第15話 四不思議 レンジ篇
「なあ、この中学の四不思議って、知っているか?」
放課後の薄暗い教室で、仕切り屋のエーイチはそんなことを言った。
レンジとヒロは顔を見合わせて、首を傾げた。
「何で四不思議なんだ? 普通、七不思議とかじゃないのか?」
レンジが言うと、エーイチは俺たち二人に向かって答える。
「いい質問だな。実はな、七不思議が次々と解明されていって、四つにまで減ったんだよ」
名探偵エーイチのメガネが怪しく光った。
「それで、何で急にそんなこと言い出したの?」
とヒロが素朴な疑問を口にする。
「七不思議の三つを解明したのが俺だからだ」
「へぇ」「へぇ」
「おい、何だその興味無さそうな反応は」
エーイチが不機嫌そうにそう言うと、ヒロは持ち前の推理力を発揮する。当意即妙というのは苦手だが、じっくり考えるということにかけては、彼らの中でヒロの右に出る者はいなかった。
「要するに、エーイチは残り四つの謎を解くのを俺達に手伝ってほしいってこと?」
「正解だヒロ。共に謎に挑もうではないか! この三人で!」
「まぁ、謎さがしはいいけどな、俺はどうしても気に入らないことがある」
「な、何ィ? レンジよ。何が気に入らないというんだ」
「華がない」
「は?」
「女の子いないとやだ」
「こいつッ……」
「あかりとかエリカとか、誘わなかったのか?」
「誘ったけどさ、断られたよ」
「何だと! この役立たずのメガネ野郎! ろくに女の子のいる環境をセッティングできもしないメガネはただのメガネだ!」
と、レンジがエーイチを責めていたところ、
「まぁまぁ、とりあえず、行くかどうかはその四不思議を聞いてから決めようよ」
ヒロが穏やかに言って、火消しにかかる。それでレンジも落ち着いて、エーイチの話に耳を傾けることにした。
「残った四不思議って言うのはな……
一つ目『怪奇! 勝手に動き出す芝刈り機!』
二つ目『恐怖! 知らぬ間に消える資源ごみ!』
三つ目『神秘! 旧校舎に現れる大量の水溜まり!』
そして最後、四つ目が 『ミステリー! 開かずの扉の向こうに隠された真相。鎖された箱に秘められし俺たちの絆』
以上、四つだ」
エーイチはメガネをクイッと持ち上げて続けて、
「誰も手を触れていないのに、いつの間にか芝刈りがされていたり、誰も手を触れていないのに、ゴミ捨て場からビンやカンが消えたり、雨も降っていないのに旧校舎に水溜まりができたり、開かずの間は俺が開けたけど、その部屋の中にあった箱がまったく開かなかったり、と、そういうことだ」
するとヒロが、
「『開かずの箱』かぁ。そういや昔住んでた学校には『閉まらずの箱』っていう怪談があったなぁ」
すると、エーイチは眉間にしわを寄せた。
「『閉まらずの箱』だ? なんだよそれ。中が見えないから不思議なんであって、開いてる箱は不思議でも何でもないだろ」
「そんなの僕に言われても。とにかく閉まらない箱があったんだよ」
そこで、レンジがフンと鼻で笑った。
「なるほど、ヒロの話も含めて、いかにも学校七不思議らしい安っぽさだ」
「なんだと」
「いいか、エーイチ、そしてヒロ。俺が本当のホラーというものを教えてやる」
「ほう、言ったな、レンジ。聞いてやろうじゃないか」
「ああ、よく聞けよ」
そしてレンジは語り出す。
★
ある春の日のこと、俺は一人で公園にあるイイ感じの壁に向かってサッカーボールを蹴っていたんだ。天気は曇りで、見上げれば鉛色の空が一面に広がっていた。
周囲がすっかり暗くなって、外灯のあかりだけになった時、俺はようやく個人練習を切り上げて、帰ることにしたんだ。
ところがどうだろう。帰り道が、わからないんだ。
というよりも、そこは完全に違う世界だった。
俺は、あてもなく歩いた。しばらく歩くと、カラスの不気味な鳴き声がして、頭上から何か降ってきたんだ。それは、俺の左肩に当たり、地面に落ちた。
何かな、これは、なんだろう。
そう思って手に取ったそれは、懐中時計だった。
手の平にすっぽり納まるくらいの金色の時計。
ただの懐中時計かな、と思い、中を開けてみると!
時刻は三時を指していた。午前なのか午後なのか、よくわからないが、そんなに暗い感じはなかったから、午後だったのかもしれない。
そして、蓋の裏側に、顔の無い写真があったんだ。顔がないっていうか、首から上が無い写真だった。
それで、こわくなって、時計をその場において逃げ出そうとしたら!
その時計……追いかけてくるんだよ。
空中をふわぁって飛んで、ゆらゆらと追いかけて来る。
それで、さらにこわくなって、しばらく逃げたら目の前に同じ時計が落ちていて、背後の時計が消えていたんだよ。
どうやら、最初に時計が落ちていた場所までぐるりと回って戻ってしまったらしかった。
おそろしくなった俺が、金色の時計を蹴り上げると、それは茂みの中に消えた。それを確認してからまた逃げた。
今度は時計が追ってくることもなく、何とか逃げ切ったと思ったんだけど、やっぱりそんなに甘くはなかった。
俺は、道なき道を逃げた末に、知らない建物の前に立った。
西洋風の洋館で、ハイカラな雰囲気を醸し出していた。
ちょっと見とれて立ち止まっていると、また左肩に何かがぶつかって、足元を見ると、また懐中時計だった。
俺は観念した。覚悟を決めて、その時計を手に洋館の入口へと向かったんだ。
扉の前に立つと、すぐに自動で扉が開かれた。
中に入れということらしい。
コツンコツンと、石の廊下を叩く足音が響く。
最初は、俺の足音かな、と思っていたのだが、俺の履いている靴の裏は、そんな音がするような硬い素材でできていなかったから、つまりそれは、俺の足音に合わせて誰かが歩いているということで、それを意識した途端、背後に気配を感じるようになった。
当然、こわいもんだから、振り返ることなんかできずに、背中からのプレッシャーに押されるように、操られているかのように、洋館内を歩き回った。
そして、ある一室に足を踏み入れる。
部屋には大きな鏡があって、そこに映っているのは俺の姿だけだった。背後に誰も居ない。でもわからない。鏡には映らない何かが居るかもしれない。
その部屋は絨毯で、コツンコツンという音もなくなったから、俺はおそるおそる、誰も居ないだろうと思いながら、振り返ってみたんだ。すると……。
やっぱり誰も居なかった。
懐中時計に目をやっても、何の変化もない。
やっぱりな。気のせいだったんだ。
俺がそう思いながら、ホッとして前を向いた時!
目の前の大きな鏡に映っていたのは!
★
「驚いたことに、裸で真っ赤なバラを加えてセクシーポーズをキメている自分自身の姿だったんだ」
「おい……てめえ! ふざけんな! どこが本当のホラーだ!」
「という夢を見たんだ」
「しかも夢かよ! 何もかもふざけるな!」
「こういうポーズだ」
「気色悪い!」
エーイチがいつもより賑やかにツッコミを入れていた。
ヒロは、途中まではちゃんとドキドキしたのにな、と大いに呆れていた。




