第19話 氷を溶かせ レンジ篇
「お」
高校生になったレンジは、本屋のレジ前で、昔の友達と再会した。
「よう、エーイチ」
ジャージにサンダル姿で漫画雑誌を持っていたレンジ。
対して、友人のエーイチは、優秀な高校の制服姿で、なにやら、やたら難しそうな本を買おうとしていた。いわゆる学術書というやつである。
会計を済ませ、店を出た二人は、街を歩きながら久しぶりの会話を交わす。
「しかし、レンジ、久しぶりだな」
「ああ、中学卒業以来になるか」
「そんなことないだろ、冷たい奴だな。二ヶ月前に会ったじゃないか」
「そうだっけ」
「そうだぞ。あ、中学といえば、オレたちの中学がな、取り壊されることになったらしいぞ」
「へぇ、そうなのか」
「おい、結構大きな問題だぞ、もっと濃い反応をしろよ」
「だって、もう卒業しちゃったら関係ないし」
「レンジ、お前なぁ……」
「何だよ」
「まぁいい。お前はそういう奴だ……。しかしレンジ……。また恋人新しくしたのか?」
「なぜわかる?」
「服装が変わりすぎだ」
「相変わらず鋭い洞察力だ。インテリメガネは言うことが違う」
「ふっ、まあな。レンジとは大違いだろ」
「だがエーイチよ。女の子をモノみたいな言い方するなよ、失礼だぞ」
「……モノみたいに扱ってるのは、お前の方なんじゃないのか?」
「んなことはない」
「どうだか。そもそも、何でそんなにとっかえひっかえする必要があるんだ?」
「俺だって、付き合ってるときはさ、一生一緒にいるつもりでいるぞ。でも、なんでか、いっつも、すぐに別れる流れになっちまうんだよな」
「なあ、レンジ」
「なんだよ」
「やっぱり、あかりのこと引きずってるのか?」
「そ、そんなわけ、あるかよ」
「いくら告白する前に希望が潰えたからってなぁ」
「違うって言ってんだろ!」
「いやぁさ、あの時は俺も驚いたんだよ。あかりはレンジのこと好きなんだろうなって思ってたから」
「うるせえな……」
「まさかいきなり『フィアンセです』と紹介されるとは思わなかったよな」
「そうだな」
「しかも金持ちでいけ好かないけどイケメンでラブラブ」
「そうだなぁ。ラブラブだったなぁ」
「お前は、良いピエロだったよ」
「ケンカ売ってんのか? このメガネ野郎」
「やっぱ引きずってんじゃねえか」
「別にだし……」
「レンジはさ、将来何になりたいとか、あるか?」
「無えよ」
「サッカーは?」
「あきらめた」
「よく言ってた芸能界入りは」
「もういいや」
「どうやって生活していくんだ」
「ヒモにでもなるかな」
「お前の場合、ヒモになるって選択肢もリアルだから困る」
「何でお前が困るんだよ、俺の人生だろ」
「何を言ってんだ、世間体というものがあってだな、オレの昔からの友達がヒモやってますなんてことになってみろ、オレという存在の価値が暴落だ」
「……じゃあ、俺を友達なんて言わなけりゃいいんじゃねえか?」
「レンジ、あいにくオレはしつこいぞ。お前と同じだ。絶対にお前を見放したりはしないからな」
「そんなこと宣言されてもなぁ」
「オレはお前をライバルだと思ってるんだ。しっかりしてもらわないと困る」
「困るったってなぁ」
エーイチはやれやれと溜息を吐いて、
「要するにだな、オレを何度も絶望させたあのポテンシャルを見せてみろ。そのまま居たら、一生氷付けだ」
「そうか、そうだな。わかった……」
「おお、わかってくれたか!」
「本当に、心の底から好きだと思える女の子さがすよ! 俺! がんばる!」
「え……。そっちを最優先なの? 人生設計とかじゃなくて? せめて夢をかなえる、とかじゃなくて?」
「もう二股とかしない!」
「当然のことだろそれ。今まで何股かけてたんだよ」
「えーと」
「いや、もう、何でもないよ……」




