一章 信賞必罰
「ゆーくん!これ、とっても美味しそうじゃないですか〜?」
僕には自慢の彼女がいる。名前は玲奈。優しくて可愛い天使だ。
今日は甘々デート中。トゥイッターで人気のパンケーキ屋さんに来ている。
ゆーくんってのは僕のこと。名前のゆうたから取ったありふれた呼び名だ。
それでも玲奈がそう呼んでくれるから、世界でたった一つだけの特別なものになっている。
「せっかくだから好きなもの頼もうね」
「はい!お兄ちゃんからはいつも面倒見てくれてありがとうって、いくらか預かっているですよ。もう、いつまでも子供扱いはやめてほしいのですが...」
ぷくーっと頬をふくらませる玲奈。ぷにぷにしたいくらい可愛いと思った。
お兄ちゃんというのは僕の年の離れた友人、たけしのことだ。
とはいえ友達の妹と付き合っていることに気まずさはない。
玲奈とたけしは顔も性格も大違い。血が繋がっているのが不思議なくらいなのだ。
彼は僕達の仲を応援してくれているのか、僕が玲奈と二人で遊びに行く時によくお小遣いをくれる。
高校生の僕にはよくわからないが、IT企業の上席部長というのをやっているらしい。
羽振りが良いたけしには感謝しかないな。
「やっふぁり、ふぉってもふぉいひぃです!」
「本当だね。こりゃあ口コミでべた褒めされているわけだ。」
口いっぱいにケーキを頬張る彼女を横目に食後のコーヒーを優雅にいただく。あぁ、幸せだと心から思った。
玲奈が食べ終えるのを待って店を出た。会計は二人で一万円。
どうせ人の金だ。自分の懐は傷まないから食い逃げせずにしっかり支払う。
「美味しかったー、また来ようね。」
「もちろんです!次が楽しみだな〜」
デートとはいえ長居はしない。楽しい時間はあっという間だ。
玲奈と別れてから考える。
自分は彼女を楽しませられたか?気を遣わせることはなかったか?
これといった特技もない。どうにもぱっとしない僕が、クラスでも人気者で友達の多い玲奈が付き合えているなんて奇跡だ。
僕は絶対に、彼女を失望させたくない。
少しでも長く一緒に居たい気持ちは本物だけれど、それ以上に玲奈に嫌われたくない。
だから今日も、すぐに分かれて家に帰る。
偽りの自分は、ハリボテの踏み台で背伸びをして、高嶺の花に並び立つ。
次は二人で何をしようかな?映画なんてどうだろう。
早めに待ち合わせて、合流してから映画を見る。鑑賞後も語り合いながら食事を取ろう。
よし、これなら僕でも半日は持たせられる。
そうと決まれば早速メッセージを送ろう。
ゆうた『ねぇねぇ、明後日は映画なんでどうかな?』
玲奈『ごめんなさい。月曜はお友達の買い物に付き合ってあげる約束をしていて……』
「そっかー、友達との約束なら仕方ないかぁ」
どうも玲奈にも予定があるらしい。
それなら、強引に誘ったりはしない。何事も彼女を優先しないと。
週末にでも誘おうかと返信を。
玲奈『聞いてよケータww』
玲奈『なんかキモ男から映画誘われたんだけど、だるいから断ってやったしww』
玲奈『月曜暇だから公園行かなーい?アタシ、良いスポット知ってるよ!!』
「えっ?」
△▼△▼△▼△
――電話のベルで眠りを破られる
眠気を払うように何度か頭を振り、ソファーから起き上がってあたりを見まわした。
昨日のショックで変なところで寝てしまったらしい。
電話はすぐに切れてしまった。
たいした用でも無いのだろう。寝違えて首も痛いし散々だ。同時に、その痛みは昨日の出来事が夢なんかじゃないことを教えてくれた。
「はぁ、玲奈には悪いことしたなぁ」
僕が既読を付けなければ、彼女も気まずさを感じずにすんだろう。
どうやら誤送信のようだが、玲奈が陰で僕の悪口を言っていることは問題ない。
なぜなら彼女は
――五重人格なんだから
僕が見なければ、送信を取り消して済む話だった。
それぞれの玲奈には、それぞれのパートナーがいる。
僕がメールを送った時には既に、僕の玲奈ではなくなっていたのだろう。
それでも彼女は優しいから、返事だけはしてくれた。
関心もない男から、親しげにデートに誘われたら気持ち悪いに決まっている。
それでも僕を傷つけないために気を遣ってくれた。
そんな彼女の想いを僕は踏みにじった。
「最低だな、僕は」
そう自嘲する僕のもとに、一通のメールが届いた。
たけしからだ、なんだろうな。
ポキモン新作発売まで頑張ります。




