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『友次:それじゃ奈海の家に集合ってことでよろー』


『柳士(本物):りょ』


『百々:私たちはちょっと寄るところがあるから! 多分30分くらいで着くと思うよ。それまでなみちんをよろしくね~』


『友次:任せとけ!』


グループチャットに奈海はこなかったけど、友次がいればなんとかなりそうだ。


それと仲直りは甘いものに限る。


百々の提案で僕らは今、芋杏(いもあん)という喫茶店に向かっている。

お手頃価格で本格的な芋の料理が味わえるお店だ。


テイクアウトのメニューも充実していて、毎月出ている月内限定の新作メニューは学生の間でも根強い人気を誇っている。


「ねえりゅーし~。りゅーしは昨日奈海ちんと芋杏のホットサンド食べたんでしょ~? 美味しかった?」


「ああ。美味かったぜ。まあ個人的には先月のロールケーキのほうが好きだけどな」


「ふ~ん。ホイッターですごいバズってるんだよね。私も早く食べたいなあ~ホットサンド!」


百々はほっぺに両手を当てる。

奈海以上に甘党だもんな。待ちきれない様子がこっちまで伝わる。


「芋とパイナップルの相性が抜群だったぜ。奈海も癖になる味だっていってたな」


「奈海ちんも絶賛かあ~! 楽しみだなあほんと~!」



◇◇◇



芋杏に着いた。

そこで僕らは四人分のホットサンドを買い込み、奈海の家へと向かう。


「そういえば、昨日の帰り道だよね?」


「ん? 何が?」


「ほら! りゅーしと奈海ちんを入れ替えたっていう、えーっと名前は……天丼屋のもみじさん! だったっけ? 出会ったんでしょ?」


「ああ。ちょうど今みたいにこれを買った帰りだったな」


ホットサンドが入った袋を上げる。

そして少し先の道を指さした。


「あそこの角を曲がった辺りでもみじと出くわしたんだ」


「やっぱり最初のインパクトは強かったの?」


「ありゃ強いってもんじゃないな。不思議ちゃんのそれを超えてたよ」


「へえ~! ねえねえ、どんな感じだったのか聞きたいなあ~!」


百々の目はキラキラとしていた。


僕が奈海と入れ替わってしまった話を今日学校でしたときから、友次と百々はこの件について興味津々だった。

特に百々はこの手の面白い話が大好きで、学校で目を合わせる度に話してよとお願いしてきた。


百々は笑顔で僕を見ているが、目は早く聞かせろといっている。


家に着いてからじっくりと話す予定だったが、仕方ねえな。


「昨日の帰り道――」



◇◇◇



――6月8日――


「おい!」


「おいっていうな!」


「おら!」


「おらっていうな!」


「だー! もう奈海ちょっと待てって!」


「何よ?」


「少しのあいだって約束じゃなかったのかよ。いいかげん自分の荷物は持てって!」


「やだ!」


「何でだよ」


「持ちたくないもーん」


理由になってねえだろ……。


帰り道、まだ校舎内にいるときに僕は奈海と荷物持ちじゃんけんをした。

負けたら少しのあいだだけ相手の荷物を持つってルールだ。


それでその最初の一回に負けたときから、僕は今もずっと荷物を持たされている。


数日前にも、同じように荷物持ちじゃんけんをした。

そのときは僕がじゃんけんに勝ったけど、二分ともたず荷物はおし返された。


奈海がいう少しのあいだとは、状況によってその長さが変わるらしい。

そして今日は長い日のようだ。


途中に寄った芋杏のホットサンドにコンビニで買ったお菓子とジュースも二人分持っている。

これじゃただの雑用係じゃねえかよ。


ていうか鞄重すぎ。

置き勉は生徒のマナーってことも知らねえのかよおい。


「もう次はぜってー勝負なんか受けねえからな」


「もーそんなこといわないの! 今日もみっちり勉強教えたげるから! だから今は頑張りなさい。いいわね、柳士?」


ああ……その微笑みにパンチしたい……。


『あの!』


「ん? 柳士、何かいった?」


「何もいってねえよ」


『あの! 聞こえますか?』


「今度ははっきり聞こえた!」


「え? 何が聞こえたんだよ?」


「柳士には聞こえてないの?」


「だから何をだよ!」


僕をからかってるのか?

いや、でも奈海はこんな風にはからかわない。


『あ! いけない、切り替えを忘れちゃった。これじゃあうまく聞きとれないよね。ちょっと待ってね』


「ほらほら、何か話してる! 切り替え忘れた~とか聞きとれないよね~とかいってるよ!」


「何も聞こえないって」


――この時、ほんとに何も聞こえてはいなかった。後で奈海から聞いた内容をそのままに、僕は百々にこの話をしている。


「女の子のこもったような声だよ、聞こえない?」


「気のせいとかじゃないの? それより早く帰ろうぜ」


「気のせいなのかなあ……」


奈海は納得していない様子だった。


「これで聞こえるようになったかな? どう、私の声が聞こえる?」


「あ、今聞こえた」


「でしょー! やっぱり気のせいじゃなかった! でも、さっきよりも声がきれいになってる。一緒の人、なのかな?」


どこからだ? 周りには誰もいない。

声は女の子っぽい感じだけど、もちろんそんな子は近くに見えない。


「おーい、どこから話してる? 出てこいよー?」


「ちょっと柳士やめてよ! 私たちにじゃなかったらどうするの?」


確かに。

これで人違いだったらただの恥ずかしい人だ。


「ああっ! ごめんなさい。こっちも切り替えなくっちゃ」


切り替え?

何のことだろうと思いながら僕は声のしたほうを見る。


すると、何もなかった空間にぽっと彼女は現れた。



◇◇◇



突然現れた彼女は日中でもわかるぐらいに輝いており、目を閉じて両手を前に出していた。


金髪でストレートのその子は、ごわっとしたベストが垂れ下がる白地に青のラインが入ったワンピースを着ている。


その姿はまるでRPGのゲームに出てくる白魔法使いのような格好だった。

何のコスプレだ?


しばらくして輝きが収まると彼女は目を開けた。

えりのチェーンブローチについた黄色い玉がきらりとひかる。


「ええ!? マジックか!?」


どうやったんだ? 人が急に現れた!?

箱とか布からとかじゃなく、何もないところから急に姿を現したぞ!?


「わーびっくりした! ねえ柳士。今、急に現れたよね!?」


「ああ、そう見えた。もしかしてこの子、マジシャンなのかも」


私服じゃないのは明らかだ。

手品師? いや大道芸人か?


「ふーう、これでよしっと。さてと、物部柳士さん! えっと、お願いがあって参りました。……あなたのお力を私にお貸しくださいませんか?」


彼女は微笑みながらそういった。

構成上、今日(入れ替わった翌日)と昨日(入れ替わった日)を平行に書いていく予定です。

ごちゃごちゃにならないよう日が切り替わる時は冒頭に日付を入れてます。

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