ファミリアバース 9 シント・アーナズ【ライジング】
順番飛ばしてしまいました! 申し訳ございません。
投稿し直します。
森から農園に入ってすぐ、俺は相棒のガルダさんにお願いした。
「ガルダさんは働いている人たちを逃がしてほしい」
「いいけど……あなたはどうするの?」
「この畑、燃やしてしまおう」
「は?」
いきなり燃やしたら、働いている人たちが逃げられない。避難する時間が必要だ。
だから、こうする。
人のいないところを狙って、魔法で生み出した火をつけた。
「耳を塞いでほしい」
「耳? なんで?」
「いいから」
彼女が尖った耳を両手でふさいだのを確認し、大きく息を吸った。
のけ反って、限界まで肺に空気を入れる。
昔、いとこたちに実験とか言われて水の中に入れられてたから、おかげで肺活量に自信があるんだ。
『火事だァァァァァァァァァァァァァァァ!! 逃げろォォォォォォォォォォォォォォォォ!!』
ついでに魔力も乗せる。拡声の魔法だ。
大音量の叫びと爆風が畑を突き抜けていく。
監視の兵士たちや働く人たちは声を聞き、俺がつけた火を見て混乱し始めた。
これでいい。
「ガルダさん、みんなを頼みます。兵士は俺が」
「……」
「ガルダさん?」
「二度とやらないで。耳が壊れる」
申し訳ない。
心の中で謝りつつ、彼女が行く道を空ける。
「避難させたら、戻る。それまで死なないで」
「わかった」
ガルダさんはあっという間に消えた。めちゃくちゃな足の速さだ。
「消火だあっ! さっさと消火しろ!」
「だ、だめだ! 火の回りが早すぎる!」
兵士たちの悲鳴や怒号が飛び交っている。
働かされていた人たちはもういない。
さらに燃やそう。
「≪燃焼之火≫」
この魔法は簡単に言ってしまえば、火炎放射だ。
ピンク色の花が朱に染まり、灰となって消える。予想以上の燃え具合に満足した。
「そろそろかな」
ここまで派手に火をつければ、気づかないはずがない。
駆けつけて来た悪者顔の兵士たちが怒鳴り声を上げた。
「……てめえ! なにしてんだよ!」
「ふざけてんのか! 誰だこらあ!」
誰だ、と聞かれれば、こう答えるしかない。
「シント・アーナズ。冒険者だ」
と。
「冒険者だ……? ここがどこかわかってんか? このクソガキ!」
ぞろぞろと兵士たちが集まってくる。もちろんモンスターも一緒だ。
その数は十人、二十人と増えていき……
「殺せ! ぶっ殺せ!」
「モンスターにやらせろ! ただじゃあ済まさねえ!」
五十人以上いるな。奥から出てきたのか。
「なんのつもりだこらあ!」
見ればわかるだろう。畑を燃やしている。
「火を止めろって言ってんだよおおお!」
「断る」
この場所は存在してはいけないものだ。
燃え尽きるまで、魔法をやめるつもりはない。
怒りにまかせて、男たちが武器を手に迫ってくる。
それと笛の音。
後ろに控える男が笛を吹くと、モンスターたちが動き始めた。
「あれか」
笛一つで完全にモンスターを操れるとは思えないけど、厄介だな。
先に潰させてもらおう。
「≪魔弾≫」
狙い澄ました≪魔弾≫の一撃が、笛男を撃つ。彼は衝撃で森の中に吹っ飛んでいった。
すぐにもう一つの魔法を発動。
「≪衝波≫」
近くまで迫っていた男たち数人を衝撃波でぶっ飛ばす。
「こ、こいつ……やべえぞ!」
「だからモンスターをけしかけろって!」
「笛がねえんだよ! くそ! 近づくな! 矢で殺せ!」
荒くれ者の男たちは近づいて来なくなった。代わりに石を拾って投げたり、ボウガンを使用してくる。
飛び道具か。ならアレを使う。
「≪自動障壁≫」
飛んできた矢や石が、展開した障壁によって、自動で弾かれる。
実戦で使うのは初めてだったけどうまくいった。≪自動障壁≫は通常の障壁に比べて守れる範囲が狭く、固さもいまいち。
しかし、この魔法最大の利点は、両手が空くということ。
覚悟を決めた時から、頭が、心が、何もかもが澄みきっている。
さっきから力がみなぎってきてしかたがない。
「≪烈風之禍≫」
両手を合わせて風の魔法を発動する。
暴風が渦巻きを作り出した。
「な……う、嘘だろ!」
「……やべえ! こいつはやべえ匂いがプンプンしやがるぜえ!」
巨大な風の塊を見て、男たちが逃げようとする。
今さら遅い。俺の制御下にある竜巻はどこまでもおまえたちを追う。
「吸い込まれるうううううう!」
「なにかに……つかま――」
数十人の男たちは全て竜巻によって吸い上げられ、中でぐるぐる回っていた。
このまま彼らには退場してもらう。
行き先は、そうだな。山の中でいい。
遠くに見える山中へ向けて竜巻を飛ばす。
さあ、次はモンスターだ。
笛の音がなくなったことで、奴らは自由になったはず。
その証拠に俺を包囲してきた。
問題なし。片付ける。
術式を構築。魔力を込めて放つ。
頭上に出現した大きな雷の塊を見て、モンスターたちは下がった。
あの時――人さらいのアジトの時と同じだ。体が熱く、力がさらにわいてくる。
やれる、という確信が背筋を突き抜けていく。
「≪天之招雷≫!」
目もくらむばかりの雷が炸裂し、ダイアドッグを、巨大な猪――凶牙猪を、そして黒の獅子を貫く。
聞くにたえない断末魔の声が響き渡る。
これまでおまえたちがその手にかけてきた人たちの苦しみを少しでも味わうといい。
炭となったモンスターたちは、風に吹かれて消えた。
これで兵士とモンスターはいなくなったな。
「いい調子だ。全部燃やそう」
追加で≪燃焼之火≫を撃つ。
天気が良くて風もあったから、畑がみるみるうちに炎で巻かれた。
――絶景かな。
★★★★★★
すでに大部分が火に包まれた農園。
進みながらどこまでも燃やし続け、奥にあった邸宅にたどり着く。
四人くらいの集団が慌てふためいている。
そこにいるのは、長年同じ家で育った男だ。
「さっさと消せ! なにしてるんだよ!」
「消えないんです! 火の勢いが強すぎて……」
「黙れこのグズ! なんのためにおまえらにいい思いをさせてきたと――」
手を振ってみる。
あ、俺に気がついたみたいだ。
「マール従兄さん、久しぶり……でもないか。三日ぶり? 四日ぶりかな」
「……あ?」
マールの顔面が歪む。
「なんでおまえがいる?」
「答える必要はないと思うけど」
「……」
突然のことでマール従兄さんは思考停止になったみたいだ。
「なあ、シント。まさか、だ。まさかとは思うが」
「ああ、畑を燃やしてるのは俺」
言いながら炎の魔法を放つ。邸宅の庭木が炎上した。
「ふ、ふ、ふざけんなこの無価値野郎が!」
マールが顔面を引きつらせて魔法を撃ってくる。生み出された風の刃は≪ウインドカッター≫だ。
ずいぶんと焦っているのか、狙いが甘い。
首を曲げるだけでかわすことができた。
「くそ! おまえたちぃ! シントを殺れ!」
彼の取り巻きたちが三人、こちらに手の平を向けてくる。
見覚えのある男たちだ。マールのそばに引っ付いてゴマをすってる連中だな。
「シント坊ちゃん……まさか公子に弓を引くとは」
「いくら【才能】がないからといって、やっていいことと悪いことがありますぞ」
どの口が言う。
君たちはマールと一緒に好き放題やっていたはずだ。
「≪ファイアーボール≫」
「≪ウインドカッター≫!」
「≪アースブロック≫!!」
火、風、土に魔法が同時に撃ち込まれる。
発動までが遅い。それでは避けるまでもない。
「≪衝波≫」
それぞれの魔法を直前まで引きつけてから衝撃波でかき消す。
今日はものすごく調子がいい。魔法が冴えている。
「え?」
「い、いまのはいったい……?」
取り巻きたちに加え、マールもあんぐりと口を開けて驚いていた。
隙だらけだな。罠だろうか? まあいいけど。
「≪魔弾≫≪魔弾≫≪魔弾≫!!!」
「「「ぬわああああああああ!」」」
俺の指から発動した魔弾の三連打が、立て続けに三人の魔法士を吹き飛ばした。彼らは邸宅よりもさらに奥の森の中へと消える。
これで残りは、かつて神童と呼ばれた男・マールラグナだけとなった。
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