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公女殿下は居候

「う……ん」


 みんなの視線が注がれる中、ダイアナが軽く身じろぎする。

 見ているのは失礼なんだけど、目が離せなかった。


「……?」


 ゆっくりと目を開けた彼女は、俺たちを見て驚き、


「!?」


 毛布を頭までかぶってしまったせいで、足が出る。

 頭隠して尻隠さず、だな。


「ダイアナ、だいじょうぶだよ。ここは俺の家。みんなは俺の家族みたいな人たちなんだ」

「……」


 毛布ごしに声をかけてみる。

 彼女は毛布から顔の半分だけを出して、こちらを見た。


「わたくしはディジア」

「わたしはイリアだよー」


 子どもの姿を見て、少し安心したようだ。そのままの姿勢で、こちらを見ている。


「はじめまして!」


 と、ラナが元気よくあいさつをする。

 可愛いらしい笑顔がダイアナの警戒心を解きそうだったが――


 俺の後ろで腕を組み、仁王立ちするアリステラとカサンドラを見て、また引っ込んだ。


「……なんで隠れる?」

「人の顔を見るなり、ひどいさ」


 いやいや、あなたたち威嚇しすぎ。

 二人はガラルホルン家の第三公女フランヴェルジュにさんざんやられたから、警戒するのも無理はないのだが。


「ダイアナ、まずはなにか食べないと。喉も乾いているでしょ?」


 水を注いだグラスを近づけると、顔を出して半身を起こした。

 震える手でそれを持ち、少しずつ水を飲んでいる。


「まるで小動物さ」

「……可愛い」


 アリステラがぼそりと言ったのを、俺は聞き逃さなかった。


「ミューズさん、少しの間ダイアナをここに置いても?」

「え、ええ、もちろんよ。でもいいの? 公女殿下よ。ガラルホルン家が黙っているとは思えないんだけど」


 ミューズさんの心配は当然だろう。

 しかし、俺たちの会話を聞いたダイアナは、取り乱した。


「い、いや……なの! 帰りたく、ない!」


 家に帰りたくないのは、彼女と会った時の言葉と関係しているのだと思う。

 『命があぶない』、と言われたそう。


 はたして、あの時出てきた俺の曾祖父のシャルル・ガラルホルンが本物だったのか、疑問だ。

 亡くなっている人間と会話ができるなんて、普通じゃない。


「あそこは……もう、いやなの……」


 うつむきながら剣を手に取って抱きしめる。

 空気が変わった。

 とたんによどんだ魔力が事務所内へ漂いはじめる。


「え?」

「な、なんか……変じゃない?」


 メンバーたちも気がついたようだ。

 そして、入り口の近くに半透明の人間が出現する。


「ギルドへの依頼じゃないな」


 年の頃は七十代といったところか。

 白いヒゲをたくわえた老人が、ぼーっと立っている。とうぜんのように足はない。


「だ……誰……?」

「なななななんでさ!」


 ミューズさんとカサンドラが下がった。


「ほんとに幽霊?」

「うそでしょ?」


 アリステラとラナは平静なようで、声がうわずっている。


「シント、これはなにが?」


 ディジアさんの質問だったが、答えられない。おそらくは悪い魔力でできた魔物、としか言えそうになかった。

 

「生きてるヒトじゃないのね?」


 イリアさんが無謀にも近づいて、触れる。

 

「あ、スカスカだー」

「イリアさん、いたずらはやめたほうが」


 見覚えのない人間だ。あるいはウチの土地をかつて所有していた人かもしれない。そんな想像がふくらむ。

 

 横を見ればダイアナが荒く呼吸を繰り返している。

 魔物らしきものが出てきた理由は、ダイアナに原因があると思うのだった。


「ダイアナ、落ち着いてほしい」


 そっと手に触れる。かなり冷たい。


「ウチにいるのは大歓迎だよ。久しぶりに会えたし、嬉しい」

「シン、ト……」


 彼女の呼吸が戻ると、半透明の老人が消えた。

 やはり関係しているのは間違いない。


「みんな、おねがい。ダイアナを放っておけない」

「……」

「……」


 みんな呆気にとられている。

 

「久しぶりにみんなで食事にしよう。ディジアさん、イリアさん、すみませんがダイアナをお風呂に入れてあげてくれませんか?」

「え、いいよ」

「そうですね。体を温めたほうがいいでしょう。さあ、こちらへ」


 ディジアさんとイリアさんに手を引かれて、ダイアナが事務所から出る。


「ミューズさん、カサンドラ、申し訳ないのですけど、食事の用意をお願いします」

「ええ、いいわよ。今日はもうお仕舞いにしましょ」

「そうさねえ、だいぶ痩せてたし、ちょっと見てられないさ」


 食材は買ってあるので、問題はない。あるとすれば別のものだ。


「アリステラ、ラナ、買い物に付き合ってほしい」

「ん、いいけど」

「なにを買うの?」

「女性の身の回りのものなら女性に聞いたほうがいいと思って」


 あ~、と二人は納得してくれたようだった。

 

「それいいとして、シント、あの剣、なに?」

 

 アリステラは異常を感じ取ったようだ。


「俺にもなにがなんだか。もしかしたら【神格】かもしれない」


 なんでも【神格】のせいにするのはよくないが、今日体験したことを説明するとしたら、ダイアナの持つ片刃の剣が神器だと考えるのがいい。


「ガラルホルン家っていっぱい神剣を持ってるんだね!」


 ガラル公国が所有する【神格】は四つだとされている。

 五本目があるなんて、知らなかった。もっと隠しているかもしれない。


「話を聞くとしても、食べてからだね」


 さっそく買い物へ向かうことにする。



 ★★★★★★


 

 二時間後――


「……」


 大きなテーブルを囲み、食事を始めたのだが、みんな口数が少ない。

 ダイアナはよほどお腹がすいていたようで、手が止まらない様子だ。


「ダイアナ、おいしい?」


 こくりとうなずく。

 そろそろ聞いてもだいじょうぶかな。みんなも気になっているようだし、話をしてみようか。


「フォールンには一人で?」

「……うん」


 ガラル公国の公都はフォールンからだいぶ遠い。お供もつけずによく来れらたものだ。


「どうやって来たんだ?」

「馬車……に隠れた、の」


 馬車はいいとして、隠れたというのはなんだろうか。

 たどたどしく語るダイアナの話はびっくりするものだった。


 ガラルホルン家の宮殿を出て、道の脇に止まっていた荷馬車に隠れる。

 箱の中で眠ると、起きた時には公国を出ていたそうだ。

 とんでもない行動力だと思う。


「よくバレなかったね」

「……サナトゥスが」

「!?」


 手にしていたグラスを落としかける。危うくミルクを無駄にするところだった。

 

「サナトゥスって、ほんと?」


 食べながらうなずいている。


「シント、どうしたのですか?」


 返事をしようとして、言葉につまった。

 サナトゥス、と呼ばれる【神格】はある。

 【神格】疑剣サナトゥス。

 【神格】であることはわかっているのに、神剣なのか、魔剣なのか、判別ができない代物。


 『神』がつくのは剣神のかけら。

 『魔』がつくのは魔神のかけらだとされている。

 しかし疑剣サナトゥスは、内包する魔力を測れば【神格】だとわかるが、どちらに属するかわかっていない。


 書物で読んだ話を思い浮かべる。

 疑剣サナトゥスは南北朝時代に起こった争乱の最中で消えたはず。

 いつからガラルホルン家にあったのだろうか。


「サナトゥスが隠して、くれた、の」


 食事をしながらだから、セリフがとぎれとぎれである。


「公女殿下、お口にあいましたようでよかったですわ」

「あ……うん。でも……公女はやめて、くだ、さい……」


 ミューズさんは返答に困っている。


「さすがにそれはちょっと」

「ミューズさん、そこをなんとか。ダイアナは理由があってここへ来たみたいだし、なんだったら仕事を手伝ってもらっても」

「いやー……そんなことさせたらわたしたちアレにならない?」


 と、彼女は手で首を斬る仕草だ。


「いくらなんでも死刑はないと思いますよ」


 ニッコリと返したが、ちーんとしている。冗談は通じなかったようだ。

 俺たちの様子を見て、ダイアナが不安そうになる。


「彼女はとりあえずウチの居候ですね」

「もっといい言い方ないのかい!?」


 ようやく少し笑いが起こった。

 突然のことでどうなるかと思ったが、雰囲気は悪くない。


 知りたいことはたくさんあって、聞きたいことも同じくらいある。

 だけど今はまだゆっくりでいい。

 

 食事の光景を見ていると、そう思うのだった。


 

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