第12話 しゃむしーる カオル篇
「じゃあねカオル。戸締りはちゃんとするのよ?」
「夜には帰ってくる。だからカオル。お土産を楽しみに待っていなさい」
久しぶりの祝日で、お父さんも、お母さんも朝早くに出かけていった。
家に残されたのは、私と、しゃむしーるだけだ。
しゃむしーるというのは、うちで飼っている、ねこだ。決して刀剣の類ではない。
左右で眼の色が違う、少し珍しいねこだと思う。右が赤で、左が青。
少し不思議な雰囲気を持っている愛猫。
そんなしゃむしーるが、今朝、両親と入れ替わるように帰って来たんだけども、どういうわけか、ボロッボロのドロッドロで折角の真っ白な毛並みを汚して帰ってきたので、叱りつけて、嫌がるのを無理矢理押さえつけてお風呂に入れた。
そして今、白くてキレイな元のしゃむしーるに戻ったので、私はいつものように、彼とじゃれ合って遊ぼうとしていた。
「しゃむ、しゃむ、いくよっ。それっ」
「…………」
私は黄色いボールを畳の上に転がしたのだが、無反応。
おかしいな。ボール遊びは大好きで、いつもなら一人でばたばたと跳ね回るのに。
「しゃむ、しゃむ、ほらほら、じゃれよう!」
ねこじゃらし型のおもちゃで気を引こうとするも、無視。
やっぱりおかしい。いつもなら喜んでばたついてくるのに。
そっぽを向いて、私と目を合わせようともしない。
これは、まさかっ……反抗期?
そんなまさか、うちの子に限って。
一体、何が不服なんだろうか。いつもの甘えん坊のしゃむしーるとは、まるで別猫だった。
「あ、そっか、寒いのか、お前」
私はしゃむしーるに語りかけ、床に転がっていた炬燵のスイッチをオンにした。
ねこといえば、やっぱり炬燵よね、しゃむもやっぱりねこだから、炬燵は好きで、いつもなら……スイッチが入ったと理解した途端に喜んで潜り込む……んだけど……。
「どうしたのよ、しゃむ……」
また、そっぽを向いている。
本気で心配になってきた。
でも、考えても、何が原因なのか全く思い当たらない。朝ごはんは、むしろいつもより多くあげたのにな。やっぱりお風呂に無理矢理入れたのが気に入らなかったんだろうか。
「んー……まあ、良っか」
気にしても仕方のないことだ。そのうち機嫌も直るだろう。
私はあたたかくなりはじめた炬燵に足を入れて、リモコンでテレビの電源を点けた。
★
「ん……ぅう……」
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
目覚めた私が、大きく手足を伸ばして欠伸をすると、つま先に何やらやわらかいものが触れた。
「んん?」
炬燵の中を覗いてみると……しゃむしーるがいた。
いつものように丸まって、目を閉じていた。
「かわいー……」
元の体勢に戻り、テレビに視点を合わせると、料理番組だった。
右上の字幕を読んでみる。
『カンタン。お菓子づくり! 電子レンジで出来るカップケーキ!』
レンジ……カンタン……ケーキ……。
「これだわ!」
私は叫んだ。
そう。大昔から言うじゃない。男の胃袋を掴め、と。
私ははっきり言って料理ができない。肉じゃがとか絶対ムリだし、カレーだってちゃんとできるか相当あやしい。まず目が痛くなるからタマネギとか切りたくない。
でも、電子レンジで簡単にできるカンタンケーキならどうよ!
私にだってチャンスがあると思わない?
そうなのだ。私には、好きな人がいる。
その好きな人の眼中に、私はいないっぽいけど、直接会って、手作りケーキでも渡せば、憶えてもらえて友達くらいにはなってくれるんじゃないかな!
「ようし! やるぞ!」
私は素早くレシピを炬燵の上にあったメモ帳に丸写しすると、立ち上がり、台所へと向かった。
「さむ……」
台所は、寒かった。
「えーと……ボウルと、計量カップと、かき混ぜるやつと…………うん、こんなもんかな」
私は底の深いボウル等、必要な道具を持って炬燵のある居間へと戻った。
道具を炬燵の上に並べる。
「あっ、しまった。小麦粉とか、忘れちゃった」
再び寒い台所へ、メモったレシピも持っていく。
「えーと、卵と、薄力粉と……」
材料をそろえてまた居間へ。
ドサリ、と小麦粉等を炬燵テーブルの上に置く。
「さて、やるかっ!」
と、その時、ふと思った。
「まず、道具洗ったほうがいいか……」
そして、台所へ洗い物をしに行こうと、ボウルを持とうとした。
「え? 重い、なんで?」
ボウルの中に視線を落とす。
そこには――
「えぇぇぇぇえええぇぇ?」
思わず甲高い声が出た。
愛猫、しゃむしーるが居たからだ。
「しゃ、しゃむぅ、なにしてんの、お前ぇ~」
かわいすぎて、つい裏返った気持ち悪い声を出してしまった。
しゃむしーるは、丸いボウルの底にすっぽり入って、目を閉じて気持ち良さそうに眠っていた。
「これじゃあレンジくんのケーキ作れないジャン」




