1話 九州は見捨てられたので脱出したい
日付が変わり、ゲームをのきりもよくそろそろ寝るかと思っていた時だった。
いきなり鳴り出すスマホに驚きながら確認すると、大規模災害発生、屋内に避難してくださいと通知が来ていた。
それを見た俺は大規模災害としか書いてなかったことに対してどんな災害なのかぐらい書いとけよと愚痴る。元々寝ようとしていたため外出せずに寝ようとしたが、外が次第にうるさくなりその原因であろう大規模災害について気になったためネットで情報収集をはじめた。
朝六時、すでに日が昇り始め外が明るくなってきた。結局一睡もできなかった。
家の窓から外を見る。空にはドラゴンっぽいものが飛んでおり、道路には緑の肌で小さめな人形のゴブリンらしきものや、犬とは見た感じの凶暴さが違うウルフ系のものが人を襲い、死体を食べていた。
ネットの情報だとドラゴンやゴブリンなどのファンタジー生物が現れたのは日本時間で日付が変わる瞬間らしい。
ファンタジー生物はダンジョンというものから現れ、周囲の人を見境なく襲い出した。出現したダンジョンは本州に五、北海道、九州にそれぞれ二十以上確認されている。
しかも、北海道、九州はダンジョンが出現した場所も悪くというか狙ったかのように空港や都市部に集中しており、飛行機や電車などの移動手段は使えなくなっているらしい。
そして今からテレビや動画配信サイトで政府から重大発表があるとのこと。
俺はスマホで動画配信サイトを開いて待機していた。
元々パソコンで情報収集していたが、夜中の二時あたりに停電しそれ以降復旧していないためスマホに切り替えた。
「まじか……」
政府の重大発表は一言でいうと九州、北海道は捨てるというものだった。
出現したダンジョンの数だけでなく、九州、北海道には討伐難易度SSS級のモンスターが複数確認されており、本州のダンジョンから現れたモンスターの討伐難易度は最高でA級だったことから討伐可能な本州のモンスターを優先的に対応したとのこと。
討伐難易度はFから始まり、E,D,C,B,A,S,SS,SSSの順になっており、Fは特殊な訓練を受けた人なら倒せる難易度、S級が被害を考えなければなんとか倒せるぎりぎりの難易度、SS、SSS級は実質討伐不可能らしい。
そしてダンジョンを探索し、モンスターを戦闘し素材を持ち帰る秘匿冒険者と言われる人たちがいるらしく、その人達を本州に出現したモンスターの討伐作戦に依頼。それにより本州に出現したモンスターは朝六時時点でほぼ討伐完了したとか。
ダンジョンは出現時に外へモンスターを排出する他、ダンジョン内でモンスターの討伐があまりされていないと数が増えて溢れ出すとのことで、本州はダンジョン出現時のモンスターはほぼ討伐完了しているためしばらくは安全だとか。
なぜそんなにダンジョンのことに詳しいのかについての質問もあった。
それに対し政府の返答は、ダンジョンはおよそ百年前に世界中で一斉に出現したらしく、その時の被害は凄まじいものだったらしい。魔力を操りモンスターを討伐できる人達が現れなんとかダンジョン外のモンスターはほぼ討伐した後、特殊なの能力を持った人たちによりダンジョンによる被害を自然災害によるものへと置き換え、ダンジョンの存在は秘匿されてきたらしい。
そのため百年もダンジョンと付き合ってきており、ある程度の情報は持っているとのこと。
ドラゴンやゴブリンなどのファンタジー生物はモンスターと呼び、モンスターは銃やミサイルなどの重火器は一切効かず、バットなどの打撃、包丁など刃物の攻撃はE級のモンスターなら極僅かに効き、基本的には魔力を用いた攻撃しか効かないらしい。
ようするに実質秘匿冒険者の人にしか倒せない。
そして九州、北海道はその人達でも倒せないモンスターが複数出現しており、救助不可と判断。秘匿冒険者の被害を考えなければ少しは救助できるかもしれないが、秘匿冒険者の人数が減るとダンジョン内のモンスター討伐が不足し、近いうちに日本は滅びてしまうため苦渋の決断だと。
基本的にモンスターは自身が出現したダンジョンのある陸地から離れることはないらしく、九州に出現したモンスターは九州から出ることはない。ただし、大陸も一つの陸地判定だとか。
そのため九州、北海道と近い、山口、青森県もほぼ危険は無いらしい。
ただ、外聞を気にしたのかどうかは不明だが本格的な救助は出来ないが、九州なら福岡県北九州市門司区にある港、北海道なら函館の港に避難してきた国民は本州へ救助するとのこと。
俺が住んでいるのは大分県。福岡とは隣県だが、それでもかなりの距離がある。
家の外に一歩出たら死の危険がある中、そんな距離を移動できるかどうか。
このまま家に籠もっていてもすぐに食料が尽きて外に出ざるを得なくなる。どのみち外に出ないといけないなら門司港に行って救助してもらうしか無いだろう。
大勢の人が集まれば救助が遅れ、襲われる可能性もあるし早いほうがいい。
ダンジョンの出現位置とそれを避ける移動ルートをざっくりと決め、動きやすさを阻害しない程度に厚着をし、物干し竿を護身用の武器で持って家を出た。
食料は家にある物でかさばらないものを中心にリュックに詰めている。
通帳や財布もリュックに詰め込む。
家を出て三十分。人気の無い公園で五匹のゴブリンに囲まれていた。少しでも身軽になるために背負っていたリュックは捨てておりあるのは物干し竿のみ。
最初は二匹のゴブリンに見つかり逃げいてたが、前からもゴブリンが来て囲まれてしまった。
ジリジリと距離を詰めてくる。一気に詰めてこないのは警戒してというよりは嬲るためと言った感じがする。
五匹の内一匹が飛びかかってきたため、物干し竿で突いた。
するとゴブリンは数メートル吹き飛んでいき公園の遊具に当たって止まる。そのゴブリンはすぐに起き上がったがフラフラしており、そこそこダメージが通っているように見える。
他のゴブリンもそれを理解したのか、雰囲気が変わった。
ゴブリン達が一斉に飛びかかって来ようとしており、ここまでかと思った時だった。
「『エアカッター』」
そんな声が聞こえたと同時に、周囲にいたゴブリンすべての首が切り裂かれた。
「えっ……」
「ついてきて」
手を引っ張られ、転けそうになりながらもついていく。
走りながら手を引っ張る人物の後ろ姿を眺める。身長は百七十ある自分より頭一つ近く小さく、声の感じからして同い年くらいの少女。
五分ほど走り、人の気配もモンスターの気配もないらしい少しボロいアパートの階段に座り込む。走っている最中もモンスターと何度か遭遇したが、彼女が何かしたのかゴブリンのように切り裂いて対処していた。
「ふぅ……、とりあえずここでいいかしら。
あたしは鈴凪りいな、あんたは?」
走っている最中後ろ姿しか見えなかったため、りいなと名乗った少女の顔を初めて見るがゲームやアニメの世界から飛び出してきたのかというほど整った容姿をしていた。
その容姿のせいか、死の危険性があった状況による吊り橋効果か、走ったせいかしらないが、心臓の鼓動が激しい。
さすがに容姿のせいとは思いたくない。そこまで単純なのは嫌だ。
「俺は白野ナコト。助けてくれてありがとう」
「別にお礼なんていらないわよ、こっちは見返りを求めてだから、気にしなくていいわ」
「見返りっていうのは……?」
モンスターとの戦闘にはなんの役にも立たないだろうし、この状況で金銭とかはないだろうが、そうだとしたら学生の俺よりももっと金持ってそうな人を選ぶだろう……。
「ナコトは今の状況ってどのくらい知ってる? モンスターやダンジョンとかについて」
政府から発表があった内容や、ネットで集めた情報を一通り話す。
「ふーん、それでナコトは家を出て門司港目指してたと」
「家に引きこもっててても死ぬだけだし、助かる可能性があるとしたらそこに行くしか無いからな……」
「多分だけど、もしナコトが門司港たどり着いても救助されなかったと思うわよ。ダンジョンの出現場所聞いた限り門司港周辺にはダンジョンはないってことはその周辺に住んでる人たちが脱出しようと殺到してるはず。重要人物とかなら優先的に救助されるかもしれないけど、あんたは普通の学生。普通に順番待ちしてる間にモンスターが大群で来て死んで終わり」
「あー、そりゃそうだよな……。どうすんだこれ……」
「そこでナコトに提案なんだけど秘匿冒険者専用の転移水晶というのがあるんだけど、それで一緒に九州から脱出させてあげるわ」