三章 狡兎良狗
「あらまぁ、お隣さんでそんなことがねぇ」
「えぇ、そうなの。そこのおうちとは私もお付き合いがあったし、時々お惣菜分けてあげてたから。今でもちょと信じられないわ」
「両親は共働きで家を空けていたみたい。ご家族がいればこんなことにはならなかったかもしれないのに」
「高校生といってもまだまだ子供だったのかしら」
「まだまだ若かったし、せっかく可愛らしい彼女さんができたって喜んでいたのに...」
焼け焦げた一軒家を遠巻きに囲む群衆。凄惨な事故とはいえ結局は他人事、皆のんきなものだ。
その一角、人混みに紛れてその惨状にほくそ笑む男がいた。退屈な日常に加えられた陰惨な刺激、他人の不幸を肴に思い思いの会話に華をさかせる人々の中、よし、と一言つぶやき雑踏に消えていくその影を気にする者はいない。
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今日はお兄ちゃんと喧嘩して家を出てきた
仕事仕事ってそればっかり
ちょっとは私と遊んでくれたって良いのにさ
そんなに仕事が楽しいわけ?この馬鹿!
最初はちょっと困らせてやりたいだけだった
意気揚々と知らない道を歩き回って、ちょっとした冒険みたいで楽しかったよ
でも雨が降ってきて、寒いお外で一人ぼっち
お腹すいたよ、あったかいお布団が恋しいよ
きっと心配して迎えに来てくれるはず
なんだかんだで優しくて、私想いのお兄ちゃんを信じてた
お日さまが沈んで外が暗くなってきた
お兄ちゃんはまだ来ない
私のことなんでどうでもよかったのかな
お仕事の方がよっぽど大切なのかな
このままずっと一人ぼっちなのかな
ここで死んじゃうのかなって、本気でそう思ってた時
「こんなとこで何してるの?」
「えっと、あなたは?」
「僕はゆうただよ、きみは?」
「れいなです。あのっ」
声をかけてくれた男の子がいた
彼は優しくて、知らない子の私の話を信じてくれた
おうちにあげてもらったんだ
ゆうたくんのママは私をお風呂に入れてくれた
冷え切った体があったまる
ゆうたくんのパパは私をレストランに連れて行ってくれた
優しさに触れた心もあたたかくなる
パパとママがいるとこんな感じなのかなぁ
親がいないからっていじめられてた私の、初めての同年代の友達にゆうたくんはなってくれた
たくさんお話して楽しかったし、一緒に遊んでくれて嬉しかった
最高の時間を過ごしたあと、みんなで私の家を探した
お馬鹿さんの私は何も考えずに歩いてきちゃったけど、子供の足でそんなに遠くまで行けるはずはないもの
しばらく歩き回ってたら、私を探すお兄ちゃんに会えた
お兄ちゃんがゆうたのパパとママにペコペコ頭を下げてる
そんなにしなくても私は迷惑かけていないのに
みんな良い人だった、お兄ちゃんも私を心配してくれてた
でね、別れ際にゆうたが私を抱きしめて、唇を重ねたんだ
「お母さんがいつもかけてくれるおまじないだよ、大好きな人にしてあげるんだって」
初めてのキスは優しい愛の味がした
とある日記より




