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公女殿下はお悩み中

 フォールンでの依頼は尽きることがないように思えるほど、毎日やってくる。


 最近で一番多いのは、隊商の護衛依頼だった。

 主にフォールン都市圏の町や村までの護衛は、増えてきたモンスターの目撃情報や、発生する賊への警戒だろうと思う。


 戦闘員であるアリステラとカサンドラが主に護衛を務め、時にはラナがバックアップにつく。

 俺は俺で、採取や失せもの探しといった、≪探視サーチアイ≫を使える依頼に当たっている。


 細かい仕事が多いけど、どれも大事なものだ。

 地味なのは承知だが、大仕事ばかり狙っていてはギルドを開いた甲斐がないと思うのだった。


「ギルドマスター、ちょっと備品の買い出しに行ってくるわ」


 ミューズさんがカウンターから立つ。


「俺が行きますよ。ちょうど手が空いていますし」

「だーめ。あなたはここでどっしりしてて」

「いえいえ、俺が」

「だめったらだめよ。わたしが行くわ」


 依頼の受付は俺もできるけれど、ミューズさんが一番いい。

 できる限りここにいてほしいのだった。


「わたくしも行きます」

「んじゃわたしも」


 ディジアさんとイリアさんが、人の姿から古書と古剣に変わる。

 それを見たダイアナが固まった。


「……え」


 しまった。ダイアナは二人が変われることを知らないんだった。

 彼女はここに来てまだ数日だ。

 説明をした気になっていたな。


「なん、で?」

「ディジアさんは本に。イリアさんは剣になれるんだよ。なんでかは俺もわからないんだけど」

(わたくしにもよくわかりません)

(わたしもよく知らないのよね)

「……!」


 頭の中に声が響いたことで、ダイアナがビクッとする。


「えーと、ダイアナもどう? 俺と買い物」

「あ、うん……行く……」


 彼女は俺の背に吸着しているイリアさんを凝視している。

 だいぶ怖がっているな。


「ミューズさん、ちょっと行ってきますね」

「もう、言い出したらきかないのよね」


 俺とダイアナ、ディジアさんとイリアさんで買い物へ行くことになった。



 ★★★★★★



 頼まれた買い物は事務用品がほとんどで、あとは細々とした日用品。

 通りに出るとダイアナがびくびくしながら後ろにつく。


「ダイアナ、平気?」

「う、うん」


 そういえばこの数日間、彼女は外に出ようとしなかった。

 ガラルホルンから家出してきたということでもあるし、警戒しているのかも。


 注意深く様子を見ながら歩く。

 ダイアナは、周りを見てはうつむく、を繰り返している。


(シント、ダイアナはなにを見ているのでしょうか)

(怖がってるわよね)


 俺にもそう見える。

 思い当たるふしはあった。

 十歳の時、俺が本宅から追い出される少し前のことだ。彼女が持つ【才能】のことを本人から教えてもらった。


「たしか【細の眼】だったっけ」


 ダイアナの【才能】は眼に関係するものだという。

 その時聞いたのは、いろいろ見える、とざっくりした内容だった。


「眼に関する【才能】はレアですから、人とは違うものが見えているのかも」

(それは、難儀なことです)

(なんぎなんぎ)

「ディジアさん? イリアさんまで」


 聞き捨てならないことを言われたので、尋ねる。


(だって、それって見なくてもいいものが見えてるってことじゃないかなー)

(わたくしもそう思います)


 言われて納得する。

 思い出の中のダイアナは、なにもない場所を見ている時があった。


 気になる。

 しかし聞いていいものか、迷うのだった。


(ダイアナはなにが見えてるの?)


 聞いたっ!?

 イリアさんがずばっと斬りこむ。


 またもや体を震わせたダイアナは、一度だけ俺をちらりと見て、うつむいてしまった。


「ダイアナ、戻ろうか?」

「い、いいの。お買い物、行く」


 意思は固いようだ。決意めいたものを感じる。

 ダイアナは買い物なんてしたことがないだろうし、いい体験だろう。


(シント、あとでお話があります)


 ディジアさんが小声で語りかけてきた。真面目なトーンだったので、少し驚く。


 それから商業区に入って、買い物をすませる。

 道行く人の数が多いのはいつも通りだ。

 あとは帰るだけなのだが、振り返るとダイアナの姿がない。

 

「しまった。はぐれたか」


 フォールンの商業区は慣れないと人の波に呑まれる。

 周囲を確認して、すぐにダイアナを発見。しかし、問題が発生中だ。


 商業区の中央広場。待ち合わせ場所の名物となっている英雄像の前で、彼女が取り囲まれている。


「へいへーい。君、迷子? おれたちに送らせてよ」

「それとも誰かと待ち合わせ? 一緒に遊ばねえ?」


 数人の若者が、ダイアナに声をかけているようだ。

 彼女はなにが起こっているかわからず、驚愕していた。


「可愛いねー。いやほんと! まじでさ!」

「友達も呼んでくれよ。盛り上がろうぜ! フォー!」


 えらくノリのいい若者たちだ。


(シント、助けましょう)

「ええ」


 若者たちに割って入り、ダイアナの手をとる。


「さあ、行こう」

「あ……」


 だが、俺たちの行き先を若者たちがふさぐ。


「へいへーい、ちょっと待ってよ! おれらが先に話してんすけどー」

「そーだぞ。順番があるだろぉ」


 なんの順番だ。

 

「いや、ちょっと待て、こいつ……ほら、あの空に浮いてた……」

「え、マジ!?」


 彼らは俺の顔を知っているようだった。

 先の『フォールンの大穴』事件ではいろんな人と一緒に戦ったから、知られていても不自然じゃない。


「えーと、そのー、すんませんしたー……」

「さよなら、さよなら」


 最後まで軽いノリのまま、彼らは去っていった。


「ダイアナ、だいじょうぶだった?」

「う、うん。シントって……有名、なの?」

「どうだろう? たまたまじゃないかな」

「たまたま……」


 ダイアナはなにかを考えこんでいるようだった。どことなく思い詰めている気がする。


「戻ろうか」


 買い物は終わっているので、寄り道せずに事務所まで戻る。

 その間、彼女はずっとうつむいたままだった。


「おかえりなさい。買えた?」

「もちろんです。ダイアナも初めて買い物を」

「今度は買い物まで……公女殿下、おめでとうございます」

「あ……う、うん……」


 おおげさすぎないか。

 ミューズさんはとても感動した様子だ。

 一方でダイアナはどことなく沈んでいる。

 悩みを抱えているのだろうか。聞いた方がいいかな。


「そういえばダイアナ――」

(シント、それはまだいいでしょう)


 ディジアさんに止められる。

 なぜ止められたのかはわからない。ただ、重要なことに思えた。


 その後もダイアナは沈んだままだ。声をかけられぬまま、夜になって、みんなが引き上げた後の事。


 寝る前の体操を行っていたところ、事務所の定位置に収まっていたディジアさんとイリアさんがヒトの姿になった。


「シント、お話があるのです」

「うん、ちょっと話そ」

「ええ、もちろんです」


 おそらくはダイアナのことだろうと思う。


「ダイアナのことなのですが、少し、気をつけた方がいいですね」

「今日もずっと暴走しかけてたんだよ」


 暴走とはおだやかじゃないな。

 二人は俺にわからないなにかを感じていたのかもしれない。

 

「彼女は力を制御できないことに思い悩んでいるのでは?」

「力の制御、か。なるほど」

「サナトゥスだっけ? 原因はアレだわ」


 古びた屋敷にまつわる件は、【神格】疑剣サナトゥスによって引き起こされたのだと考えている。

 しかし、彼女は常にびくびくしていて、恐れているようだ。


「つまり、所有者でありながら、扱いきれていない、ということですね」

「わたくしはそう思います」


 俺の従兄であるイングヴァル・ラグナは、【神格】によって利用され運び屋となっていた。そんなケースもあるくらいだから、不思議とは思わない。

 これまで見たことのある【神格】はどれも人知を超えた、いわば兵器だった。しかし、疑剣サナトゥスは明らかに異質だ。


「人に幻を見せたり、魔物を生み出したり。ぶっとびすぎています」

「ねえ、シント、手伝ってあげたら?」

「イリアさん、どういうことですか?」


 ディジアさんもそうだが、彼女もまた時々不思議なことを言う。


「魔法でこう……ぽーんと」

「ぽーん? すみません、なにを言っているのか」

「ダイアナを介してあの剣を制御しろ、とイリアは言いたいようですね」

「そうそう。さすがディジア」


 意訳がありがたい。


「新魔法を編み出せと?」


 二人がうなずく。

 【神格】を制御するだなんて、ありえないことだと思う。ただ、ヒントはあった。()()()()()()()()、とディジアさんが言ったのだ。

 所有者ではない俺が、ダイアナを助けて制御させる。そんなところだろうか。


「となると、もっと彼女のことが知りたいな」

「どうするのー?」

「もしかしたら、ダイアナは」


 閃いた。

 明日の朝一番に話をしてみようと思う。


「わかりました。俺に考えがあります」


 そう言うと、二人は微笑むのだった。

 

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

よろしければ評価、感想をお待ちしておりまっす。

一話3000文字前後。毎日更新! 楽しんでいただけれっば幸いです。

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