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ガラルホルンガールズ 2 【流麗の】ガラルホルン家第一公女アイシア【女神】

「暑いわ~ ここって南方なの~?」


 金箔で覆われたうちわを仰ぎながら、ガラルホルン家の第一公女アイシアは不満を漏らす。


「姫さま。ここはまだ帝国領内ですので」

「ほんと~? 田舎すぎない~?」


 側近の答えにてきとーな返事をしつつ、彼女はもう帰ろうと考えていた。


 一般人にはまず買えない機械仕掛けの魔導馬四頭立て。天蓋付きで豪奢な車に悠然と座り、その豊かで見事な体型を見せびらかすように足を組んでいる。


 しかし彼女の肉体に不埒(ふらち)な視線を向ける者はいない。

 配下の者達はみな、常勝不敗、美しき流麗の女神、十代にして帝国でも屈指の将と呼ばれるまでになったアイシアを信奉しているのだった。


 今回の任務は裏切り者の始末と【神格】の回収である。

 本来であれば【神格】が関わるのなら一軍が出動してもおかしくはない。


「ウルスラに押し付ければよかったわ~」

「此度の任務、姫さまでなくては達成不可能と存じます」

「も~ おだてちゃだめ~」


 側近の言うことは間違っていなかった。

 【神格】に選ばれた超人であるアイシアは、個人の強さで一軍に匹敵する。だからこその公女自ら出動だった。


 その時だ。

 一行の足が止まった。


「な~に~?」

「姫さま、どうやら賊のようです」

「賊~?」

「町のすぐそこだというに、憲兵のものどもはなにをしているのか」


 数十人の男たちが木の影からわらわらと出てくる。


「いい車に乗ってるじゃねえか、へへ」


 見るからに荒くれ者だった。彼らはすでに武器を抜いており、すぐにでも襲いかかるつもりだ。


「ボス、ありゃあいい女ですぜ」

「おれさまがいただいちゃうぜえ」


 デカいナイフを舌で舐める大柄な男を見て、アイシアは笑いが込み上げてきた。


「なにあれ~ この世のどんなモノよりも不細工じゃない~」


 ひどい言われように、賊のボスが激怒する。


「おいこら! そこまで言うことはねえだろが!」

「やっちまいましょうぜ、ボス。五人しかいねえし、身ぐるみ剥いで売っ払いましょうや」


 賊の男たちは、アイシアの一団が五人しかいないことに油断しまくっていた。

 

「姫さま、ここは我らが」

「お任せください、姫さま」


 側近たちの闘気が膨れ上がる。

 彼らは武の頂点、ガラルホルン家に属するエリートであり優れた剣士。なによりアイシアがお気に入りの部下(ペット)である。賊に遅れを取る者たちではなかった。


 だが――


「だーめ。わたしがやる~」

「ああ? なに言ってんだこの女……」

「ボス、調子に乗ってますぜ、あの女。さっさと素っ裸にしちまいましょう」


 彼らの会話を聞いたアイシアは、ふっ、と微笑み――消えた。


「あ?」

「き、消えた……?」


 次の瞬間、一人の首が宙を飛ぶ。

 さらに続けてもう一人の体が腰を斬られて真っ二つになる。


「は?」


 数十人の男たちはなにが起きたのか、理解できない。

 一瞬で二人死んだ。どうやって斬られたのか、見えなかった。


 妖艶な笑みをしたまま、アイシアが立っている。

 彼らはみな、彼女自身の美しさよりも手に持った不思議な武器に目を奪われていた。


 ガラルホルン家が持つ五振りの神器が一つ。

 世界で最も美しい剣と言われる【神格(しんかく)】神剣『水姫(みずひめ)』である。


 柄から剣先までが透き通った水によって造られた剣は、見た目の美しさとともに神秘的な空気を放っていた。


「く、くそがあ! やれ! 殺せ!」


 ボスの号令がかかり、男たちが雄叫びを上げる。

 剣や斧を振り上げて、アイシアに殺到した。


「おっそ~い。もうとっくにチェックメイトなのよ~」


 体をひねるだけで攻撃をかわした彼女は、無造作に剣を振るい、賊を両断。

 盛大に吹き上がる血を浴びる前にそこから動き、さらに別の者を斬る。


 一方的な蹂躙(じゅうりん)だった。

 どちらが殺される側なのかは言うまでもないだろう。

 わずかな間に数十の死体が積み重なり、賊のボスだけとなる。


「……あ、あんた、まさか」

「な~に?」

「ガラルホルン家の第一公女――」


 セリフを言い終える前に、ボスの首が飛んだ。

 あまりにも呆気なさすぎる。

 数十人を倒すのに、五分もかかっていない。


「賊の退治。お見事です、姫さま」

「も~ 町に着いたらお風呂に入らなきゃ。汗かいちゃった~」


 敵にはいっさいの容赦をせず、一滴も血を浴びていないアイシアに側近たちは惚れ惚れする。


「やっぱりシントを探すほうがよかったわ~」


 ラグナ家の落ちこぼれ。なんの【才能】も待たないシントは、彼女がずっとペットにしたかった少年だ。


「帰りたいんですけど~」

「では引き返しますか?」


 わがままを否定する者は、ここにはいない。


「う~ん……【神格】があるなら~……それと引き換えにシントを……ふふふ」

「姫さま?」

「お父さまにほんのちょっとだけ感謝するわ~」


 彼女は笑みを浮かべながら、また車に乗った。

 さきほどまでまったくなかったやる気がみなぎってきた彼女は、ここダレンガルトでの任務が終わりしだい、シントが目撃されたらしい町へ行くつもりだ。


「行くわよ~」

「は!」


 と、再び進みかけたところ――


「おい! なんだこりゃあ!」

「ボスがやられてんじゃねえか!」

「おいおい……下手打ちやがったなあ!」


 またもや荒くれ者たちがやってくる。数はさきほどよりも多い。


「え~ また~?」

「この者ら、大規模な山賊ですな」

「しかたないわね~」

「姫さま、今度こそ我らが」

「公女殿下のお手を(わずら)わせるなど!」


 側近たちが構える。


「もういいわ~ めんどくさいから~」

「ま、まさか……」


 アイシアはニコッと笑って、神剣を天に掲げる。


「一手で終わりよ~ 溺れなさい~!」


 【神格】神剣『水姫』の姿が消えた。


 ボスがやられたことで怒る者もいれば、次は俺がボスだと思った者もいた。

 考えることは様々な賊たちであったが、数分後にはみな等しく死体となる運命。


 荒くれ者集団のど真ん中に現れる水の塊。彼女の手を離れた神剣が形を変えて男たちに襲いかかる。

 水の塊が膨れ上がり、巨大な水球となって荒くれ者全員を飲み込んだ。


 彼らはあまりの出来事に混乱し、水球の中から出ようとする。

 男たちがもがき苦しむ様子を見て、ガラルホルン家の第一公女アイシアは愉悦(ゆえつ)を感じていた。


 必死に生へしがみつこうとする無様な姿。

 諦めて目から光が失われる絶望の姿。


 可哀想などとはこれっぽちも思っていない。

 なぜなら彼女は人を超えたもの。人とは違う存在だから。


「ふふふ……シントに会ったらわたしに溺れさせてあ・げ・る」


 彼女は微笑みを作りながら、しばらく男たちの様子を眺めていた――


 

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