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感情の色彩  作者: 天桜犀 海陽
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町の散策

待ちに待った夏休みの旅行の日となった。

その町にいられるのは1週間だけだが、その間だけであの写真の場所をどれだけ回れるか、それが楽しみで仕方なかった。


町を散策する。

ただそれだけのことが、こんなに楽しいのは初めてだった。


あの“色”のついた写真の町を今歩いている。

それだけで、もう気分は上がりっぱなしだった。

両親はなぜ町を散策しているだけでこんなにも楽しんでいるのかわからなかったが、息子が楽しんでいるのを見て旅行に来てよかったと思っていた。


街中を歩いていると、小さな神社があった。

そこにお参りしていこうと両親から提案され、色はないが写真でも見たことがなかった場所も見ておくべきだと思い、お参りをした。


厳かな雰囲気の中、お参りをしているとふと耳にチリンという鈴の音が聞こえた気がした。

ほんのかすかな音で、本当になったのか定かではないから、気のせいだと僕はすぐにそのことを忘れ、おみくじを引いた。


小吉だった。

結果は良くも悪くもない感じだった。

ただ、待ち人は来ると書かれていたので、もしかしたら写真を撮っている人物に会えるのではないかと期待が高まった。


お参りも、神社の散策も終えた後、そろそろいい時間になったので宿に戻ろうということになった。

そして神社の鳥居を抜けたとき、町の様子が変わった。


まわりがオレンジ一色だけの世界に変わったのだ。

あの写真のように。


僕は驚き周りを見渡した。

すると、隣にいたはずの両親がおらず、神社の中を見て回っても、先ほどまでいた参拝者や巫女さんたちはどこにもいなかった。

僕は怖くなり、急いで神社を飛び出し、町の中を駆け回った。


誰でもいい、誰かに会いたい。


急に一人になった恐怖から、僕は息が切れても走り続けた。


どれくらい走っただろう。

5分とも10分ともわからないくらい走った。

その時、目の前に一人の少女がキョロキョロとあたりを見渡しながら歩いていた。


僕はやっと人に会えたことに喜び、疲れている体に鞭を打って少女に駆け寄った。


「あ、あのっ!すみません!」


声をかけられたことに驚いたのか、少女が肩をはねながら振り返った。


「え、何でここに人がいるの?」


何かしゃべったようだったが、声が小さく息が切れていた僕はよく聞き取れなかった。


「すみません、あの、どうして誰もいないのかわかるなら教えてください!」


早口で不安になっていることを聞くと、少女は冷静な様子で質問を返してきた。


「あなたこそ何でここにいるの?ここにいるってことは、あなたも私と同じ色盲なの?」


質問に答えてもらえず、逆に聞き返されたことに苛立ちを覚えながらも、僕は息を落ち着けながらその質問に答えた。


「僕はここから近くにある神社にお参りをして、それから神社の外に出た瞬間この色が一色の世界にいたんだ。誰もいなくて怖くなっていたところで君を見つけたから話しかけたんだ。僕に色盲なのか聞くってことは、君もそうなの?」


少女にもう一度訪ねると、少女はぶっきらぼうに答えた。


「そうよ。でも、そんなことはどうでもいいの、さっさとここから出て行ってくれる?」


突然の言葉に僕は驚き、言い返した。


「さっきも言っただろ!僕は気づいたらこの世界にいたんだ。出ていけるなら出ていきたいよ!」


僕の言葉を聞いた少女は、黙って考え込んでいるようだった。

しばらくして、少女は口を開いた。


「…わかった。じゃあ、ついてきて。ただし、私のすることに何も言わないこと、それが条件。」

「わかった。何も言わない。そう言ってくれるってことは、ここから出してくれるんだろう?」

「そう。だから約束は守ってね。」


僕は彼女との約束を守るとすぐに返事をした。


それから、僕は何かを探す彼女のあとをついていった。

しばらく無言で歩いていたが、気まずくなった僕は彼女に話しかけた。


「ねえ、君の名前はなんていうの?僕は木村 達也。」

「名前なんて聞いてどうするの?ここから出たら会うことはないのに、名前を教える必要なんてないでしょ。」

「そうかもしれないけど…」


話はそこで途切れてしまった。

僕は彼女の言い分に何も言い返せなかった。

確かに、この状況から抜け出せたなら、彼女と会うこともないだろう。

でも、僕は彼女があの写真の投稿者だと思うと、何とかして仲良くなりたいと思っていた。


しばらく無言で歩いていると、今までの街の中でもひと際きれいなオレンジ色の場所にたどり着いた。

その場所にある交差点の真ん中に、町の色と同じ球体が浮いていた。


不思議な光景に言葉を失っていると、彼女はスマホを取り出し球体が入らないように写真を撮った。

やっぱり彼女があの写真の投稿者だったんだ!

そう思った僕は、彼女に話しかけた。


「ねえ、やっぱり君があの一色の色の写真を投稿していた人なんでしょ?僕、君の写真にひかれてこの町に旅行に来たんだ。」

「…私のすることに、何も言わない約束でしょ。」

「あっ…。」


僕は約束のことをすっかり忘れ、尋ねてしまった。

しまった。と僕は思った。

彼女との約束を守って、この世界から出たらまた会えるように何とか約束できないか話そうと思っていたのに…。


彼女は黙った僕を見て、約束をたがえないように口を閉ざしたと思ったのか球体のほうへ歩き出した。

そして彼女は突然、その球体をつかんだのだ。

驚いた僕は、また約束を破って彼女に話しかけた。


「何やってるの!?」


次の瞬間、眩いばかりの色の光があふれ、気が付いたら元のモノクロの世界に戻ってきていた。


「これで、元の世界へ戻ったから、ここでお別れね。それじゃ。」


そう言って立ち去ろうとした彼女に、僕は慌てて声をかけた。


「ま、まって!さっきの世界について何か知ってるなら教えてほしい。それに、君があの一色の世界の写真を投稿しているんだろ?何か知ってるはずだよね。」


彼女はその場で立ち止まり、こちらを振り返った。


「悪いけど、さっきも言った通り、約束を守ってよね。私のすることには何も言わない約束でしょ?それにこたえる義務はないわ。それじゃあ今度こそ、さよなら。」


そう言って彼女は立ち去って行った。

僕はその場からしばらく動くことができなかった。

それだけの衝撃が、ほんの短い時間だったがあったのだ。


「そうだ!早く神社に戻らなきゃ!」


我に返った僕は、あわててスマホで時間を見た。

あんなに走り回ったのだ、体操時間がたっていると思いスマホを見ると、時間は全く経っていなかった。

まるで、あの場所にいた間だけ時間が止まっているようだった。


僕は急いで神社に戻ると、両親が心配した様子で僕に駆け寄ってきた。


「達也!いったいどこに行っていたの!?急にいなくなったから心配したじゃない!」

「何も言わずにいなくなるなんて年じゃないのに、いったい何をしていたんだ。」

「ご、ごめんなさい。ちょっと前写真で見た気になる場所が近くにあったから、見に行きたくなって…。」


僕は、苦し紛れの言い訳をした。


「私たち2人で話し込んでいて悪かったと思うけど、だからと言って声をかけずにいなくなるのはやめてね?」

「そうだぞ、心配したんだから、今度からはしないように。」

「うん。わかった。」


どうやら、2人は話し込んでいたということになっていた。

僕があの世界に入る前は、宿に戻ろうかと3人で話していたのに…。


辻褄が合うようになっていたことに、恐怖を感じながら、僕は家族と宿へ戻った。


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