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ファミリアバース 10 シント・アーナズ【ライジング】・2 四属性魔導VS無価値野郎

 兵士もモンスターも取り巻きも全て倒した。

 一対一でマール・ラグナと向き合う。


「なにを……しているんだ?」

「なにって、襲ってきたのはそっちだろう」

「そうじゃない……おまえは魔法を使えないはずだろうが! なんの【才能】もないカスだって言ってるんだ!」


 俺に魔法の【才能】がないことなんて、言われなくともわかっている。


「勉強した」

「べん……きょう?」

「本で学んだんだ。ちゃんと使えるようになるまで時間がかかったけど」

「そんなわけないだろう! 魔法は『血統』と【才能】! それが常識だ!」


 それでも使えるんだから、それでいいと思う。


「は……ははは! そうか! わかったぞ! なにか道具を使っているんだな? この畑にも爆薬をしかけてさあ! ラグナ家に仕返しを――」

「≪発破(エクスプロード)≫」


 魔法をマールの邸宅へ撃ち込む。

 家の内側から発生した魔力の炸裂が、屋根と壁と柱をまとめてブッ壊した。


「これが爆薬に見えるなら病院に行った方がいい。マール従兄さんはいつも顔色が悪いし、なにかの病気?」


 従兄さんはあごが外れそうになるくらいに口を開けている。


「お、おまえええええええ! 僕の別荘になにをするんだああああああ!」


 ガラガラと音を立てて、残骸が崩れ落ちた。


「どれだけ金がかかったと思ってんだこの無価値のカス野郎があああああ!」


 怒りの≪ファイアーボール≫。さすがに取り巻きたちとはレベルが違う。初歩の火魔法だが、かなり大きな火球だった。

 

「≪魔障壁(マジックシールド)≫」


 対魔法用の障壁がファイアーボールを遮断。完璧に防ぎきる。


「そんなクソ障壁なんぞでえええええ! ≪ファイアーボール≫! ≪ファイアーボール≫! ≪ファイアーボォォォォォォォル≫!」


 今度は火球の三連発。一発一発が必殺の威力を持つ……はずなんだが、()()()()()()()


「死ねい! ボロ小屋のゴミめ! ≪アクアランス≫!」


 鋭く尖った水の槍。これも≪魔障壁(マジックシールド)≫で守る。

 やっぱりおかしい。


 ()()()()()()()()()()()()()


「いいや、そんなはずは」


 彼はかつて神童と呼ばれた。【四属性魔導】というレアな【才能】をもとに十三歳で大人でも扱えない高難度な魔法を次々と習得し、みんなを驚愕させていたんだ。


 だけど、だけど、やっぱり強くない。


 威力はそこそこある。しかし、発動までが致命的に遅い。起点を潰してくれと言っているようなものだ。


「くそっ! だったら……≪クロスファイアートルネーーーーード≫!」


 聞いたことのない魔法だ。でも関係ない。マールの前面に集まりつつある魔力の塊、その中心にあるっ術式を≪魔弾≫で撃ち抜く。


「は? え?」


 マールが放とうとした大魔法は俺の≪魔弾≫がぶつかり相殺された。

 発動までが遅すぎるから、こんなこともできてしまう。


 彼はおじい様や叔父上には遠く及ばないし、なにより数年前とまるで力が変わっていない。

 きっと勉強や練習をしていなかったんだろう。


 もういい。


「なにかの間違いだ! これは……そうだ! 夢だ! 僕が負けるはずは――」

「≪魔弾≫」

「ぎゃあ!」

「≪魔弾≫」

「ぐおあ!」

「≪魔弾≫」

「ひああ!」


 右足、左足、右腕と順に撃ち抜いていく。威力は抑えてあるから、吹っ飛んだりはしない。せいぜい骨が折れる程度だ。


「痛い! 痛いぃぃぃぃぃぃ! あ、足がぁぁぁぁぁ!」


 彼は地面を転げ回った。腕のいい職人に仕立てられた上等な服が土にまみれる。

 障壁も展開しないだなんて、さすがにサボり過ぎ。


「はあっ……はっ……はあっ……」


 ひざまずく格好のマールは大量の汗を流しながら、憎悪に満ちた目で俺を見上げた。

 もう終わりだ。これ以上、従兄さんに戦う力はない。


「マール従兄さん」

「……」

「教えてほしいことがあるんだ」


 俺はニコッと笑った。


「僕を……殺すつもりか!? そ、そんなことしたらおじい様や父上が黙ってないぞ!」

「どうでもいい。それよりも教えてくれ」

「どうでもいい……だと? おまえはラグナ家の――」

「いいや、俺はラグナじゃない。【才能】がないんだから」


 きっぱりと伝える。

 マールはこれ以上ないというほどにうろたえた。


「ば、バカな……ぼ、ぼ、僕はおまえの従兄だぞ! やめろ!」

「俺はおじい様に家を追い出されて姓を名乗るなと言われた。だからおまえたちの言う事を聞くのはそれが最後だ。やめない」


 彼は言葉を失ったようだった。がくりとうなだれる。


「どうやってモンスターを操っている?」

「……」

「じゃあいいよ。楽にしてやろう」

「やめろ! 魔力向上薬(マジックアップ)! 魔力向上薬(マジックアップ)だよ!」


 どういうことだ?

 人間の魔力を上げる薬とモンスターになんの関係がある。


「……あの薬、誰が最初にモンスターへ使ったかは知らないが……操れるようになったんだ! 何故かは知らない!」

「で、マール従兄さんはそれを使って何を?」

「聞くまでもないだろうが! モンスターを操れるんなら最強の軍隊が作れる! 僕はそれで皇帝になるんだっ!」


 なんてバカなことを。

 マールがなにになろうとも知ったことじゃないけど、その過程でどれだけ苦しむ人が増える? ふざけるなよ。


「……シント、おまえ、殺されるぞ……僕はここを使って巨額の金を稼いでいるんだ。それを破壊して仕返しなんて、バカなことを」

「仕返し? なにを勘違いしているんだ」


 俺は別にラグナに対して、なにも思ってはいない。


「俺はモンスター退治に来ただけ。ここを潰したのは()()()みたいなものだけど」

「……は?」


 犯罪が堂々と行われていたから、見過ごせなかった。それだけだ。


「悪いことしちゃダメだろ」

「ば……馬鹿かおまえは! ついで……だと? ついでで……ぼ、僕たち兄弟に……逆らって……」

「それのなにが悪い」

「おまえはなんなんだよ……イカレてる……」


 ひどいことを言う。

 マール従兄さんはいつもそうだ。


「正気じゃない……ユリス兄上も黙っていないぞ! いや! 父上だって!」

「こんなバカげた犯罪を叔父上がしているのか?」


 叔父のカール・ラグナは公国の長だ。そんな人が自ら犯罪をしているのだとしたら、俺はどうすればいい。


「……そ、それは」

 

 マールは口ごもった。様子がちょっとおかしい。


「じゃあ従兄さんの独断?」

「……」


 沈黙は肯定の証。

 どうやら独断らしい。どうでもいいが。


 話は聞けた。

 もはやマールに用はない。

 魔力を練る。それに気づいた彼は青ざめた。


「聞かれた通りに話しただろうが! ラグナの公子を殺すなんてそんな大犯罪を!」

「殺しはしない。ただ、十年くらい病院のベッドで自分のやったことを考えろ」


 恐怖に歪む顔。

 この人は自分が苦しめてきた人たちのことなんて、少しも考えていないんだろう。

 考えていることがあるとすれば、それは己のことだけだ。


「こ、この便所の隅をカサカサするクソ虫があああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアア――」

「≪魔衝発破(マショウハッパ)≫」


 なんだかよくわからない捨て台詞を叫ぶマールに向かって撃ち放つ。

 ≪魔弾≫と≪衝波≫と≪発破≫を組み合わせた対個人用のオリジナルぶっ飛ばし魔法だ。


「うげおああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ…………」


 ラグナ家当主の次男は天高く飛び、空の彼方へと消えた。

 距離も方角も計算済み。大陸を南北に分ける大河へと不時着するだろう。

 マールはかつて神童と呼ばれた人間だ。きっと死にはしない、はず。たぶん。


 戦いは終わった。

 モンスターも倒したし、依頼は達成だな。

 農園については、まあ、おまけってことで。


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