいよ。戻ろ?」

「石像さん、部屋から出たらどうなります?」

『扉は閉ざされ、二度と入れぬ』


 じゃあ解くしかない。

 道を歩く。後ろには行けない。振り返ってようやく見えるもの。


 最初の問いは、答えが『火』。

 二番目は『人間』。

 人間の安全、繁栄、破壊。問いが全て繋がっているのなら、答えは出てくる。


「答えは『歴史』だ」

『……』


 あれ、間違った?


『見事也。これにて我に与えられし命は遂げられた。賢者よ、ゆめゆめ問いの答えがもたらす意味を忘れなきよう』


 石像が崩れ、灰になる。

 よかった。ちゃんとあってたな。


「……なんでわかったの?」


 珍獣でも見るかのような目で、ラナが俺を見る。


「未来ってなにがあるか誰もわからないでしょう? で、現実はいまもこうして一瞬で過ぎるし、過去は決して変えられない。つまりは不変。未来、現在、過去を合わせると時間の流れ。で、振り返ってからやっと見えるとしたらそれは歴史になる」

「……信じらんない。そんなの普通わかんないよ」

「いやー、けっこう考えたよ。それよりも通してくれたみたいだし、先に行こう」


 彼女は納得がいっていないようだったが、歩き出すとあとについた。

 そして最後らしき扉を開け、次の部屋に入る。


 そこで見たものは――


「……骨、なの?」

「骨、だね」


 部屋いっぱいに散らばった巨大な生き物の骨だった。

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