Sword and Magic of Time 出張版 6 『おおいなる闇ノ力』
開かれた隠し部屋。
中の様子を見てさすがに息を呑む。
「すっごいピカピカだね!」
「宝物がありますよ、シント」
ほんとうにすごい。
金貨に銀貨。宝石とか金の燭台に銀の食器。見た事のないタペストリーと奇妙な形をした像もある。
「オユキさん」
「ええ、ついに……ついにやりましたわ!」
壁の棚には武具がある。
ミスリル製なのかな。普通の武具じゃない。魔導具にも似た魔力を感じる。
「もしかしてレプリカ?」
【神格】を模倣して作られた古代技術の産物。それがレプリカだ。
「槍はカサンドラが使えそう。このブーツもなんだかすごそうだな。腕輪もあるし……いいや、全部持っていこう」
≪次元ノ断裂≫で作った穴に使えそうなものを放り込む。
「シントさん! こちらへ!」
オユキさんが大声を上げた。
ダッシュして近くに寄る。
「これは遺骸か」
ボロボロの布を着たガイコツが横たわっている。
おそらく竜教団の教祖だろうと思う。
「こっちは……まさか」
オユキさんが見ているのはガイコツじゃない。
伝説にあった黒い玉が、小さな祭壇の上に浮いている。
大きさは人の頭ほどだろうか。
そして感じるのは巨大な魔力。
「魔珠『鳳玉』ですわ。間違いありません」
ほとばしる黒い魔力は、見た目の禍々しさとは真逆でとても暖かい。毛布にくるまれているみたいな安心感がある。
「これで大御所様が救われる……」
「オユキさん、待った」
「え?」
彼女が触れたとたん、黒い魔力が噴き出してオユキさんを吹き飛ばす。
「い、痛いですわ」
「だいじょうぶですか?」
「はい。ですが、私は拒否されてしまったようです」
「じゃあわたしが触ってみるね」
「イリアさん! 危険ですよ!」
止める間もなく、イリアさんが触った。
ぺちぺちと叩くも反応はない。なんでだ。
「え、わたしこの子に無視されてる?」
「ぶしつけに触るからでしょう」
今度はディジアさんだ。
イリアさんになんの反応も見せなかったからか、警戒心もなく無造作に触れる。
だが、触れた瞬間。
「え?」
「なになに?」
「ディジアさん! 離れて!」
黒い波動が部屋内を突き抜ける。とっさに障壁を発動しかけるが、しかし。
「ああ……これは……なんだか……変なキブン」
ちょっとどうしたのディジアさん!
今まで見せたことのない恍惚とした表情。
もしかして【神格】に選ばれたのか?
彼女は魔珠『鳳玉』から魔力を吸収しているようにも見える。
それから数分。俺たちは言葉もなく見守ることしかできなかった。
「はあ~……ああああああアアアアアア」
気持ちよさそうなのはなんでだ。
だが、悪い状況ではなさそう。
やがて、吸収が止まる。
【神格】魔珠『鳳玉』は浮いたまま動かない。
一方でディジアさんはというと。
「シント……わたくし」
言われずともわかる。ディジアさんから圧倒的なまでの魔力が溢れ、彼女の周りを黒い雷が跳ねていた。
「すごい。なんて魔力だ」
「どうやら魔力を取り戻せたようですね。ふふふ」
子どもらしからぬ妖艶な笑みを見せる。
「これでやっと……あなたと肩を並べて戦えるというもの」
「ディジアったらずるい。わたしなんてちょっとだけだもの」
いちおうはイリアさんにも少し力がもどったようだ。
「みなさん、なにが起きたのですか? 私にはなにがなんだか」
「オユキ、この珠にはまだ魔力が残っています。あなたの望みは叶うでしょう」
「‼」
オユキさんの表情に光が差した。
「さあ、手に取りなさい」
「ええ!」
彼女は珠を抱えて布に包んだ。
ほんとうによかったと心から思う。
「ディジアさん、【神格】の所有者になったんですか?」
「どうでしょうか」
違うの?
「どちらにせよ魔力が戻ったのです。わたくしにはそれで十分。あなたこそどうですか?」
「俺?」
「わたくしとあなたはつながっています」
言われてみれば……体が火照りだしてきた。
腹の奥底からわきあがるこの力はなんだ。
これまで感じたことのないなにかが噴き出しそう。
「シントさん、すぐに戻りましょう」
「ええ、そうしますか」
残った宝物に関しては後回しだ。時間ができたら取りに戻るとしよう。
隠し部屋を出て、しかしそこで止まった。
「またなの?」
「さっきよりも多いのではありませんか?」
二人の言う通りだ。
出たとたん、また黒い霧が溢れ出して大量のゴーストが現れる。
「まだ終わりじゃないなんて……そんな」
オユキさんは抱えた魔珠『鳳玉』をぎゅっとする。
おぞましい姿のゴーストたちが再び迫ってきた。
三百体はいそうだけれど、ここを突破し帰還してみせる。
「みんな下がって。すぐに片付け――」
ディジアさんが前に出た。
「ディジアさん、貴女も下がってください」
「いいえ、せっかく現れていただいたのですからご挨拶をいたしましょう」
挨拶?
そうか。魔力が戻ったということは、魔法を使うつもりだな。
「シント、わたくしに合わせるのです」
「ええ、わかりました」
とは言うものの、だいじょうぶかな。
まあいい。さっきから力が溢れて止まらない。
溜めこみすぎるのはよくないからぶっ放そう。
二人で肩を並べ、手を掲げる。
「≪天上之――」
「≪煉獄之――」
俺とディジアさんの声が重なり合う。
「「雷≫!」」
上から光り輝く稲妻が降り、下から漆黒の雷が荒れ狂う。
二つの雷魔法がさながら陰と陽をなし、止まる気配はない。
轟音が鳴り響き、ゴーストたちを包む黒霧が吹き飛んでいく。
最後に起こった炸裂が魔物たちを焼き尽くした。
やがて静まり返る広間。
数百のゴーストたちは跡形もない。
なんて威力。
ディジアさんの魔法はとてつもなかった。
「な、な、なんてことですの……ディジアちゃん、あなたは何者……?」
「まだ少し馴染んでいません。シント、あとで魔法を教えてくださいね?」
教えるまでもない気がする。
「あれで馴染んでいないだなんて……あはは……」
俺もオユキさんと同じ感想だった。
「さあ、戻りましょう」
「お菓子食べたくなった」
「わたくしもです」
魔力が戻っても子どもだ。
「では俺が魔法で地上に戻します」
「いいえシント。あなたは消耗しているはずです。ここはわたくしが」
「ディジアさんも≪空間ノ跳躍≫を使えるのか」
「もちろんです。だいたいあなたと同じ魔法を使用できますよ?」
なんてこった。
「地上に戻す……とは? ジャンプ?」
「オユキさん、説明は後です。一刻も早く大御所様の元へ行きましょう」
「え、ええ」
「ディジアさん。お願いします」
「はい。いきます……≪闇空ノ跳躍≫」
なんかいま違う魔法じゃなかった?
まあいいか。
ということで俺たちは地上へと戻る――




