ファミリアバース 14 報酬獲得! ふふふ……
「こ、こんなに?」
集会所に戻ってさっそく成果を見せる。
トーマス所長は目玉が飛び出そうなくらい驚いていた。
「ありえない……依頼した物もたくさんあるし、これは『マツノタケ』だ。それに……『レドブルエの木の実』じゃないか! 滅多にお目にかかれないぞ、これは」
「良い物なんですか?」
「……アーナズ君、知らずに採取してきたのか?」
「はい」
「なんてこった……『マツノタケ』は珍味で高額。『レドブルエの木の実』は三日は寝なくともいいと言われるくらい栄養が豊富な素晴らしいものなんだ」
話を聞く限りではかなり良い物だ。新しく習得した≪探視≫は予想以上にうまくできた。
「これをどうする気かね?」
「良い物なら売りたいのですが」
「そうか、それなら伝手がある。紹介しよう」
とてもありがたい申し出だから受けておこう。
本来の依頼を遂行したことで、報酬をもらう。かなり多めに採取したからボーナスがついた。5000アーサルにプラスで6000アーサル。計11000アーサルだ。これは嬉しい。
で、集会所を出てすぐに市場へと向かう。
商会に行き、『マツノタケ』と『レドブルエの木の実』を買い取ってもらった。
トーマスさんの紹介ということで、交渉はすんなりまとまる。というか店主のおじさんはかなり喜んでいた。
『マツノタケ』が七本、『レドブルエの木の実』が四個で、引き換えにもらったお金は、なんと五万アーサル!
また生き延びられる日数が増えた。ふふふ……
「君! そこの薄ら笑いの不気味な少年!」
なんか後ろから声をかけられているな。
しかし、薄ら笑いの不気味な少年に心当たりはない。
俺じゃないだろう、と無視して進むが――
「黒髪の君だよ! 待ちたまえ!」
黒髪なら俺だ。
ラグナ家の人間は大体赤髪なんだけど、俺は母さん譲りの黒髪だった。
振り向くと帝国軍の標準装備に憲兵の腕章をつけた人たちがいる。
「なんでしょう?」
「我らはダレンガルト憲兵隊の者だ。君は見ない顔だね」
「はい、今日ここに来たばかりです」
「よければ名をうかがっても?」
隠す理由はないので、話す。
「シント・アーナズ……冒険者か。それであれば協力をお願いしたい」
「協力、ですか?」
「ああ、この男をどこかで見ていないか?」
差し出された写真を見る。失礼だが人相の悪い中年の男が映っていた。
知らない顔だけど、どこかで見たような気がする。
「記憶にはないですね。この人は?」
「指名手配犯だ。名前は伏せるが、見たら手は出さずに通報してくれたまえ」
「わかりました」
憲兵の人たちは忙しそうに走っていった。
あの様子だと、町自体が封鎖されるのも時間の問題だと思う。
「やっぱりしばらくはここにとどまるしかないな」
そうと決まったら食事。そのあとは宿だ。
★★★★★★
「これはうまい。うますぎる」
テーブルいっぱいに並べられた料理の数々。湯気の立つ暖かい食べ物は色とりどりで、見ているだけでも美味さが伝わってくる。
大通りを歩いているうち、引き寄せられるように入った料理屋で食事を満喫しているところだ。
最初はなにを頼むか決まらなかったので、上から下まで全部頼んでみた。
「はあー、こんな素晴らしい料理があっていいのか?」
味は濃い目で、旅の疲れが吹き飛ぶようだ。気に入った。毎日でもいいな。
あっという間に全て完食。
ごちそうさまでした。
食後に水を飲んでいると、他のテーブルにいるお客さんの会話が耳に入った。
「来るらしいよ」
「来るって、なにがだ?」
なんということもない会話だけど、来るってなんだろう。
「指名手配犯を捕まえにさ、大貴族が」
「ああ、噂の? こんな田舎に来てどうすんだか」
「大貴族が動くってことは、そうとうやべえ極悪人なんじゃないか?」
「怖いこと言うなよ。で、どこの貴族サマだ?」
ん? これは気になる。ラグナ家だったらどうしよう。
「憲兵が話してるのを聞いた。あのガラルホルン家だってさ」
「ええ……超名門の大公家じゃん」
なんだ、ラグナ家じゃないのか…………ん? ガラルホルン!?
「ぶっ!」
盛大に水を噴き出してしまった。
なんでここにガラルホルン家が?
いやいや、ありえない。
「お客さん、だいじょうぶ?」
「あ、すみません。俺が掃除を……」
「いいのよ、それよりもお水足しますね」
「ありがとうございます」
店のお姉さんに心配されてしまった。
いやー、聞き間違えじゃないよね? まさかのガラルホルン家とは。
魔法の超名門ラグナ大公家と双璧をなす存在。帝国の武を司る貴族であり、神話の存在『剣神』の血を引くとも言われるもう一つの大公家。それが剣の超名門ガラルホルンだ。
そこまではいいのだけれど、問題は顔見知りがいるということ。
俺の母さんはガラルホルン家からラグナ家へ嫁いできた。
つまりはあの家の血を俺も引いているわけで。ガラルホルン家の人々は親戚なのだ。
そして、できれば会いたくはない。
「もし会ったとしても他人の振りをしたほうがいいな」
用があるのは指名手配犯であって俺ではないはず。
問題なし。冒険者稼業を続けよう。
★★★★★★
食事処を出て宿に向かう。
ダレンガルトの宿屋『樹果荘』は歴史を感じさせる雰囲気たっぷりの宿泊所で、飛び込みでも普通に泊まれた。
夜になって窓のそばに座ると、風が微かに入り込んできて涼しい。
つい二週間前まで敷地の隅にある小屋が家だった。
今は家こそないけど、こうして好きにできる。美味しいものは食べられるし、仕事をして人の役に立てた。
二週間前の自分はこんな未来を想像できなかっただろう。
「…………」
少し眠くなってきたな。
椅子に座ったまま寝てしまいそうだ。
「…………」
なんだろう。どこからか声が聞こえるような。
眠いから放っておいてほしい。疲れているんだ。
「…………」
なにかを訴えかけられているような……
……
…………
………………!?
「≪自動障壁≫!」
「……ちっ!」
舌打ち。そして黒光りするナイフ。
魔法の障壁が凶器をギリギリで止める。
一気に血が全身を回り、眠気がどこかへと吹っ飛んだ。
「……すみません、誰ですか?」
「……」
怪しい風体の男だ。顔をマスクで隠している。
ノックをせず声もかけないなんて、非常識極まりない。
「……おとなしくしてもらおうか」
「はい?」
「死にたくないだろう。言う事を聞け」
強盗、だろうか。
あるいはなにか事情があるのかも。話を聞いてみよう。
「刃物片手にこそこそと。しかもノックもせずに来るなんて、失礼では?」
「ノックはした。変装もだ。出てきたところを捕えるつもりが、おまえは寝ていた」
いきなり説明しだしたぞ。
「だから変装を解き、ナイフを首にあてがって、脅しをかけるつもりが――」
「なるほど。そこで俺が起きた、と」
「変装をはじめとした準備が全て無駄になった。時間の無駄だった。ひどい話だ」
知らないよ。
なんだこの人。理屈っぽいし、変わってるな。
「これ以上、口を開くな……おとなしくついてこい」
「口を開かないと息ができない」
「……呼吸は許可する」
やっぱり変な人だな。気味が悪いし、隣の部屋の人に迷惑かもしれない。帰ってもらおう。
「≪物体移動≫」
魔力でできた見えないもう一つの手で、ナイフを掴む。
≪物体移動≫の力は俺の腕力と同じだから、怪しい男を持ち上げて投げる、なんてことはできない。ただこれで刃物は封じた。
「……なに?」
「すみません、眠いので帰ってください。また来たら憲兵隊に通報します」
空いたもう一つの手で構える。
使うのは≪魔弾≫。窓から外に吹っ飛んでもらう。
「≪魔弾≫」
「!?」
腹のど真ん中に≪魔弾≫が命中。怪しい男は外に投げ出された。
「ん?」
でもいま≪魔弾≫を防いだな。これでは倒せない。
すぐに外を確認したけど、誰の姿もない。逃げたみたいだ。
困った。戻って来られても嫌だし、ちゃんと鍵をかけてから寝よう。
「それにしても……」
奇妙な声を聞いた気がした。そのおかげで目が覚めたのだけれど、胸がざわつく。
うーん、街道の封鎖、指名手配犯、遺跡の近くで眠ってしまったこともそうだし、ガラルホルン家がやってくるらしいし、今の変な人といい、この町でなにが始まろうとしているんだ?
「寝よ」
考えてもしかたがないので、寝ることにした。




