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事件ファイル【行方不明の女学生】・1 アミールからの申し出

 なにげない日常。

 季節は本格的な夏に入っている。


 ギルドの経営は今のところ順調。

 フォールンの地下に広がる遺跡の新区域での第二次調査が始まっており、前回と同様に護衛の依頼を請けおっている。


 持ち回りで護衛を行っているので、今日はアリステラとラナが当番だった。

 なので俺はこうして事務所にて待機中だ。

 アミールが戻ってくるまで、ミューズさんの手伝いをしている。


「ギルドマスター、休んでなさいよ」

「いやー、なにかしていないと落ち着かなくて」


 何度繰り返したかわからない会話をしていると――


「戻ったよ」


 カサンドラが戻って来た。

 彼女には新市街から商業区までの、荷運びの護衛依頼をやってもらっていたのだが、思いのほか早く終わったようだ。


「僕も戻りました」


 そして、彼女の後ろから弟のアミールがひょこっと顔を出す。


「いまそこで合流したのさ」


 アミールは現在、ウチで稼いだお金を学費にして私立の学校に通っている。休みの日や学校が早く終わった日はギルドの仕事――ミューズさんのサポートとして手伝ってくれているのだった。


「……」

「アミール、ギルドマスターには自分で言いな」


 ちょっと様子がおかしい。

 なにかあったのか。


 アミールは少し緊張している。

 俺の前に来て、もじもじしていた。


「その、ギルドマスター」

「どうしたの? なんかいつものアミールじゃないけど」


 彼はどこかおっとりした風で、賢く、素早いのが特徴だ。

 しかし今は年相応の少年に見える。


「ちょっと相談があって」

「いいよ。なんでも言ってほしい」


 ミューズさんにカウンターをお願いして、場所を移す。

 カサンドラとアミールが俺の対面に座った。


「実は、同級生が学校に来なくなってしまったんです」

「同級生?」

「はい。行方不明になっていると」


 いきなり物騒だな。気になる。


「アミール、詳細を」


 話を聞く。

 アミールが通っている学校は、貴族やお金持ちが通うようなところではないが、そこそこ有名なところだった。


 春を過ぎてから中途で入った彼は当初、話しかけてくる人間がおらず、一人で過ごす時間の方が多かったようだ。

 そんな時、真っ先に話しかけてきたのが、行方不明になっているという女学生。名前は『リザ』。

 彼女の家は新市街にあり、アミールもまた新市街出身ということから、仲良くなったのだそう。


「リザが急に来なくなったので、先生に聞いてみましたが、教えてくれませんでした。なので宿題を届けに行くついでに様子を見ようとしたんです。けど、家にはご両親しかいなくて、かなり慌てていました」


 リザが二日帰らなかった時点で捜索願が出された。しかし進展はなく、すでに一週間が過ぎている。


「最初に話を聞いた時は家出じゃないかと思ったさ。そういう年頃だろう? でもそうじゃないみたいでね」


 カサンドラがそう言うと、アミールは悲しそうな表情になった。


「確かにリザは……その、家にいたくないと言っていました。冒険者になりたいけど、親に反対されていると。姉さんに憧れているみたいで、僕が『撃槍』の弟だから、いろいろ話をしてくれました」


 隣のカサンドラが照れたようにあさっての方を向く。こころなしか頬が赤い。


「家出じゃないと思ったので、ちょっと調べてみたんです」


 ん?


「ラナさんにいろいろ教わっていますし、リザの足取りを追ってみました」


 それは……すごいな。いつの間に。


「あたしもびっくりしたさ」

「たしかに」


 アミールの調べでは、買い物に行く、と家を出て商業区に向かった。軽食をとり、服を見て、少女向けのアクセサリーを購入し家に戻ろうとする。


「たぶん、姿が消えたのは商業区と新市街の境目です。そこで目撃情報が途切れました」

「そこまでわかっているのか」

「学校もあったので、ここまで調べるのに五日もかかってしまいましたけど……」


 十分だろう。

 なんというか、言葉がない。


「家出じゃないという根拠は?」

「彼女は家を出たがっていましたが、ご両親を嫌っていたわけではありません。あまりお金がないのに学校に入れてくれたことを感謝していました。卒業したら一人で暮らすと語っていたんです。なので家出とは思えなくて」


 アミールはリザさんが心配なんだろう。


「僕の力ではこれ以上調べられませんでした。それで、その、ギルドマスター。タダ働きはできないと思うのですが」


 冒険者はタダ働きをしない。仕事を達成したら相応の報酬をいただくのが鉄則だ。

 だが――


「いいや、タダ働きじゃないよ」

「え?」

「君がこの先、冒険者になるかはわからないけど、きっといい体験になるんじゃないかな」

「ほんとうですか?」


 うなずく。

 職場体験になるだろうと思った。


「あたしは反対なんだけどねえ」

「心配はわかるよ。だから、一人じゃなければいい」

「まさか、シントさんが直々に?」

「そんな大げさな話じゃない。俺とカサンドラ、あとは……」


 事務所の隅に置いてある古書――ディジアさんに目を向ける。

 彼女はここでみんなに紹介されることをかたくなに拒んでいる。思い切って聞いてみたところ、あまり驚かせたくないから、一人一人顔合わせをしたいなどと言っていた。


(もちろん、わたくしも行きますよ。二人をびっくりさせるのが楽しみです)

「……」


 語るに落ちたか。

 薄々びっくりさせるのが楽しいんじゃないかと怪しんでいたところだ。


 楽しそうだから気にしないでおこう。ミューズさん、アリステラとラナとは顔を合わせている。カサンドラとアミールで最後だし。


「カサンドラ、それでいい?」

「保護者同伴ってことなら、まあいいさ」


 話は決まった。

 少し特殊な依頼になるけれど、放ってはおけない。


「まずは消えた場所に行こう」

「はい!」

「ミューズさん、すみませんがちょっと出ます」

「うん、気をつけてね」


 こうして、俺とカサンドラとアミールとディジアさんでの仕事が始まった。

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