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感情の色彩  作者: 天桜犀 海陽
3/3

称賛

次の日、僕はまた町の中を歩き回っていた。

今度は心配をかけないよう、一人でだ。

写真で見た場所を回っていれば、彼女にまた会えるかもしれないと思った。

あの不思議な世界についてもっと知るためにも、彼女にはもう一回会わなければ。


写真の場所を探しながら町の中を歩いていると、商店街が見えてきた。

そういえば、商店街の写真もあったなと思い、中へと入っていった。


すると、どうやらクイズ大会をやっていたらしく、ちょうど優勝者が決まったみたいだった。


「優勝は、吉田 淳さんです!」


その声が聞こえたあと、盛大な拍手が聞こえてきた。

ずいぶんにぎわっている商店街なんだな。

僕の町にある商店街なんて、シャッター商店街になってしまってるのに。


クイズ大会の会場を通り過ぎ、写真の場所を探すのを再開し歩き始めた。

後ろからまだ拍手の音と、おめでとうという声が聞こえてくる。

会場から離れて音が小さくなったと思った瞬間、今まで聞こえていた音がなくなり、周りの景色が緑一色となった。


「うそ、またこの世界に来られるなんて…。しかもこんなに早く!」


僕はうれしくなり、ガッツポーズをしてしまった。


「しかし、今回の色は確か、緑色っていう色だよね。前見た写真よりも明るい気がするけど。綺麗だなぁ、やっぱり。」


そういいながら、周りを見渡すと、この間見たのと同じような球体がクイズ会場の前に浮かんでいるのが見えた。


「えっ、あれって、あの子が触った球体とおんなじやつかな?確か元の世界に戻るには、あれに触ればいいんだよね。」


僕は球体の方へ歩き出した。

すると、突然後ろから大声が聞こえた。


「ちょっと待って!!」


驚き振り返ると、そこには昨日会った彼女が立っていた。


「その球体に触らないで!」

「どうして?これに触ったら元の世界に戻れるんだろう?」

「そうだけど、それに触るのはダメ!」

「ダメって、僕が先に見つけたんだ。触る権利はあるだろう。」

「それは…そうだけど…。」


僕は何でダメなのか理由が知りたくて、意地悪なことを言ってしまった。

でも、どうやらそれが効いているらしく、彼女はうんうん言いながら考え始めた。

彼女の答えが決まるまで、黙って待っていると、「よし」と気合を入れてこちらに向かって歩いてきた。


「どう、話す気になった?」

「ええ、なったわ。あなたもどうやらこの世界に認められてるみたいだから。」

「認められる?どういうこと。」


思ってもみない答えに僕は驚いた。

彼女は僕が驚くのも想定内なのか、気にせず話を続けた。


「ここに来るには、この町にある神社でお祈りをして認められたらこれる世界なの。」

「神社って、あの色彩神社?」

「そう、あの神社で色に関するお祈りでもしたんじゃないの?」

「えっ、なんでわかるの。」

「それが条件だからよ。ちなみになんてお祈りしたの?」

「『あの色のついた写真と同じ場所をたくさん見つけられますように。』かな。」

「十分条件に合ったお祈りだこと。」

「えへへ。」

「褒めてないわよ。」

「ごめん。」

「それで、あの球体についてだけど、あれは強い感情から生まれるものなの。そして、その感情に合った色の世界を作り出すってわけ。」

「じゃあ、あれは誰かの感情ってことなんだね。」

「あの感情がなんだか、心当たりある?」


僕は、あの場所でやっていたクイズ大会のことを思い出した。

拍手喝采があった後に、この世界が現れたから、感情としては称賛になるのかな?


「多分、クイズ大会がここであって、その優勝者が称賛を受けてからこの世界ができたから、“称賛”かな。」

「ほっ、そう、ならよかった。」

「よかった?」

「感情はいろいろあるでしょ、それはいいものばっかりじゃないってこと。」

「それはそうだけど…。そういうってことは悪い感情の世界もあるってこと?」

「もちろん。」


僕は、悪い感情でできた世界のことを想像してみた。

あまりいい“色”にはなりそうにないと思った。

僕の考えが表情に出ていたのか、彼女が僕を見ながらその答えを教えてくれた。


「別に、悪い感情だから汚い色とかになるわけじゃないからね。」

「えっ、そうなの?」

「きれいな時もあるわよ。」

「へえ、意外だな。」

「私はそうでもないけどね。」


そういった彼女は、前に歩き出し、球体を手に取った。


「あっ!」


声に出した瞬間、まばゆい光が満ち、元の世界に戻っていた。

僕は彼女に近寄った。


「どうして球体とっちゃったのさ。」

「あそこに長々いてもしょうがないでしょ。」

「球体の説明、してもらってないんだけど。」

「…。それだけは話せないわ。」

「どうして?」

「話したら私がこれまで頑張ってきたことがすべて水の泡だもの。」


そう言って彼女は立ち去ろうとした。

僕は慌てて彼女の腕をつかむ。


「待って!」

「まだ何か?」

「君の名前を聞いてない。教えてくれる?」

「聞かなくてもいいでしょ。」

「僕が知りたいんだ。」

「…。水谷 彩乃よ。」

「彩乃ちゃんか。」

「なんで名前呼びなのよ。」

「いいでしょ、君も僕のこと達也って呼んでいいよ。」

「木村。」


彼女は名前を呼んでくれる気はなさそうだ。


「なに?彩乃ちゃん。」

「明日から、この商店街に集合ね。」

「!!わかった!」


僕はうれしくて大きな声が出た。

それに彩乃ちゃんは驚いたようだったけど、仕方ないなという風に少し笑っていた。


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