3話 初勝利と初日終了
さっきまではなるべくモンスターを避けていたが、今は魔法の試し打ちのためモンスターと遭遇したい。
しかし、そういう時に限って中々モンスターと遭遇しない。あれから三十分は歩いたか。
道中、少し離れた場所からモンスターの声が聞こえたりはしたが、転移水晶に向かうのが第一目標のため、俺の個人的な理由で遠回りするのは出来ない。
あとは意外と大型のモンスターが遠くで暴れているのはいくつもあったし、進行方向でも一匹暴れていたからそれは遠回りして避けた。
「いいことなんだろうけど、中々モンスター来ないな」
「モンスターって基本的に魔力を持ってない人や上手く扱えてない人を優先して狙う習性があるのよ……」
りいなは顔を伏せながらそう言った。言いづらいことを言わせてしまった。
つまり俺たちよりも優先度が高い人がいるから俺たちの方のは来ないということ。
自分たちが生き残るために大勢の人を見捨てたんだということを再度認識させられた。
「ごめん。そういえば、モンスターの討伐難易度はFからSSS級まであるって聞いたけどりいなはどの難易度まで倒せるんだ?」
「そうねぇ、モンスターとの相性にもよるけど頑張ってA級ってところかしら……。相性悪いとB級でもキツいわね」
確かテレビでは討伐可能なのはS級までと言っていた。これは一人でという意味ではなく複数人でということだろうし、一人でA級を倒せるりいなは秘匿冒険者の中でもトップ層なんじゃないか……?
「さっき避けた大型のモンスター覚えてる?」
「二足歩行の牛頭でミノタウロスみたいなやつか」
大きさは四、五メートルくらいはあったように見えた。
離れていても威圧感というか何かがすごかった記憶がある。
あんなのが暴れたらコンクリートでできた建物でも余裕で破壊できそうな気がする。当然人がくらったら即死だろう。
「そうそれ、あれが討伐難易度B級よ。あれくらいなら一人でも勝てるんだけど、ミノタウロスって耐久力が結構すごくて倒すのに時間かかっちゃうのよね。長時間戦闘してたらA級以上のモンスターに見つかる可能性もあるから避けたのよ」
「りいなってあれ倒そうと思えば倒せるのか……」
りいな怒らせたら俺死にそうだな……。怒らせないように気をつけよ。
「あれは普通のスライムね、あれならE級だから倒せると思うけどどうする?」
りいなが向いている先には赤いゼリー状の物体が何かを食べていた。
「やってみる」
そう言ってスライムに近づいていくとその体がはっきり見える位置になり気がついた。
スライムが食べているものは人だったもの……。体が赤いのは血の影響か?
思わず吐き気がこみ上げてくるが深呼吸して心を落ち着かせる。
「無理そうならやめてもいいのよ」
「いや、大丈夫だ。『レス・アイス』」
声に魔力を乗せ魔法陣を出現させる。その魔法陣に左手を添え詠唱する。
二度目ということもあり、一回目よりも早く詠唱を終え、スライムに向かって氷の塊が勢いよく飛んでいき直撃する。
氷の塊が直撃した箇所から徐々に凍りつき、すぐに全身が凍りついたスライムは動かなくなった。
「へぇ、初めての戦闘の割には頑張ったわね、褒めてあげる。あと初勝利おめでと」
「りいなが魔法を教えてくれたおかげだな」
こうして俺は初のモンスター討伐に成功した。
その後もしばらく歩き、周囲の景色から建物などの人工物が減っていき、自然が増えてきた。
スマホを取り出して時間を確認すると十九時、日が沈みかけて薄暗くなってきている。
モンスターの影響で停電しているのか外灯は点いておらず、ちらほら見える民家も暗いまま。
目の前に見えるコンビニも真っ暗で人気がない。いつもは年中無休で開いたままだから暗いコンビニを見るのは少し変な感じがする。
「この先しばらく店とかないからそこのコンビニで食料確保しようと思う」
「わかったわ」
コンビニを漁り終えた俺たちはコンビニ前の駐車場に座り込む。幸い今日は曇っておらず月明かりがあるためそこまで暗くはない。
コンビニでは明日以降の食料としてカロリーメイトをいくつかと、懐中電灯と予備の電池など必要になりそうなものをコンビニ内にあった手提げバッグに入れて持ち出している。
パンを食べながらりいなに話しかける。
「そういえば魔法ってどんな種類があるんだ?」
りいなはメロンパンを食べながら喋りだす。
「そうへー、まふぉうは」
「何言ってるかわからん、飲み込んでから頼む」
「もぐもぐ……、魔法は基本的には属性魔法、付与魔法、回復魔法、防御魔法、黒魔法の五系統に分かれるわ。あとは使える人が少なかったり、貴重だったりする特殊魔法があるけどこれは気にしなくていいわ」
「りいなが属性魔法を使ってるのは見たことあるけど、他のも使える?」
「あたしはあと防御魔法だけね。防御魔法はあんたも使えるなら絶対に覚えておいた方がいいわよ。魔法名は『シールド』よ。試してみなさい」
りいなはパンを持っていない方の手で目の前に出現した半透明の壁を叩く。
今、りいな詠唱してなかったよな……?
「魔法技術の一つで迅速詠唱って言うのがあるの、魔法陣を一つずつなぞるんじゃなくて、スタンプを押すみたいに一瞬で詠唱完了させて最速で魔法を発動させる事が可能で、シールドを実用化させたいならほぼ必須ね」
「やっぱそういう高等技術みたいなのあるんだな。まずは『シールド』が使えるかどうかだけど……」
『シールド』と口に出すタイミングで声に魔力を乗せたため目の前に一メートルほどの魔法陣が出現した。
『レス・アイス』の魔法陣が十センチだったのと比べればかなりでかい。
魔法陣が大きくなった分、複雑な模様がぎっしり詰まっておりかなり大変そうだ。
「魔法陣を維持できてるってことは防御魔法も素質あるみたいね」
魔力を操作して詠唱を始めるが、魔法陣が大きく、複雑なせいで詠唱が中々進まない。
俺が詠唱完了し『シールド』を発動するまでにかかった時間はおよそ二分。
「一回目で発動までできるなんて憎いわ。あたしでも一日掛かったのに。シールドって割りと詠唱難しい部類なのにあんたやるわね」
俺の目の前にもりいなの『シールド』と同じ半透明の壁が出現しているが、『シールド』の使用用途は基本的に緊急時に咄嗟に使うだろうことを考えると二分じゃ話にならない。実質使えないのと一緒だろう。
使い物になるようにするにはりいなが言っていた迅速詠唱をできるようにするしか無いが、スタンプのように一瞬で詠唱完了とか可能なのか……?
正直できる気がしないが、りいなは実際にやってみせてくれたからなぁ……。
昨日ネットで情報収集したりしていて寝ていなかったせいか、座り込み気が緩んだこともあってかあくびが出ててしまう。
「そういえばあんた昨日寝てないって言ってたわよね、今日はこの辺で寝られそうな場所探して早めに休むわよ」