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ニジョウ屋敷の騒動

 オユキさんは一度咳ばらいをしてから続きを話し始める。


「あなたに依頼をしたのはそれこそ異国人だからですわ」


 国内のしがらみとは無縁の人物が必要だった、と彼女は言った。


「海賊を単騎で退ける強さ。オオダコを相手取っても臆さない胆力。様々な魔法の使い手。これ以上ない人材でしたの。仮になにか大きな事態が起こった場合でも、あなたはホーライ王家の縁戚。押し通せます」


 オユキさんは思っていたよりもずっと策士だな。感心する。


「俺を信用すると? 悪人かもしれませんよ」

「自分でそんなことを言う方は悪人ではありません」


 ごもっとも。


魔珠(まじゅ)鳳玉(ほうぎょく)』を手に入れたあとは?」

「昨日お話した大御所様のご病気が理由です」


 魔力欠乏症候群のことか。

 しかし疑問が残る。【神格】の所有者になれなければ意味はない。

 俺の顔つきで察したのか、オユキさんは答えをくれた。


「竜教団の記録には、宝珠が他者に魔力を分け与えたという記述がございますの。所有者でなくとも治療できる可能性は十分にありますわ」


 なるほど。

 オユキさんは大御所様の病気を治したいのだ。


(シント、少しはやる気がでたのでは?)

(オオゴショって人、助けようよ)

「まあ、そうですね」

「シントさん、いま誰とお話を? なにか変な感じが……」


 黙っているのは失礼か。

 彼女は()()()()明かしてくれたのだし、こっちも紹介しよう。


「ディジアさん、イリアさん、出てきてください」

(わかりました)

(そうね)


 懐にしまってある古書と、背中の古剣が光を放ち、人の姿となる。


「な……なんてこと!?」

「おいおい! なんだこりゃあ!」


 さすがに驚いている。


「ディジアちゃんとイリアちゃん……いまどこから……?」

「二人は本と剣になれるんです」

「えー……いやー……」

「夢でも見てんのか?」

「俺も理由はわかりません。彼女たちもそう。記憶をなくしているんです」


 オユキさんとサブロウさんは呆然としている。


「オユキさん。あなたの依頼を受けましょう」

「そ、そうですか」

「いつから始めます? 遺跡の入り口はどこにあるのでしょうか?」

「えーと、そうですわね。明日から始めましょう。入り口はここです」


 彼女が部屋の扉を差した。

 

「私たち以外は知らない秘密の入り口です。フジョウの地下入り口は封鎖されておりますから、ここしか入れる場所がございません」


 納得だった。秘密基地を作ったのには理由があったわけだ。


「ウチのメンバーとも話して全員であたります」

「そうですか……できればシントさんお一人にお願いしたかったのですが」

「そこは譲れませんね」

「いえ、失礼を申しました。お願いいたします」


 話は決まった。

 まずは一度戻ろう。



 ★★★★★★



 大仕事になりそうな予感をひしひしと感じる。

 ウチのメンバーが買い物から戻ってくるまでの間、いろいろと考えてみた。


 大御所様は誰かに命を狙われている。

 同時に現国王もだ。


「饗団……?」


 あの組織の名が浮かぶ。

 いや、考えすぎだろう。


「シント、またもや考え事ですか?」

「ええ」


 最初からなにかがおかしいと思う。

 意図せず大きなものに操られているような、言葉ではうまく言えない感覚。


「強盗は俺の写真を持っていた。海賊も俺の賞金がどうのと言っていたし、これらが全て偶然とは思えない」

「でもほら、シントってそういうの引き寄せるじゃない?」


 イリアさんが変なことを言い始めた。

 そういうのって、どういうの?


「裏でなにかが起こっているのではないですか?」


 俺もディジアさんと同じ考えだ。


「ん?」


 いま悲鳴が聞こえなかっただろうか?


「なんだ?」


 窓から外を見る。

 お屋敷の方が騒がしい。


「まさかまた?」


 賊が侵入したか。


「ディジアさん、イリアさん、行きます」

「ええ」

「忙しくない?」


 二人には姿を変えてもらい、急ぐ。

 別館から砂利の敷き詰められた道を走り、美しい庭園に出た。


 武装した男たちが衛兵を押しのけている。

 ホーライの鎧に片刃の剣。

 賊には見えない。正規の軍人だろうか。

 彼らは列を組み、お屋敷の中に入っていくところだった。


「なにが起きてるんだ」


 足を早め、大御所様の元へと急ぐ。

 お屋敷の衛兵たちはみな困惑し、その場から動けないようだった。

 そして。


「大御所様のお部屋に土足で踏み込むとは。貴殿ら、なんのつもりか」


 マツナガさんが大御所様をかばうように立ち、尋ねている。

 彼の背後にはオユキさんと大御所様がいた。


「主上の命により大御所様を連行いたしまする」


 隊長らしき男が厳しい返答をする。


「なにをばかな……主上がだと?」

「出直しなさい! 大御所様はご体調がすぐれないのですよ!」


 空気が変わってきた。

 兵士たちが剣の柄に手をかける。

 対してマツナガさんが拳をバキバキ鳴らし始めた。

 こんなところでおっぱじめたらそれこそ大御所様が休めないだろう。


「はい! はいはーい!」


 手を挙げてみた。


(シント、空気を読んだほうがいいのでは?)


 ディジアさんの言葉が胸に刺さるものの、いまはなにも言うまい。


「君は誰だ? 帝国人がなぜここに」

「ちょっと聞いても?」

「だめだな。関わらないでいただこう」

「彼はトーオンジ家のユキネ様が孫です」


 オユキさんの言葉に、隊長が目を細める。


「ふむ……なるほど。君がそうか」


 俺のことを知っているような素振りだ。


「いいだろう。なにを聞くつもりだ?」


 祖母の名が出たことで、話を聞くつもりになったようだ。

 会ったことはないけれどおばあ様に感謝しよう。


「大御所様を連行するのなら理由を教えてほしい」

「……」


 隊長からの圧が増してきた。


「それともホーライには法がないのですか? 主上お一人が全てを裁くと?」


 誰かがごくりと息を呑んだ。

 みんな緊張している様子だった。


「主上の命は絶対だ。だが……先代主上を連行するのにはもちろん理由がある」

「それは?」


 隊長は俺から顔をそむけ、改めて大御所様を見る。


「先代主上イエヨシ様。現主上であらせられるキヨナガ様へ刺客を放った疑いにより、連行させていただきます。このたびのことは我ら『金竜衆』しか知らぬ密命でございます。この意味、おわかりいただけますでしょうな」


 ここで沈黙していた大御所様が口を開いた。


「無論じゃ。大々的に先代を捕らえるなど醜聞以外のなにものでもあるまいて」

「それだけではありません。主上は大御所様に恥をかかせぬようにと、密かに我らを行かせた次第」

「そんな! なにが――」

「オユキ、よい。わしが行くしかないじゃろう」

「あなた様だけではございませぬ。マツナガ、オユキの両名も連行させていただく」

「なに?」

「その二人にも嫌疑がかかっておりますゆえ」


 えらいことになっているな。

 俺はここでまた手を挙げた。


「今度はなんだ。帝国人」


 帝国人帝国人とさっきから嫌味な人だな。


「大御所様も新年会でお命を狙われました。それはどう説明を?」

「その件は我らのあずかり知らぬこと」

「連行する前にそこら辺の事情を全部明らかにしてはいかがでしょうか」


 これは暗に、ちゃんと調べようよ、と言ったのだけれど、鼻で笑われてしまった。


「ずいぶんと余裕だな。シント・アーナズ。いや、シント・ラグナ」


 俺の事を調べている?


「君も捕縛せよとの命を受けている」

「俺が犯罪者だと?」

「一緒に来てもらおうか」


 さてどうするか。魔法を使って切り抜けるのもいいが、それではかえってみんなに迷惑をかけそうだ。


「待て、ヤスナリよ。行くのはわし一人。みなは置いてゆけ」

「申し訳ございません、大御所様。それはできませぬな」


 ヤスナリ、と呼ばれた隊長はますます威圧を増す。

 すさまじい手練れだ。首も手首も尋常ではない太さをしている。

 力づくでも連れて行ける強さを持っているのは間違いない。


「大御所様、俺も行きますよ。あなた一人で行かせるなんて」

「シント……」

「あなたは俺を自分の孫も同じと言ってくれました。じゃああなたは俺にとって祖父も同じです」

「まったく。おぬしはユキネに似ておるな」


 そうなんだ。

 大御所様の優しげな言葉が妙に嬉しかった。


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