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シント・アーナズ【アサシネイション】3 シャドウプレイヤー

「シント、通りに戻る?」


 ラナから緊張が伝わってくる。


「うかつに動かない方がいい。下がって」


 戻るのは難しいだろう。

 簡単には逃がしてくれないし、影に潜めるのなら人の多いところはこちらが不利になりそうだった。


 影を使っていることだけは理解した。

 ならば、こちらは光を使おう。


「ラナ、目を覆ってほしい」


 彼女はすぐに目を隠す。


「≪照明之灯(ライトトーチ)≫」


 近くに強烈な光を生み出して、俺たちの影を一方向に固定。

 これにより、出てくる場所を予測できる。


「対応が早い。やるな」


 予想は的中した。

 暗殺者の男は、感心した様子で路地裏の影から出てくる。

 手をかかげ、魔法の発射体勢に入っているのが見えた。

 

「≪シャドウシュート≫」

「≪魔法障壁(マジックシールド)≫!」


 男が使用したのは聞いたことのない魔法だ。

 黒い塊の弾が数発、飛んでくる。

 ≪魔法障壁(マジックシールド)≫で対処しようとするも、一部を切り裂かれてしまった。


「今度も速い。次は……≪シャドウスピアーズ≫」

「なんだって!?」


 光で固定した俺の影がうごめき、黒い槍が突き出てきた。

 黒蛇竜の盾(ヨルムンガンド)がすんでのところで防ぐ。


「≪魔弾(マダン)≫!」


 お返しの反撃。


「あぶねっ!」


 魔力弾が男の頬をかすめる。

 障壁を展開しないのなら、魔法士じゃない。


「フゥゥゥゥゥ……この距離はだめだな」


 呼吸が変わる。

 男は腰の後ろから黒光りするナイフを取り出した。

 空気が急激に冷たくなるような錯覚。

 ここからが本番か。


「≪ダークテンタクルス≫」


 謎の魔法が発動されると、周囲の影から一斉に腕が現れた。

 うねる影の手が俺の黒蛇竜の盾(ヨルムンガンド)を抑える。


「盾は抑えた。やらせてもらう」

「≪魔衝拳マショウケン≫!」


 ナイフを手に接近してくる男に対し、≪魔衝拳≫を発動。

 ≪衝波(ショウハ)≫と≪硬障壁(ハードシールド)≫によって覆われた拳で迎え撃つ。


 黒のナイフと≪魔衝拳≫がぶつかり、火花を散らす。

 黒くて軌道の読みにくい短剣のラッシュを防ぎきり、男が離れようとする刹那に魔力を炸裂させた。


「≪衝波(ショウハ)≫!」

「いっ!?」


 手から放つ衝撃波は、点ではなく面を破壊する。

 腕を交差させて防御態勢に入った男めがけ、次の手を打った。


「≪照明之灯(ライトトーチ)≫」


 照明弾を二連発。

 地を這うように進ませて、地面に影を作らせない。

 

「影を消したか。戦闘アイキュー高すぎだろ」


 せんとうアイキューってなに?


「だが、まだだ。≪ダークテンタクルス≫」


 再び黒い腕を看板の影から生成。それを使い、彼は自分を引っ張り上げた。

 これにより追撃のタイミングを外されてしまう。

 相手を縛るだけじゃなく、自分の体を無理やり運ぶだなんて、恐れ入った。

 

(シント、ラナを逃がしたほうがいいのではありませんか?)

(このヒト、すごく強くない? ラナが危ないよ)


 そうなんだけど、返事をしている暇さえなかった。

 今のところ、ラナは無事だ。最初の奇襲以降、彼女は狙われていない。


「そろそろ決めるか……≪シャドウダイブ≫」


 男は影の中に潜り込んだ。

 ≪シャドウシュート≫、≪シャドウスピアーズ≫、≪ダークテンタクルス≫、≪シャドウダイブ≫と、四つまでは魔法を確認した。


 そろそろ決める、と言うからには奥の手を使うのだろう。

 警戒を全力で高める。

 ≪探視サーチアイ≫を発動し、なに一つ見逃さない構えで対応だ。


 魔力の流れは通り全体を覆い、容易には動きをつかめなかった。

 だが、真横から不吉な魔力が盛り上がる。


 音もなく現れる男に対し、近距離用のぶっ放し魔法≪魔衝発破(マショウハッパ)≫を撃ち放とうとして、やめた。


「本物じゃない!」


 現れた男は魔力の塊。人間ではないとわかる。

 本命は――


「後ろか! ≪衝波(ショウハ)≫!」


 手ではなく背中から発動した衝撃波が真後ろの空間を吹き飛ばした。


「おい! 嘘だろ!」

 

 俺を背後から急襲しようとした男は、≪衝波(ショウハ)≫をまともにくらっただろう。

 しかし、振り向く事はしない。

 体を向かせる、という行為はそれだけで致命傷をもらう可能性がある。


 地面へ飛び込むように前転し、障壁を展開しながら向きを変えた。

 男は首や肩を回しながら、痛そうに顔をしかめている。


「あんた、どうなってる?」

「それはこっちのセリフですよ。見た事のない魔法だ」

「同じことを言いたい。俺の≪シャドウダブル≫が初見で破られたのは初だな」


 さっきの魔法は≪シャドウダブル≫というのか。

 影を使って分身を作る魔法だと思う。


「見ればまだ少年。なのにこの強さ……壮絶な人生じゃなきゃ身につかないはず」

「大げさです」

「それに、あんた今……背中から魔法を撃ったな。魔法は基本、『魔門まもん』からしか発動できないだろ」


 男の言う通り、魔法は『魔門』から放つ。

 わかりやすい場所だと、手の平、指先、目、口、顔の前とか。

 魔法の起点とするのにイメージしやすい箇所を『魔門』という。


「基本はそうですね」

「基本を外せるんなら、かなりの修練を積んでる。それこそ人生の大半をつぎ込むくらいにはな」


 それでだいたい合ってる。

 十歳から今に至るまで、魔法を練習し、実践してきた。


「いまさら聞くのもどうかと思うが、あんたはシント・アーナズ。それで合ってるか?」

「ええ」

「もう一つ聞く。あんたは暗殺者なのか?」


 なんの話だろうか。


「違いますね」

「まあ、そうだよな。暗殺者かと聞かれて、そうだと答えるヤツはいないか」


 この人、変わっているな。


「あなたが暗殺者でしょう」

「違う。だが、そうだ」

「どういう意味?」

「暗殺者を始末するのが俺の仕事なんだよ」


 なんて危ない職業なんだ。

 暗殺者専門の暗殺者か。世の中には変わった仕事もあるのだな、と思う。


「だったら誤解です。俺は暗殺者なんかじゃない」

「そうか? 俺が聞いた話じゃ殺した相手の妻や娘をさらってハーレムを築いてるってことだったが」


 なんという破廉恥な話だ。

 そんなことするわけないでしょうが。


「あんたのギルドを少しばかり調査したが、女ばかりだしな」

「たまたまですよ。みんな大切な仲間で、家族です」

「家族か……ふっ」

「おかしいですか?」

「悪い。バカにしたわけじゃない。ちょっと……そう、ほんのちょっとだが懐かしくなっただけだ」


 男はナイフをしまった。

 魔力が小さくなって、警戒を解いたのがわかる。


「少し、話ができるか?」

「……」

「戦う気はもうない」

「俺の賞金を狙っているのに、やめると?」

「それだよ。賞金、と言ったな。うん、違うんだ。話がまるで違う」


 違う?

 

「俺の名はトール。表向きは冒険者。本業は暗殺者の始末だ。裏ギルドってヤツだよ」

「うらぎるど……ってなんですか?」

「普通じゃ誰も受けないような案件を扱う」

「暗殺者の暗殺、ですね」

「話が早くて助かるな」


 ラナに目を向ける。

 彼女は首を横に振った。裏ギルドについてはなにも知らないようだった。


「あんたと直に会ってわかった。依頼の内容は嘘だ」


 賞金ではなく、依頼か。


「俺の話、信じるか? 信じるなら腕を下げてくれ。こちらも武器を置く」


 俺は魔法の発射体勢をしたままだ。

 そうだな。トールと名乗ったこの男は、最初の奇襲以降、ラナを狙わなかった。狙う素振りもない。信じてもいいと思うのは間違いだろうか。


「いえ、このままでお願いします」

「ふー……ま、当然か。しかけたのはこっちだ」


 トールさんが息を吐くと、ラナがつられて息を吐いた。

 俺は魔法の発射体勢を解かない。


「そのまま聞いてくれ。俺は二億アーサルの報酬で依頼を受けた。極悪暗殺者のシント・アーナズを退治してくれ、と言われてな」

「極悪暗殺者って、ひどいですね」

「受けたのは今日。知人を経由しての依頼だ。あんた、そんなことされる心当たりは?」


 今度は俺が答える番か。


「あります。俺はある組織と対立していますから」

「対立の理由は?」


 組織の名を聞かないあたり、そうとうな場慣れをしているか、すでに知っているか、どちらかだろう。


「ウチのメンバーをさらおうとしました」

「なるほどな」

「俺の首に一億アーサルの賞金がかけられているみたいで」

「あんたが倒した連中は裏社会の殺し屋だ。やっぱりそうだったか」


 初めからわかっていたかのような口ぶりだった。


「やっぱりと言うなら、最初からわかっていた?」

「いいや、確信したのは直に会って、戦ってからだ」

「怪しい依頼だったんですね」

「まあな。情報の出所が曖昧だったから疑問を持った」


 それなのに俺を襲った?

 トールさんは嘘を言っていないと思う。だけど、なにか隠していると感じた。


「……」

「信用できないか?」

「いえ、今の話だけで戦いをやめるっていうのはちょっと。できれば全部話してほしい」


 俺の言葉を聞くと、彼は頭をガリガリし始めた。渋い顔だ。


「嫁さんがな……」

「奥さん?」

「俺は初め、依頼を断った。けど、ウチの嫁は勘が鋭いんだよ。なにかあるかもしれないから依頼を受けて会ってから決めろ、とか言うんだぜ?」


 表情を見るかぎり、奥さんに頭が上がらなそう。


「あんたの件から手を引こう」

「助かります」


 トールさんはおそらく本気じゃなかった。

 まともにやり合ったら、どちらかが死ぬのは疑いない。


「依頼主を聞いても?」

「憲兵長官だ」

「なっ!?」


 あまりにもあっさり言うものだから、言葉を失いかけた。

 しかしこれでミュラーさんから聞いた話に合点がいく。

 饗団が動く時、不自然なほどに憲兵が動かないという。


 長官には少しばかり世話になったけど、是非とも話を聞きたいところだった。

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