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1話

 俺の住む町の近くには、入るたびに地形や入手できるアイテムが変わる不思議なダンジョンが存在する。


 そのダンジョンには貴重な物もあり、町の人達はそれを売り買いして生計を立てていた。


 だから町には探求者ギルドが存在し、最高ランクのS級探求者ともなれば、様々な恩恵が与えられて、町人達の憧れの的となっていた。


 雑用係とはいえ、俺は運が良い事に、その探求者のパーティに入れて貰えていた。だが──。


「ジョーカー! てめぇ、何しくじってんだ!!」


 俺はパーティのリーダーであるアレスに思いっきり殴られる。バフが掛かっていないのに、さすがはS級探究者のリーダーだ。俺は見事に吹き飛び、洞窟の壁に体をぶつけ、倒れこむ。


「ごめん……」


 アレスが怒るのも無理はない。俺のサポートが遅れたせいで、このパーティの要であるバフ《ステータス上昇》のスキルを持っているデバッファーが致命傷を負ってしまったのだから……。


「ちっ……リリヤが居なければ、これ以上進むのは危険だ。クソッ! せっかくここまで来たのに!! いったん戻るぞ!」


 アレスがそう言うと、召喚士のダートはリリヤを背負い、アレスに近づく。


 俺もアレスに近づこうと立ち上がると、アレスは「ジョーカー! てめぇ、なに近づこうとしてるッ!!」と怒鳴りつけてきた。


「え?」

「てめぇのせいでこうなったんだ。今からお前をパーティから外す。一緒に帰れるなんて思うなよ!?」

「ちょ、ちょっと待って!」


 俺は後で怒れても構わないから必死にアレスに駆け寄った。だが──。


「リターン」と、アレスは帰還の指輪を使い、地上に戻ってしまった。俺は倒れこむかのように地面に膝をつく。


「あぁ……なんてことだ……」


 戻る方法は三つある。一つ目はアレスのように帰還の指輪を使用する。二つ目はリターンのスキルを使って帰還する。三つ目は自力で上まで這い上がる。


 一つ目も二つ目も俺にはない。三つ目しか今の俺には残されていないが、ここはダンジョンの中でも中層部。俺一人じゃ絶対に無理だ。


 となると……残された道は他の探求者を探して助けを求めるか、何としてでも帰還の指輪を探し出すしか思いつかない。


 ──泣き叫んだって、今の状況がどうにかなる訳じゃない……アレスにも情けの心があったのか、幸いにも俺に預けていた荷物は回収して行かなかった。とりあえず回復薬を使用して、慎重に探索をしてみるしかないようだ。


 ※※※


 同じ階を10分程歩いてみたが……人もアイテムも見つからない。早く見つけないと、先に魔物に見つかってしまう。


 このダンジョンが不思議と言われている所以の中に、人によって違うスキルが与えられるというのがある。もちろん俺もスキルを持っている。持っているけど……他人どころか自分に対しても役に立たないスキルだった。


 そんな俺がS級探究者のパーティに入れて貰えていたのは、強いからじゃない。最低賃金で雇える中で、他の探究者より少し動けたからだ。


 もしこの階の魔物に一匹だろうと出会ってしまったら、俺は確実に殺される。だから、ゆっくり歩きながらも、常に心臓が高鳴っているぐらい緊張して歩いていた。


「ギュルルルル」


 聞いたことがない鳴き声が後ろから聞こえ、俺は慌てて振り向く──こいつは図鑑で観た事がある。全身が金属で出来ている猫の様な魔物、メタルキャットだ。


 出会ったのがこいつで良かった……なぜならこいつは──油断をしていると、メタルキャットはカパッと口を開け、火炎の球を吐き出してくる。俺は咄嗟にかわしたが、自慢の栗毛が少し焦げてしまった。


「嘘だろ……おい……」


 メタルキャットは臆病で直ぐに逃げるので有名な魔物だ。それなのに何故、攻撃をしてきた? レベルの低そうな俺をみて、なめてるのか?


 ──いや、今はそんな事を考えている場合じゃない! とにかく逃げなくてはッ!!


 俺が逃げようと前を向くと、メタルキャットは逃がさんと言わんばかりに俺の前に回り込む。──そして俺の方へと飛び掛かってきた。俺は役に立たないのは承知の上で、腰に掛けてあった鞘から剣を取り出す。


「リリース!」と叫び、剣に込められている呪いの力を解放し、襲ってくるメタルキャットを斬りつける。


 剣がメタルキャットの足に当たり、メタルキャットはドロッと銀色の血を流し、態勢を崩しながらも、地面に着地した。


 ちょっと待て……メタルキャットはS級探求者でも、なかなか傷をつける事ができないと言われるほど、硬い体をしているんだぞ!? だから倒すことが出来れば、膨大な経験値を得られると有名なんだ。それが何で1のダメージしか与えられない剣で、出血するんだ!?


 そんな事を考えていると、メタルキャットは傷つけられたことで恐怖したのか、後ずさりを始める。何が何だかまだ分からないが、傷つけられるって分かったんだ……。


「この機を逃がす手はない!!」


 俺はメタルキャットに攻撃を仕掛ける。メタルキャットはヒラリと避けたが、さっきよりも動きが鈍い。これなら今の俺でも十分に追える!


 俺はメタルキャットを壁の方に追い込み、斬りつける! ──攻撃は胴体に当たり、メタルキャットは奇声をあげる。逃げようと動き出したが、更に攻撃を仕掛け──トドメを刺すことが出来た。


 信じられないぐらいグングンと力が沸いてくる。これはレベルが1や2上がった程度じゃない。


「油断するなッ!」と、急に女性の声が後ろから聞こえ、「後ろに飛べッ!!」と指示が飛ぶ。


 俺は言われた通り、すぐさま後ろに飛んだ。その瞬間──巨大な岩の腕が、俺の前を通っていく。


「──危なかった……」


 浮かれていて気付かなかったが、どうやらさっきの戦いで、壁に擬態しながら寝ていたゴーレムの眠りを覚ましてしまっていたようだ。


「防御してろッ!!」と、10歳ぐらいの金髪ツインテールの少女が、身の丈ぐらいありそうな大きなウォーハンマーを両手で持って、姿を現したゴーレムに向かって駆けていく。


 ゴーレムは少女に気付き、少女に向かって巨大な拳を振り下ろす。少女は「ラスト・インパクトッ!!」と叫び、ゴーレムの拳に向かって、ハンマーを振り上げた。


 ゴーレムの拳とハンマーがぶつかり合い──拳が砕け散る。俺は咄嗟に両手でガードし、いしつぶてのように飛んでくる石を防いだ。


 ──ズシンッ! と、ダンジョン内に地響きが立ち、いしつぶてが止む。俺はガードを解いて状況を確認した。


 そこには信じられない光景が広がる。さっきまで居たゴーレムが粉々になっているのだ。


 少女は別に屈強の戦士の様に筋肉が膨れ上がっている訳ではない。むしろスリムだから華奢の様にも見える。一体どこにそんな力があるのか……?


 スキルだと分かってはいるが、それでもゴーレムを一撃で仕留めるなんて並みの探求者じゃ出来ない事だ。


 少女がこちらを振り向く。よくみると顔も童顔で幼く見える。でも目は鋭くてちょっと怖い。


「大丈夫か?」

「あ……はい!」

「そうか、良かった」

「ありがとうございます」


 俺はペコリと頭を下げる。


「君、面白いスキルを使ってるね。私のスキルでもなかなかメタルキャットに傷なんてつけられない。どういうスキルなんだ?」

「それが──」


 俺は自分のスキルの話をする。


「なるほど、呪われた物しか装備できないねぇ……」

「だから何の役にも立たないんです」


 少女はそれを聞いて、何故かニヤッと微笑む。


「いや……使い方次第で化けるかもしれない。さっきのメタルキャットみたいにね」

「はぁ……」

「君に興味が湧いてきた。私と組まないか?」

「え、良いんですか!」

「もちろん!」

「ぜひ宜しくお願いします!」


 俺はそう言って、ハンナさんに向かって手を差し出す。ハンナさんも手を差し出し、俺と握手をすると「私はハンナ。君の名前は?」と聞いてきた。


「本当の名前はありますが……前のパーティではジョーカーと呼ばれていました。気に入っているのでジョーカーと呼んでください」

「分かった。じゃあジョーカー、まずは一旦、帰ろうか?」

「はい!」


 俺が返事をすると、ハンナさんは帰還の指輪を使う。こうして無事にダンジョンを脱出できた。



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