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5話 脱出

 りいなの姿が消えた直後少し離れた所から何かがぶつかる音が聞こえた。


「え……?」


「あぁ、彼女一応死なないように手加減したから安心していいよ」


 背後から声が聞こえると同時に首を掴まれ持ち上げられる。


 苦しいが死ぬほどでは無い絶妙な加減で首を掴まれており、逃れようと抵抗するが力が余り入らず効果はない。


 それならと背後へ向けて魔法をぶつけようとレス・アイスの魔法陣を出す。

 下に目を向けることが出来ず魔法陣を見れないままうろ覚えの記憶で詠唱する。


 何とか詠唱を終わらせ背後に氷の塊を打ち出す。


「へー、魔法陣を見ずに詠唱して発動させる事自体はたいして難しくはない、けど集中できないこの状況、魔法を使いだしたのが昨日となると、キミ才能あるねぇ」


 打ち出した氷の塊は氷が砕けるような音と、一切ダメージを感じさせないその声から効いてないらしい。


 くっ、どうする……。

 俺の魔法じゃダメなら可能性があるのはりいなの魔法くらいか?

 だがりいなは一瞬で姿が消えるほどの力で吹き飛ばされている、背後の声は死んでないらしいが動けるとは思えない。


 りいなの状況が気になるが……。


「あの女が気になるようだね、いいよ連れて行ってあげる」


 俺の視界が一瞬で切り替わる。


「……っ!?」


 これは、一瞬で移動したのか……?


 目の前には意識はあるようだが倒れたまま動けていないりいなとぶつかって折れた木がある。

 木には赤い液体が飛び散っておりりいなのくらった攻撃の強さが嫌でもわかる。


「僕しばらく暇だからさ、君たちで遊ぶことにするよ」


「なにを……する…つも…りだ……」





「君たちに僕の加護(呪い)をあげよう、もっと強く、強くなって、ここに帰っておいで。そして僕を楽しませてほしい。期待しているよ」


 掴まれていた首をいきなり離された俺は受身も取れずに倒れ込む。


「あぁ、そうそう僕の加護(呪い)は試練として君たちの合計魔力量が今から一年後に230万以下だと死ぬから頑張ってね。じゃあまた会おう。次会うときは期待しているよ」


 声の方へ顔を向け、はじめてその声の持ち主の姿を見た。

 俺よりも小柄で小学生6年生くらいに見えるそいつは背中に黒い翼を生やし浮いていた。


 そいつは喋り終わるとまるで夢だったかのように一瞬で消えた。


「りいなっ!! 大丈夫か!? 」


 吹き飛ばされた時に頭をぶつけたのか、頭からの出血が酷い。


「げほっ、あたしならは平気よ……。このくらい秘匿冒険者なら日常茶飯事よ……」


 いててと言いながらりいなはゆっくり起き上がり体の負傷状況を確認している。


「頭は切った場所が悪いのか出血が酷いわね、それに肋骨と左腕が折れてるわね……」


 これが秘匿冒険者ならよくある怪我……?

 どう見ても大怪我で月単位の入院コースなんだが。


「りいなはさっきの呪いの話聞こえてたか?」

「えぇ、意識はあったから聞こえてたわよ。加護(呪い)って言ってたからステータスプレートで見れるかしら…」


 りいなは懐からカードっぽいものを取り出した。


「ナコト、見てこれ」


 名前:鈴凪りいな

 魔力量:450527

 加護:呪神の加護……2028年5月5日0時時点で鈴凪りいな、白野ナコトの合計魔力量が230万以下の場合死ぬ。加護持ちの二人が身体的に接触している場合魔力量増加効果有り。五年以内に呪神に強さを認められない場合も死ぬ。


「呪神……、やっぱり呪いか……。合計魔力量が足りないと一年後には死んで、それを越えても5年以内に強さを認められないと死ぬとかまじかよ……」


 合計魔力量230万がどのくらいの難易度なのかは知らないが、あいつの感じからしても、呪神という名前からしても簡単とは思えない。


 りいなに話を聞いてみようと思った瞬間、りいなから手を掴まれ、驚きでビクッとしてしまった。


「秘匿冒険者になってないあんたはわからないだろうけど230万って普通なら不可能よ。唯一の希望があたし達が触れ合ってる間増加する効果ね。どのくらい増えるかわかんないけど基本的に常時この魔力量増加効果はつけるべきね」


「常時っておい……」


「いい? あたしの魔力量は大体45万、あんたは測定してないからざっくりあたしの感覚だけど10万前後くらい、合わせて55万。230万から55万引いたら175万で一人あたり87万5000も1年で増やさないといけないの。そして普通は1年で3000から10000くらいしか増えないの」


 りいなの説明を聞いてこの呪いの難易度を理解してしまった。

 普通にやれば87年以上掛かるのを1年とか絶対無理だ。

 ただ、俺たちに呪いを掛けたあいつが最初から不可能なことはしなさそうな気がする。

 それなら殺そうと思えば出会った瞬間に俺たちを殺せてただろうし 、最初から不可能な試練を与えたところで序盤に諦めてしまうのはあいつは好まない気がする。


 楽しませろって言ってたことからギリギリなんとかなるかならないかレベルだと思いたい。



 となると鍵となるのは触れ合ってる間魔力量増加効果の部分だろう。

 どのくらい増加するかは早めに確認したいが、それまではりいなが言う通り常時増加効果を付けておくべきだろう。


「わかった。今日からは通帳残高じゃなくて魔力量を確認する日課ができたな……」



「取り敢えず早く九州から脱出しましょ、治療したいし、今後についても決めないといけないし」


「だな、りいな歩くの辛そうだし抱えるぞ」


 こうやって普通に会話しているが、りいなの頭からは血が流れているし、腹は痛みがひどいのか空いた手で押さえている。


「助かるわ、実は結構辛いのよね……」



 最初はおんぶしようと思ったが、それだと肋骨に当たるため、お姫様抱っこで移動することになった。


 その状態でりいなにナビゲートしてもらい、転移水晶の場所までたどり着く。


「きれいだな」


「転移水晶はどこも大体同じ見た目よ」



 転移水晶の見た目は一言で言うと、俺の背丈くらいはあるでかい水晶。目の前にあるのは透き通った青色の水晶だ。


「これに触れて魔力を流すと、ペアになってる水晶のところに移動できるわ」


 どういう原理なんだ、と少し気になるが魔法とかが存在するんだしそういうのでなんかやってるんだろう。


「これりいな抱えた状態でやったらどうなるんだ?」


「あんただけが転移して私は地面に落ちるね……、だから絶対するんじゃないわよ」


 そりゃそうか、魔力を流す人に触れてる人も一緒に転移できるなら魔力を持たない人も転移ゲートで脱出できることになる。転移の負担がどうかは知らないが、何度も繰り返せば多くの人を助けることができるが、実際は無理と。


 気にしたら負の感情に囚われそうになるから考えるのはやめておく。


 というその言い方じゃ振りにしか聞こえないんだが。


「あんたからやってみなさい、あんたが転移したらあたしもすぐに行くから」


 りいなを降ろすが、りいなの体には触れたまま空いた手で転移水晶に触れて魔力を流す。


 魔法を知ってまだ二日目だが、魔法を使うことが出来る俺には魔力を流すのは容易い。


 難易度的には何か一つでも魔法の詠唱が出来るなら問題ないくらいか。


 魔力を流した瞬間、見えていた景色が切り替わる。


 場所は室内で、広さは学校の教室二つ分くらいか。部屋内には中央にある青い水晶以外には何も無い。いやひとつしかない出入口の扉の側には剣を持った人が立っている。


「うぉっ、りいなか」


 俺が辺りを見渡していると隣にりいながいきなりりいなが現れて驚いてしまった。


 転移してくる人ってこんな感じなのか。


 負傷しているりいなを抱きかかえて、扉のところにいる人には聞こえない声量で話しかける。


「あそこの人剣持ってるけど危険じゃないよな…?」


 こっちに向かってきてるし。


「大丈夫よ、秘匿冒険者の人だと思うわ。九州とペアの転移水晶だから見張りかしら」



「すいません、二人のお名前聞いていいですか?」



 おっさんかと思っていたが、近づいて顔を見ると思ったよりも若かった。と言っても俺よりもは年上で二十代前半くらいか?


「あたしは鈴凪りいなよ。隣のは白野ナコト」


 りいながそう答えると男はスマホを操作して、あったあったと言ったあと「ひょえぇ!?」と間抜けな声を上げた。



「A級秘匿冒険者の鈴凪様、行方不明リストに名前がありました。負傷しているようでしたのでヒーラーも手配しておきました。しばらくしたら来ると思います」





 それから数分もしない内に回復魔法が使えるヒーラーと呼ばれる人がやってきて、『エクスヒール』という魔法を使ってもらいりいなの傷は完治した。


 魔法一つで骨折すら治せるってすごいよな。


 魔法名はしっかり記憶したため、時間があるときに適性がありそうか試そうと思う。


 りいなの治療が終わるとヒーラーを手配してくれた見張りの人からギルドマスターが九州での話を聞きたいみたいですと言われ、りいなと一緒にギルドマスターがいるところへ向かう。


 秘匿冒険者でない俺も貴重な九州からの生還者のため一緒に話を聞きたいのだとか。



「ここよ。鈴凪りいなです」


 辿り着いたの部屋は扉からして高級感というか威厳のある見た目で近づきがたい雰囲気を醸し出しているが、りいなはそんなの気にせずノックしていた。


 というかりいな敬語使えたのか。ツンデレっぽい感じだからてっきり目上相手でもいつもの口調で行くのかと思ったけど、よく考えたら当然か。


「来たか、入ってくれ」


「失礼します」と言って中に入ると、めちゃくちゃガタイのいい四十代くらいの男がスーツ姿で待っていた。


「座って楽にしてくれ」と許可も出たのでりいなとソファに座り、男も対面に座ったところで話が始まる。


「鈴凪は知ってるだろうが、俺は日本の秘匿冒険者ギルドのマスター、守門照之(すもんてるゆきだ」


「白野ナコトです」


「ナコトくん、よろしくな。君たち以外にも九州から生還した人はいるが、皆モンスターと遭遇する前に脱出できた一般の人しかいないため情報が何もない。」


「あの、自分たち以外には一般の人しか生還していないって本当なんですか?」


「あぁ、秘匿冒険者は鈴凪以外一人も九州だけでなく北海道からも脱出してきた人はいない。人型の推定SS・SSS級モンスターが秘匿冒険者を優先して狙っているらしく今後脱出してくる可能性は限りなく低いだろう」


 何でもダンジョン発生後、九州・北海道在住の上級秘匿冒険者に状況把握のため連絡を取っていたが、通話中に襲わたり、その後連絡が取れなくなったりしたそうだ。

 偶然ギルド支部内の監視カメラがある場所で秘匿冒険者が人型モンスターに襲われているのが映り事態が発覚。


 そんな状況下で九州から脱出してきた俺とりいなに話を聞きたいとのこと。


「早速だが、少しでも情報が欲しいので話を聞かせてほしい」


「わかりました。私は大分の別府にある温泉に入りに――」


 りいなは別府の山奥の秘境温泉に入りすぎてのぼせてしまい、借りていたロッジで一人で休んでいたらしい。スマホが緊急警報がなったが地震なら魔力持ち故に平気と思い即座に止めて電源を切って寝直したらしい。

 そして朝起きて状況を知り、転移水晶に向かうため街に出たところで俺と出会ったと。


「――くじゅう連山の転移水晶付近まで来たときに突然襲われました。相手は小学生から中学生くらいの男、人語を話す呪神という存在でした。モンスターという枠に入れていいかはわかりませんがSS・SSS級だと思います。不意打ちで吹き飛ばされ私は腕と肋骨の骨折し、少しして隣の彼が呪神に首を掴まれ持ち上げられた状態で現れ、呪神に加護というか呪いを私達に掛けて立ち去っていきました」


 これがその呪いです。とりいなはステータスプレートを守門さんに見せる。


「これは……、だから君たちはずっと手を繋いでいたのかなるほど」


「呪いを掛けてくるような相手がそれだけで条件を満たせるような簡単なものにするはずは無いと思っています」


「ナコトくん、君の意志はどうだい? 君が望むならすぐにでも秘匿冒険者の登録を行い、明日からダンジョンに挑めるように手配しよう」


「呪神とかと出会う前から、りいなに魔法を教えてもらったときから秘匿冒険者になりたいと思っていたのでお願いします!」


「職員で君たち担当も明日までに用意しておく。今済ませておくべきは君のステータスプレート作成だな。魔力量の確認はすぐにでもできるようにしたほうがいいだろう」


 守門さんは懐からスマホを取り出し、誰かに新規のステータスプレートを持ってくるように伝える。


「そういえば君たちは住むところはどうする? 用意が必要ならこちらで手配することも可能だ」


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