ファミリアバース 11 さようなら、アールブルク
戦いのあと、全ての施設を破壊した。
合流したガルダさんに『やりすぎ』と怒られたが、彼女はうまくやったようで、働かされていた人々は全員無事。
農園の関係者は火の手を見て駆けつけた憲兵が逮捕した。いちおうは一件落着だろうと思う。
俺個人としてはモンスターの討伐をやり遂げたことで、報酬の他にブロンズ級シングルからブロンズ級ダブルに等級がアップ。やったね!
しかし、農園がラグナ家と関係していることを話すのは迷った。嫌な予想だが、アールブルクの人たちがそのせいで報復されるかもしれないと考えたからだ。
迷いに迷った挙句、憲兵隊の事務所へ出向いてブルーノ男爵に話してみた。
「はあ? 生意気なこと言ってんじゃねえよ、坊主。ガキが大人を心配する必要なんざねえ」
「はあ」
頼もしいというか、豪快というか。
「この件はおれの上司に伝える。公国には介入させねえよ」
「憲兵隊の偉い人、ですか?」
「そういうこった」
心配はなさそうだけど、それでも不安だ。
「それよりもよ……おまえさん、マジでナニモンだ? おれたちが追ってたヤマはキナ臭すぎてうかつに手が出せなかった。尻尾すら掴めなかったんだぜ?」
それだけラグナ家の影響力が強いということだろうか。
あんな誰もいかないようなところにデカい家と農園を作るくらいだし、元・我が家ながら呆れるしかない。
「たまたまです」
「たまたま、ねえ」
「ではこれで」
と席を立とうとして、引き留められる。
「待った」
「……なにか?」
「最後に改めて礼を言わせてくれ。ほんとうに助かった」
ブルーノ男爵が深々と頭を下げる。これには慌てるしかない。
「いえ、モンスター退治のついでですし」
「ったく、あれがついでだと? おかしなヤツだなあ、おまえさんは」
「褒め言葉として受け取っておきます」
そう言うと、男爵は笑ったのだった。
「そうそう、礼と言っちゃあなんだが、これを受け取ってくれ」
謎の紙袋を渡される。
食べ物……ではないらしい。
「これはなんですか?」
「服だよ。おれが昔着ていたものだ。実は昨日も言おうと思ってたんだが……おまえさん、それじゃ恰好がつかねえだろう」
確かに。
家から着てきたぬのの服はボロボロになっている。
さっそく着替えてみた。
帝国の軍服にも似た姿の上等なものだ。黒を基調として、銀で縁取られた衣服。しかもサイズが合っていて動きやすい。
「そいつぁおれが若い頃に仕立てたもんだ。おまえさんはおれと背格好が似てるからな。着られると思ったんだよ」
「はい! ありがとうございます!」
「細かいサイズ調整はどこかの仕立て屋に頼むといい」
ブルーノ男爵はすごくいい人だ。口調はぶっきらぼうで貴族らしくないけど、食事をおごってくれたことといい、面倒見のいい人なんだな。
最後にお礼を述べて、事務所を後にした。
そして向かいの冒険者集会所へと足を運ぶ。
「フレデリカさん」
「あら? 新しい服なの?」
「ええ、ブルーノ男爵にいただきました」
「けっこう似合ってる」
よかった。そう言ってもらえるのは嬉しい。
「シント君、ガルダさんが戻って来てるわよ」
彼女はいつも通りの様子でそこにいた。
「おかえり」
「うん」
ガルダさんは会った時と同じようにフードをかぶり、耳を隠している。
彼女は保護されたエルフの世話をしていたから、別行動をしていたのだった。
「……」
なんかじっと見てるな。なんだろう。
「えーと、ガルダさん?」
「……それ、ほんとうの名前じゃない」
「そーなの!?」
なんで偽名なんだ。
「アリステラ・フィオーネ・シルフガルダ。これが本名」
「あ、うん。俺はシント・アーナズ。改めてよろしく」
「よろしく」
流れで自己紹介が始まってしまった。
「シントはこれからどこに行くの?」
「そうだなー、お金も貯まったから予定通りフォールンに行こうと思う」
「そう」
「君は?」
「一度故郷に帰る。そのあと、他の人さらいのアジトを潰す」
彼女の瞳がギラリと光った。
怖い。
「俺も手伝う?」
「要らない。むしろ逆」
「逆って?」
彼女は小さくうなずいた。
「もしも……助けが必要な時、呼んで」
そういうことか。なら遠慮なく声をかけよう。
「わかった。その時は呼ぶよ」
「うん」
ガルダさん、いや、アリステラが手を差し出す。
俺はその手を握った。固い握手だ。
「フレデリカさんもお元気で」
「ええ、ほんとうはもっといて欲しいけどね」
「すみません」
「なにか夢があるのでしょう?」
「はい!」
世界最大の都市フォールンで蒸気機関車を見る。それが最初に立てた目標だ。あとは……行ってから考えよう。
しかしながら、これでようやく初めの一歩。ドキドキしてきた。
二人と別れて、馬車に乗り込む。
今度はちゃんとした会社の馬車だから、起きたら裸で牢屋に、なんてことはないだろう。
「さようなら、アールブルク」
いろんなことがあって、様々なことを学んだ。いつかまた来ようと思う。
「次がどんなところなのか楽しみだ」
だいぶ遠いから、景色を楽しみながら行くとしよう。
こうして俺はアールブルクをあとにしたのだった。




