これまでのこと
僕は孤児だった、アラガウ村に物心ついた時にはいた。
両親はこの村の人間で産まれたばかりの時に亡くなってしまったらしい。
孤児院はそんな者達が集まる場所で僕は沢山の子と一緒に育った。
特に何かできないわけでもなかった。それなりに言葉を覚えるのも早かったし、孤児院の内職も僕は一二を争う出来だった。
だけど僕には自信がなかった。
村の子供達とは違い自分は可哀想な子供なのだと無意識に思っていた。明るく振る舞っていてもどこか空虚な気持ちが心のどこかにあった。
見た目が女の子の様で揶揄われたりもしたのも大きかった。大人もよく間違えていたし、孤児院ではお姉さん達に着せ替えられてよく遊ばれていた。長い髪とリボンは地味な色だけどその名残だ。
それを人気と捉えられて僕はよく虐められた。幼い頃は子供なりの分かりやすい嫉妬だったが、物心が分かり始めるにつれ、それは過激になっていった。
今日も孤児院の裏で男子グループのボスであるポポに難癖をつけられていた。
「てめえ、調子にのってんじゃねえぞ」
「のってない!全然のってないよ!」
腹に鋭い痛みが起こり殴られたと分かった時には胃の中の物が逆流していた。
「きたねーな、カスが」
自分が殴ったからじゃないかと思いながら次の瞬間には蹴りで横に吹っ飛ばされて木にぶつかった。しんどい、痛い。
「ご、ごめんなさい」
悪くないのに謝る癖がついたのもこんな環境のせいだった。誰かの吐口として毎日の様にいじめられるのにいつの間にか慣れてしまっていた。僕の自己肯定感は極端に下がってしまっていた。
「シスター!またポポがお兄ちゃんいじめてる!」
「チッ、アラウか。行こうぜ」
ポポ達が退散すると同時に幼馴染のアラウが起こしてくれた。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ごめんねアラウ、ごめんね」
アラウは歳が一つ下の幼馴染で、気が合うのかいつのまにか僕とずっと一緒にいた。昔はおにーた、おにーたと離れてくれなかったのが懐かしいが、今ではすっかりしっかりものの女の子だ。
井戸まで連れて行ってもらい、水で身体を拭きながら吐瀉物で汚れた服を洗った。
「お兄ちゃんもやり返しなよ!あんなのポポが悪いよ!」
「はは…そうだよね」
服を絞りながら情け無い笑いが出る。
ポポは自分達と違い9歳になってから孤児院に来てあっという間にリーダーになった。元々隣村からやって来たらしい。
初対面でケンタに見惚れて告白してきたもののケンタが男だと分かってからは事あるごとに虐められてきた。ポポも同じ様にいわゆる可愛い顔立ちをしているのだが、腕っぷしと勝気な性格でケンタとは正反対だ。
「僕の方が力も弱いし向こうは大人数だからね」
「お兄ちゃん鑑定の儀式、行くんでしょ?スキルが貰えたらポポなんてぶっ飛ばしちゃえばいいよ!」
物騒な事を言いながら顔を紅くして裸を見ない様にしてる妹がかわいい。
苦笑しつつ新しい服を着る。
「そうだね、スキルがあれば…働いて王都じゃなくてもどこかに家を借りて…暮らしていけるといいな」
「お兄ちゃん院を出るの!?」
急に焦った顔でアラウに詰め寄られる。
「そうだね、10歳になって鑑定の儀が終われば出るつもりだよ」
「私は!?」
「え、アラウは来年だよね?」
「そうだけどお兄ちゃんが出て行ったら私はどうすればいいの!?私もついていく!」
「鑑定の儀が終わったら先に僕が家を借りられていたらそこに一緒に住むかい?」
「いいの?!」
「そりゃいいよ」
これがケッコン…?でも二人でやっていくにはもっとお金が…などと一人ごとをいって紅くなったり青くなったりしているアラウを放っておきながら僕は鑑定の儀の話を思い出していた。