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カノンソング  作者: 黒十二色
終わりなき歌
41/48

第41話 2月15日、午後4時 エーイチ篇

「本当か?」


「ああ。オレの通っていた中学にな『開かずの箱』ってのがあったんだ。ヒロは忘れているみたいだけど、オレは開かずの間と呼ばれた美術室を探検して、その箱を見つけて開けようとしたことがあるから鮮明に憶えてる。色は鮮やかな赤色で、表面には薔薇のトゲみたいな紋様がびっしりとあって、中央には鍵穴。かなり綺麗で目立つ、珍しい箱だから、見ればすぐわかると思う」


「たすかったぁ……」


 初美は安堵の溜息を混ぜてそう言った。


 とはいえ、『箱』の在り処については、まったく見当がつかない状態であるのには変わりはないのだが。


「よし! その学校に行ってみよう!」


 初美は勢いよく立ち上がり、トレイを両手に持ち、ゴミをしっかりと分別してくずかごに放り込む。


 早歩きで店を出た。オレも初美に続いて店を出る。


「その中学ってのはどっちだ、エーイチ!」


「ここから、真北だったな」


  ★


 しばらく歩いて、初美はオレを責めるような口調で、こう言った。


「どこだよ、エーイチ。学校らしきものなんて全く見えないじゃないか。地図にも載ってなくないか」


「まぁ、そりゃそうだろうな。あったら逆にこわいが……そうだな。でも、この辺だぞ」


「何言ってんだ、エーイチ」


「実はな、オレたちの通った中学校は、もうとっくの昔に取り壊されて、今はこうして住宅街が広がっているのさ」


「なっ。じゃ、じゃあ……どこにあるのかっていうのは……」


「わからないな」


 そう、実は『箱』の在り処の手がかりなんてものは、ほとんど無い状態ということになる。


 ショックを受けているようだった。


「とはいえ、この中学の跡地、住宅街の真ん中に新しくできた『郷土資料館』ってのがある。学生は僅か五十円で入れるし、もしかしたら何か手がかりが掴めるかもしれん。そこに行ってみよう」


「そうだな。今は、立ち止まる事ほど無意味なことは無いもんな!」


  ★


 資料館。


 縄文、弥生の時代から、現代まで。


 この街の歴史的遺物が展示されていた。教科書で見るようなものが多く、以前に一度、来たことがあったから特に新鮮ではなかった。


 隅から隅まで展示を眺めても、あの『箱』について、何か手がかりになるようなモノも無いようだった。


 展示物の中には戦前の写真なども多くあって、初美はその中の一つに目を付けたようで、ピタリと足を止めた。


 少し端の焦げた、白黒写真。


 写真の左上には白い月。


 右半分を覆っていたのは西洋風の瀟洒な洋館。


 手前には多くの薔薇が咲き乱れていた。


「キレイね」と初美は恍惚とする。


「ああ」


 オレはメガネを光らせ、写真の説明文を読んでみた。内容は……


 この資料館が建つ以前、中学校があったが、その創始者が中学校を開く前に住んでいた洋館が、写真の建物。左右対称を意識した造りで、多くの美術品を所蔵していたという記録がある。しかし、広い庭園を含め、その多くが火災にて消失。 その後、その場に青少年教育施設が建立された。


 この教育施設というのが、後にオレやレンジたちが卒業した中学校になったらしい。


 教育施設は、主に音楽や芸術に力を注ぎ、この街一番の高台にある神社と共に街の発展に大きく貢献した。なお、火災によって中学校の創始者の娘が焼死したこともあわせて書いてあった。


 ……雑にまとめると、こんなところだろう。


「なあエーイチ。グラバー邸みたいな洋館だなぁ。おれ、ああいう洋館、住んでみたいよ」


「落ち着いて暮らせない気がするからオレは嫌だがな」


「何言ってんだよ。慣れるよ、すぐ」


 初美はもう住む気でいるらしい。


 今の時代にこういった洋館を建てるとしたら、費用はどのくらいになるのだろう。


 なんだか信じられないような金額になりそうな気がしたので、考えない事にした。


「しかし、そうだな。『箱』はここには無いみたいだが……ちょっと待ってろ」


 オレはそう言って、初美から離れる。


 探している『箱』のことなどすっかり忘れたかのように歴史写真とにらめっこを続けている初美を置き去りにして、オレは展示室の隅に座っていたメガネの女の人に話しかける。


「あの――」


 オレがメガネを光らすと、


「何か」


 キラン、と立ち上がった女の人もメガネを光らせた。


「この街に『開かない箱』って、ありませんか?」


 オレが訊いてみたところ、


「……はい?」


 女の人はあからさまに怪しんだ。


「そういう『箱』の話について、ちょっと調べてるんですけど、何か伝説とか伝承とか、眉唾なもので良いので、知っていたら教えて欲しいんですけど……」


「そう、ですねぇ。昔、中学校の七不思議に、開かずの箱とか、そういう話があったけど……」


 それはオレもよく知っている。


「他に、何か無いですか?」


「うーん……聞いた話によると、この街では不思議なモノは大抵、坂の上にある神社に預けられるって話で……」


 それだ。


 次の目的地が決まった。


「ありがとうございます。助かりました!」


 オレがまたしてもメガネを光らせて言うと、


「いえ……はい……」


 女の人も歯切れ悪くメガネを光らせた。


「初美! 神社に行くぞ!」


 彼女は、パタパタと駆け寄ってきた。





 神社は、坂の上にある。


 坂を登って、オレの住んでいる傾いたボロい家の前を通り、頂上まで行くと、静かな森があり、その中に神社がある。昔よく遊んだ公園が隣にあるから、馴染みの深い場所だと言えた。


 初美も何度か連れて来たことはあるが、それほどの思い入れは無いだろうと思う。


 昔と変わらない景色が保たれている、坂の上の神社に着いた。


 鳥居を抜ける。森の中の参道を進む。本殿の前の広場に立った。


 神社内は誰も居ないように見えた。


「よし、今のうちに中に入って『箱』がないか探そう」


 初美はそう言ってすぐに本殿ではない小さな建物の前で靴を脱ぐと、賽銭箱の横を通過し、数段あった階段を上り、黒い引き戸を開けた。


「あっ……すみません……!」


 と言った初美が、即座に戸を閉めた。


 中には女の人がいた。


 服装から察するに、巫女さんだろう。若かった。同年代くらいだろうか。


「こらっ!」


 ガラリと戸を開けた巫女さんから、割と古風な怒られ方をした。


「勝手に入ったらいけません!」


 若い巫女さんはぷんすかと怒っていた。


「す、すみません……急いでいたもので……」


 初美はペコペコと頭を下げまくっている。


「急いでって……どこに行くのに此処に足を踏み入れそうになるんですか! ここからじゃ、何処にも通り抜けでき――」


 巫女さんは言いかけて、一瞬黙り、かと思ったら目をむいて、


「まさか、黄泉の国へと近道する気だったんですか? どんなものを信じるかは自由ですが、この世に死ぬ自由はありません! 月並みなことを言うようですが、ルールは守ってください!」


 おかしな巫女さんだった。勘違いして必死に説得してきた。


「いえ、違うんです。あの、赤い箱を探してて……」と初美。


「あ、落し物ですか? あらやだ。早とちり……」


 巫女さんは赤面した。


「いえ……」


「すみません。それで、赤い箱ですね。ええと、遺失物はここには置いていなくてですね、社務所にあるはずなんですけど、ここに探しに来たってことは、この辺で落としたってことですよね。一応、見てみますね」


 そして、しばらくして出てきた巫女さんが手に持っていたのは――


「もしかして、コレ……ですかね」


 まさしく『箱』だった。


 手の平サイズで、赤く、表面にバラの茎の紋様。中央に鍵穴。


 忍び込んで見たと同じだ。記憶の通りの形だった。


「エーイチ……これ? これが、街の心臓?」


「ああ、間違いない。これが……『開かずの箱』だ!」


 さあ、急ごう。


 止まってしまった時計を、もう一度動かそう。


 初美が『箱』を受け取り、鍵穴に小さな鍵を挿す。


 そして、赤い箱が、ゆっくりと開かれた……。




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