と
「おい! お前!」
「あ! 柳士さん! こんにちは~」
「こんにちは~。じゃねえよ! 今までどこいってたんだよ!?」
「あわわ! ごめんなさいごめんなさい!」
彼女は頭を下げて謝る。
昨日と少し雰囲気が違う。
服装が変わってる。
だぼっとした赤いシャツに茶色のサスペンダー、下は黒のショートパンツという身なりだ。
金髪に変わりないけど、浮いた感じはしなかった。
「ちょっと確かめたいことがあって、気づいたら飛びだしちゃってました、あはは……」
「はあ、まったく……。急にいなくなられるとこっちが困るんだからな。出かけるときはちゃんと声をかけろよな」
こいつがいきなり消えて、僕の身体は一生入れ替わったままになる、なんてことはまっぴらごめんだ。
「わかりました……」
「それで、確かめたいことってなんだ?」
「これです!」
彼女は丸いガラス玉を取りだした。
テニスボールくらいの大きさだ。
「それは……昨日に通話できなかったっていう水晶玉か?」
「そうです!」
水晶玉。
異世界電話というものらしい。
僕らが入れ替わったあと、もみじはその水晶玉で誰かと話そうとしていた。
ところが、聞こえてくるのはノイズだけで通話ができなかったのだ。
「まさか、つながるようになったのか!?」
「うん! つながるようになったの! 昨日はうまく説明できなかったけど、でも今日は私の代わりにスリット博士が話してくれるよ!」
なら話は早い。
「これから奈海んとこにいくから、お前も一緒に来いよ」
◇◇◇
「初めまして~! 柏木百々っていいます! りゅーしの友達です~! 事情は聞いてるから、私にできることは何でも協力するね~!」
百々は手をさしのべる。
「わああ嬉しい! ありがと百々ちゃん! これからもよろしくお願いします!」
二人は握手する。
「えへへ。こちらこそよろしくね、もみじちゃん!」
「……んん? もみじ、ちゃん?」
百々はにっこりとする一方で、いろはは首をかしげた。
◇◇◇
「もう! 間違ってるならちゃんといってよね~りゅーし!」
「ご、ごめんって! なんか天丼屋のもみじって響きに違和感なくて、僕も気づかなかったんだって!」
輪廻屋のいろは。
天丼屋のもみじ。
何となく同じに感じるだろ?
「全然違う~! 名前くらい何で覚えてないのよ~! これじゃあ私が失礼な子みたいじゃない! 奈海ちんにいつも怒られるのはそういうとこなんだからね~!」
「もうわかったって!」
いや、ほんとは全然わかんねえんだけど!
何だよ、そういうとこって。
悪気もないし、まじで気づかなかっただけだからな!
◇◇◇
「ねえいろはちゃん、りゅーしと奈海ちんはどうして入れ替わっちゃったの?」
「そ、それはその……私がちょっとうっかりしちゃってて……あはは……」
「うっかり?」
「はい……柳士さんに助けてもらうために、ほんとは転生石というもので柳士さんを異世界に転生させるつもりだったのですけど……その、うっかり違う石を持ってきちゃってて……あはは……」
「転生石? 違う石?」
百々は首をかしげる。
百々と友次にはまだ具体的に何が起きたのかは話していない。
昨日、いろはから一通り聞いてはいたけど、僕には理解できなかったからだ。
「なあいろは、昨日の話を百々にもう一回してくれないか?」
「ちょっと待って! むずかしい話はゆーじの役目なの! だからこの話は奈海ちんの家に着いてからにしよ?」
◇◇◇
もうすぐ奈海の家に着く。
前を歩いてると、二人の楽しげな会話が聞こえてくる。
「いろはちゃんのその服、すごく似合ってて可愛いね!」
「ほんとに!? ありがと~! やっぱりね~お買い物はどこの世界にいても楽しいものだね!」
「全世界共通じゃないかな~!」
「そうなのかも!」
「いろはちゃんの世界と比べると、やっぱりこっちの世界とは流行とかファッションとかは違うのかな~?」
「全然違うと思うよ! 昨日ね、最初に入ったお店の店員さんに、ずいぶんとユニークなおめしものを着てますねっていわれちゃったの~!」
「ユニークなおめしもの~!」
百々は手をたたいて笑っている。
「私は最初その意味がわからなくて、あとでスリット博士に聞いたの。そしたら、こっちの世界とはズレてるかもって教えてもらってね、そのときに元のいた世界とは違うんだって気づいたの。歩くところみんなが私を見るからね、おかしいなとは思ってたのよ~! ……ああ~! 思いだすとだんだん恥ずかしくなってきちゃった……。百々ちゃんにならわかるかな、この気持ち~!」
「うんうん! わかるよその気持ち! 私も去年の夏にね、コスプレ好きの友達に恥ずかしい服を着せられて、そりゃあもうたくさんの写真を撮られたんだから! だからわかるよその気持ち! ……でもその話を聞いちゃうと、いろはちゃんがどんな服を着てたのか気になる~!」
「うう~! ほんとはすごく恥ずかしいけど、百々ちゃんになら見せてもいいかな!」
「ほんとに~!? えへへ、やったね! ああそうだいろはちゃん! 今度一緒にお買い物いこうよ~!」
「え? いいの!? いくいく~! 楽しみだね~百々ちゃん」
二人の笑い声が後ろから聞こえる。
出会って10分もたってないぞ。
なんで女はこう、仲良くなるペースが早いんだ?
昨日もそうだ。
気がついたら奈海といろはは仲良くなってた。
ほんと、何でなんだ?
メインは現実世界の恋愛なので、異世界側の設定は最小限にとどめます。
いろはがどううっかりしたのかと、どうしたら元の身体に戻れるのかの範囲で書くようにします。