第44話 世界はループしながらも
「さむい!」
「冬なんだから寒いに決まってんだろ」
俺は、ブルーのランドセルを背負い、同じくブルーのランドセルを背負った女の子と二人きりで学校の帰り道を歩いていた。
とても寒い日で、手袋をして来なかったことを後悔しながら、二人して、ポケットに手を突っ込んで歩いていた。
ポケットに手を入れる……なんてのは、先生に見つかったら、叱られたあげく帰りの会で吊るし上げられかねない禁止行為だったが、しもやけになるリスクを考えれば致し方ない行動だ。
「ねえ、サンタさんって、来るよね」
と、女の子は言った。
「来るわけないだろ、そんなの」
俺はあっさり否定してやった。
「サンタさんは、来る」
女の子は言うが、
「いいや、来るわけねえ」
またも即座に俺は否定してやった。
「何でよ?」
「知ってるか? クリスマスってのは、サンタが来る日じゃなくて、ちょっと豪華なごはんを食べる日なんだぜ」
「何それ?」
「七面鳥とか、ケーキとか」
「それで、どうしてサンタさん来ないの? そんなのサンタさんが来ない理由にはならないじゃん」
「来ないったら来ないの」
「だから何で」
「いいか、サンタってのはな、いい子のところにしか来ないんだ。だから普段から乱暴を働いているお前のところに来るわけないだろうが」
俺はここぞとばかりに言ってやった。すると、
「最低! 言っていいことと悪い事があるでしょ!」
ぶん殴られた。痛い。涙出た。
「あれあれ、何泣いてんの? 男でしょ? 情けないの!」
ひどい言葉を吐いて、俺の好きな女の子は去っていった。
「ちくしょう……」
俺は悔しくて呟いた。
★
私は家に戻ると、玄関にランドセルを叩きつけた。
「あら、おかえり、どうしたの? 何かあった?」
お母さんにその光景を見られていた。
「あ……!」
私は、自分の部屋に向かおうとしたのだが。その腕を、お母さんの手が掴んだ。
「学校で何かあった? いじめられた?」
むしろいじめたのは私だけど、それ言ったらさすがに怒られるかな。
「サンタさんが、私のとこに来ないってさ」
「え? サンタクロース? それサンタさんに言われたの? 面と向かって?」
「ちがうけど」
「じゃあ来るわよ。でも、ランドセル叩きつけたりする子のところには来ないかもね」
「ごめんなさい……」
「どうしたの? なんだか元気ないわね」
「だって、いい子にしてないと、来ないんでしょ?」
「あ、ああ、そう……そっか、そうよ。うん」
お母さんは私にブルーのランドセルを手渡した。
私はそれを受け取った時、
「あれ?」
僅かに違和感をおぼえた。それまでランドセルは大事に使ってきたはずなのに、見慣れない大きな傷があったからだ。
「どうしたの?」
首を傾げる私をお母さんは不思議そうに見た。
「ううん、何でもない」
私は首を横に振る。
私は確信していた。そのランドセルが、私のところにサンタは来ないとか言った奴のものだということを。だって、アイツのランドセルにあの傷つけたの、私だもの。
玄関に叩きつけたくらいでは大きな傷ができるはずがないんだ。ランドセルは、兄弟で同じものが使えるくらいに……つまり、合わせて十年以上使い続けても壊れないような頑丈なものだということを私は知っている。
私はまっすぐ自分の部屋に入った。
「どこで入れ替わったんだろう……」
呟き、机に座り、ランドセルを前に置いて考えてみる。
「まあ良いか」
どこで勘違いして持って帰って来ちゃったかなんてのはどうだっていい。
ここにあるのが、アイツのランドセルだということだけで十分だ。
私は、ランドセルを開ける。
自分のランドセルとは違う、ちょっと良い匂いがした。
「そうだ、何か弱味を握れるかも」
いじわるしよう、と私は思った。
きっちり整理整頓されたランドセルの中に手を突っ込み、中身を引っ張り出す。
ひとまず弱味になりそうなものは見当らなかった。
「あれー? これだけかなぁ?」
ランドセルを逆さにして、バシバシと叩いても、何もなかった。
「うーん……」
周到なアイツのことだ。弱味になりそうな何かは巧妙に隠されているに違いない。
あるとしたら……こういうところだ。
分厚い辞書をパラパラと捲ってみる。
「ん? これは……」
パラリ、と一枚の紙が落ちた。なにやら手紙のようだった。
「あ……」
手紙の封筒に書いてあった文字は、
『サンタさんへ』
私はくすりと笑った。少し嬉しいと思った。
なんだかんだ言って、アイツもサンタさんに来て欲しいんじゃないか。素直じゃなくて可愛いやつだ。中身の紙を取り出してみる。
アイツのサンタさんへの手紙は、以下のような内容だった。
『他に何もいらない。アミちゃんと、なかよくなりたい』
心がこもっているような、とても丁寧な文字だった。
「アミ……ですって……」
次の朝、私と彼は教室で会った。
「昨日は……よくも……」
ランドセルを机に置いた後、私の目を見据えた彼がそう言うと、
「――サンタさんは、いるよね!」
待ってましたとばかりに大声で言ってやった。
教室中の視線が、私たちの方に向けられた。
「……さ、さあな!」
彼は目を逸らしながら答えた。素直じゃない奴。
「で、これのアミちゃんって誰のこと?」
「げ……」
私は勝ち誇った。
――世界は、繰り返しながらも変容し、そして発展していく。
【カノンソング・終】
本編はこれで終わりです。ありがとうございました。
次からの45~48話は番外編です。




