に
青高――青柳高校の略称
赤高――赤松高校の略称
原中――原色中学校の略称
これは何かの撮影か?
それとも文化祭に向けてのドッキリ企画か?
「柳士の知り合い?」
「たぶん違うと思う」
もしかしてぱっと見気づけないだけでほんとは知ってる人なのか?
僕の名前も知ってるし。
でも青高の生徒にしては背が低い。120の百々より少し上ぐらいか?
もしかして原中の後輩?
いや、帰宅部にマネージャーはつかないしそもそも後輩なんて一人もいない。
他にいるか? こういうことをしそうなやつ。
と、一人の人物が頭をよぎる。
永瀬だ。
アニメやゲームをこよなく愛す、コスプレ好きのオタクな子。
オタクとはいっても女バスで副キャプテンを務めるほどのスポーツ女子だ。
中学では時々プチコスプレをしたりキャラクターのカチューシャをつけたまま登校したりと彼女は趣味をオープンにしていた。
中三の夏休み、永瀬とみんなでいったコミケはいい思い出だ。
でも、原中ではよくつるんでいたけど、永瀬が赤高にいってからは一度も会ってない。
身長は同じぐらいだけど、他に接点もないし可能性は低いか。
じゃあいったい誰だ?
金髪ってことは外国人か?
いやでも日本語はペラペラだし、そもそも外国人に知り合いはいない。
ていうかあれはカツラだよな? 染めてたら校則違反だし……。
考えても思いつかない。
あーもう、誰だよわかんねえよ。
「君は誰なんだ?」
「ごめんなさいごめんなさい! これは大変失礼しました! えっと、私は天丼屋のもみじといいます。初めまして、物部柳士さん!」
天丼屋のもみじ……芸名か?
それに、初めましてなのに僕のことを知ってる。
つながりは何だ? 誰かの知り合いか?
返答に困っていると、奈海が耳打ちしてきた。
「ほら、何かいってあげなよ」
「何ていえばいい? ていうかもしかして奈海の知ってる人?」
「ううん、私の知り合いじゃないと思う。初めましてっていってるからたぶん柳士を探しにきたんじゃないかな?」
「探しに? 何で?」
「そんなの私が知るわけないでしょ!」
「そりゃそうか」
「えっと、もみじさん、だっけ? ご用件は何ですか?」
「はい! 私は柳士さんにそのお力をお貸しいただきたくて、異世界よりやって参りました。お願いです、私たちを助けてくださいませんか!」
「……異世界?」
ん?
「はい。柳士さんに会うために、次元の特異点を通ってこの世界にやって参りました」
んん?
「私と契約して、異世界に転生してくれませんか!」
◇◇◇
「一旦整理しよう。な?」
「はい!」
「えーっと、もみじさんは僕に助けてもらうために異次元からやってきた、ということでいいんだな?」
「はい! 今、私たちの世界は大変で、できる限り――」
「ちょっと待って。今は話を広げないで」
「ごめんなさいごめんなさい! そうですよね。助けにきていただく前に、まずは状況を理解しないとですよね……」
もみじはしゅんとしてるみたいだが、頭の中ではすでに僕が助けることになってるようだ。
異世界に転生か。
何かのアニメでやってそうな設定だなおい。
でもこれで納得した。
こいつはボケてるんだ。
なるほどね。まあそうだよな。
むこうはコスプレまでしてるんだ。
そのうえこっちは真面目に誰かと聞いてるのに、ボケを続けるというツッコミの待ち姿勢。
いいだろう。
そこまでやるんなら応えてやろうじゃねえか。
もみじの想いによ!
「奈海、この荷物ちょっと持ってて」
「え? 急に何でよ?」
「いいから! またすぐに僕が持つから」
「絶対だからね」
奈海に全ての荷物を渡し、僕は深呼吸する。
そして。
「なんでやねん!!!!!!!」
静寂を切り裂くほどに声を荒げた。
どうだ?
ちゃんとポーズもつけたぞ。
もみじとかいったな。
これで茶番はとっとと終わらせてちゃんと僕らと会話してくれ。
「えっと……あはは……」
もみじは困惑している。
「あんた……何やってるの?」
奈海もまた困惑している。
「……え? 違う?」
◇◇◇
緊急事態だ。
どうやらこれはそういうネタじゃないみたいだ。
てことはつまりこの子はまじで話してるってことになるけど。
純粋にコスプレしてるキャラのガチファンで、それになりきる遊びでもやってるとか?
それならこの子は不思議ちゃんだった、で説明つくけど、それだとあまりにも痛すぎる子になっちゃう。
「もみじさんさ、その恰好で町を歩くの恥ずかしくない?」
「何かおかしいですか?」
もみじは手を広げて自分の服装をチェックする。
「いや、何でもない」
素の反応、だよな?
永瀬みたいにオープンってことなのかもしれない。
んーやっぱりどっかにある隠しカメラでドッキリでも撮ってんのか?
「柳士。荷物」
「ああすまん」
奈海から荷物を受け取ると、またずっしりと身体に負担がかかった。
なんかもうめんどくさくなってきた。
適当にきりあげてさっさと帰ろう。
「あの! 柳士さん、お願いします! 私たちを、助けてください!」
もみじは深く頭を下げた。
まったく、しょうがないな。
コスプレをしてまで必死にお願いしてくるんだ。結局もみじさんがどこの誰でなぜ僕を知っているのかはわからないままだけど、うん。仕方がない、契約しよう。さあ、僕を異世界につれてってくれ。
ていう気になるほど、僕にユーモアはないんでね。
「ごめん、無理だ。悪いけどこれからテスト勉強しなきゃなんだ。だから、ごめんな?」
話の展開が遅い説ない……?