Sword and Magic of Time 出張版 1 『背後の事情』
フジョウから追いだされるように出た俺たちは、一度ニジョウ屋敷に戻る。
背後では遠巻きに男が二人ほどついてきていた。
彼らは監視役。俺が逃げないよう見ている。
「シントさん、ほんとうに申し訳ございません」
「頭を上げてください」
「しかし、みすみすこのような事態に」
「まずはお屋敷へ急ぎましょう」
気になることがいくつもある。
「そういえばオユキさん。新年会の招待客というのはいつごろ決まったんですか?」
「……?」
「俺を招くと決めたのは?」
「なにをお知りになりたいのかわかりませんが、招待客が決まったのは秋ごろですわ。あなたに関しては……私が言いだしたことです」
「オユキさんが?」
「大御所様はあなたという人物がラグナ家にいることはもちろんご存知でした。会いたいとも仰せで。ですので私が招待することを進言したのですわ」
そうだったのか。
「決まったのは12月に入ってからですので、急ですわね」
主上に俺を調べる時間があったとは思えない。
だとすればもっとも可能性が高いのは――
「どうしたんですの?」
「俺が招待されたことを知っていたのは大御所様とオユキさんだけ?」
「その他にも何名かおりますわ。マツナガとサブロウ。それと私どもに近しい者ですね」
なるほど。
「わかりました。では行きましょう」
「シントさん?」
ニジョウ屋敷はすぐそこだ。
ウチのメンバーと合流しなくては。
★★★★★★
「シント、どこに行ってたのよ!」
「すみません、ミューズさん」
「心配した。してないけど」
「アリステラ、それどっち?」
「外は兵隊でいっぱいだし、やばげな雰囲気だもん。心配したよ」
「ラナ、こっちはだいじょうぶだった?」
彼女は元気よくうなずいた。
買い物から戻ったみんなは兵士たちに屋敷へ閉じ込められたという。
「あんたが来るのがもうちょい遅かったらぶちかましてたところさね」
「カサンドラ、ほんとにごめん」
「シントは、平気、なの?」
「俺はだいじょうぶ。ダイアナ、君は?」
「だいじょぶ」
「もめごと……ですよね?」
「君の言う通りだよ、アミール」
みんな無事だ。やっと一息つける。
「みんな、よく聞いてくれ。仕事をすることになった」
安堵から緊張へ空気が変わる。
「俺とオユキさんの腕につけられているのは爆弾だ。逃げようとすれば起爆するだろう」
「なんだって!?」
「ちょっと! どゆこと?」
ゆっくりと事情を話す。
みな、息を呑んだ。
「……【神格】探し」
「とんでもないわね」
「たぶん、危険、だよ?」
わかっている。だが人命がかかっているとなると、やるしかない。
「主上は大御所様を殺す気だ。しかしその前に人質として利用し【神格】をも手中に収めるつもりなんだよ。そうですよね、オユキさん」
「……それは」
「俺の推測が間違っているのなら言ってください。大御所様と敵対しているのは主上だ」
オユキさんはうなずいた。
「俺は新年会の件が自作自演だと考えています」
「……!」
「大御所様や主上を狙うような動きがあれば、あなたたちは気づいていたはず」
「そうです。ですが」
「気づけなかったのは内通者がいるからだ」
誰も言葉がない。
結論を急ぎ過ぎたかな。最初から話した方がいいか。
「蒸気機関車で強盗にでくわしたでしょ。そのうちの一人が俺の写真を持っていた。あの時、俺たちがホーライへ向かうと知っていた人間はかなり少ない」
タタラズさんやジュールズ社長、ロレーヌ伯爵には留守にすると言ってある。それ以外で知っていたのはオユキさんたちだけ。
「そして海賊は俺に賞金がかかっていると言っていたんだ。積み荷を狙うついでに俺たちが乗る船を襲った。その内通者にそそのかされてね」
「そんな……ありえるの?」
「確かかい?」
「オユキさん側に内通者がいて情報を漏らしていたと考えるのが一番シンプルでわかりやすいんだよ」
みんなの視線がオユキさんに集まる。彼女はたじたじになった。
「今回の件が自作自演だというのは、その内通者が関わっている。あの時、警備をくぐって新年会に潜り込めたのは引き入れた人間がいたからだと思うよ」
「でも失敗した」
「そうだよ。シントが防いだじゃん」
「たぶん、成功するかどうかは関係ない」
俺の考えていることはこうだ。
大御所様への刺客は本物。成功すればそれでよし。しなくても別の計画があったと思う。
対して主上への刺客はフリ。会場にガラルホルン家の子たちとか叔父上、つまり【神格】の所有者が五人もいて暗殺が成功することなど、1000パーセントありえない。
「主上は暗殺が実行されそうになったという事実が欲しかった。それを口実に大御所様を抑えられる」
「シント、大事な部分が抜けているように思えます。実の親子で対立している理由はなんなのですか?」
それは俺じゃなく、オユキさんに話してもらおうか。
「オユキさん、こうなっては全て話してもらいたい」
「……」
「主上は大御所様が邪魔なんですよね?」
直に会ったからわかる。主上は大御所様に対して怒っているわけでもなく、悲しんでいる様子もない。
「あなたの言う通りです」
「なぜ?」
「それは……」
彼女はちらりとフスマへ目を向ける。外には監視がいるのだ。
わかっている。声が漏れないようにしよう。
「≪風纏之陣≫」
風の幕を張ることで音を漏れないようにする。
「これで声は外に出ません」
「……風の、結界?」
「そんな感じです」
「そう……ですわね。お話しなくてはなりません」
彼女の顔に怒りがにじみでる。
「主上は戦の準備を始めております。そして大御所様はそれをお察しになり、止めようとしておりました」
戦争か。
「私どもも密かに調べ、兵器工場で大量の武具が生産されているのを確認しているのです」
「シ、シント、それってめちゃくちゃおおごとよね?」
ミューズさんの顔が引きつっている。
図らずして巻き込まれてしまったわけだ。休暇に来ただけなのに。
「それで大御所様を。父親でも関係ないってことか」
「主上には大きな野心がおありのようですわ。大御所様は……魔力欠乏症候群にさえかかっていなければ、まだ現役でございました。私はそれが悔しいのです」
オユキさんが唇を噛む。一筋の血が流れ落ちてタタミに赤い染みを作った。
本音を言えば、誰と誰が戦争をしようと知ったことではない。
ただ、止められるかもしれない可能性があって、なにもしないのは後で絶対に後悔する。それだけはいやだ。
「話はわかりました」
人質を取られ、手首には爆弾。監視もついているし、仲間とともに仕事もできない。異国だから味方も期待できないな。
「手はあるのでしょう?」
「ありませんね」
「へ?」
「ない?」
「シント?」
加えて他人に命じられるまま仕事をするだなんて、少しもやる気になれない。
「じゃあどうするっていうのさ」
「どうするもない。【神格】を取りにいくよ」
「……」
「……」
みんなが静かになった。
でも俺に視線が集まっている。
「シントー、なんで笑ってるの?」
イリアさんが不思議そうに尋ねてくる。
「笑っていませんよ。ただ……腹の底から黒いものがふつふつとわいているだけです」
「怖っ!?」
「シント、すごく、楽しそう。でも、怖い」
「だいじょうぶ。怖くないよ?」
今のところ打開策はない。
しかし覆すチャンスはある。
主上は国王だから、みな諾々と従うことが当たり前だと思っているだろう。
「果たしてほんとうにそうかな?」
「シントさん、あなたはなにを」
なにもかもが都合よくいくなんて思わないことだ。




