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好きな人に逢いたい  作者: 谷兼天慈
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第9話

「こんばんは、ゲクトのフラフラしてんじゃね~オマエラ、始まりだよ。みんな元気してた?」

 傍でBGM代わりに流していたラヂヲからゲクトの声が流れた。

 それをぼーっとして聞くわたし。

 やっぱいいよなー彼の声は。

 こういうのを癒し系っていうのかも───なんて、どーでもいいことを考える。

「今夜も悩み多き女の子と電話が繋がってます。この子も僕のファンの子でね。いつもメールくれるんだ。こんばんは、えっと…名前はどうしようか?」

「あの…あたし…えっと…」

 わたしはギョッとした。

 この声───

「いいよ、本名じゃなくても」

「えっと、じゃあミンミンで」

「ミンミンちゃんね。わかったよ。今夜の相談事は……えっと、メールに書いてあったんだけど、彼氏がミンミンちゃんの友達とエッチしちゃったんだ?」

「は、はい…」

 やっぱり───亜矢だよ、これ。

 ミンミンだって?

 やーだ、亜矢ってば、ゲクトに相談事なんかするもんじゃないのに。って、過去に相談事したわたしが言うことじゃないんだけど。

 でもさ、だってさ、ゲクトって優しいアドバイスなんてしないので有名だし。

 きっと、「許せないのなら別れれば?」とか、身も蓋もないことしか言わないと思うし。

「それで、ミンミンちゃんは彼氏のこと許せないの?」

「はい、許せないです」

「そっか、じゃあ別れるしかないよね」

「でっ、でもっ!」

「好きなんだね?」

「は…い…」

「でも許せない」

「はい…」

 ほーらやっぱり。

 でも、何となく亜矢がかわいそうだなと思った。

 別に亜矢が悪いわけじゃないし、むしろ悪いのはわたしだと思うし。

 それに、いくらわたしと考えが違ってたとしても、亜矢の考えが間違ってるわけじゃない。

 亜矢は亜矢で、自分の信念の元で行動してるわけだし。

 今の時代に合わないとしても、結婚する人以外とはエッチしないっていうのも決して悪い考えじゃないものね。

 ただ、それを相手もちゃんと受け入れてくれればの話なんだけど。

 そういう相手ってなかなかいないよねえ。

 あの優しい真人でさえも、尊重してくれるところまではいっても、やっぱり浮気してしまったりしちゃうんだし。

(なかなか、うまくいかないよね…)

 わたしはラヂヲに顔を近づけて、ゲクトの声を聞きながら物思いにふけっていた。

「ちょっと聞きたいんだけどね、ミンミンちゃん」

「はい」

「どうして彼氏が友達とエッチしちゃったってわかったの? 普通だったら彼氏もそういうことは隠したりするじゃない。友達だってきっと君に隠すと思うし」

「ええと、彼が告白してきたんです」

「友達とエッチしたよって自分から言ってきたんだ?」

「は…い」

「ふ~ん」

 わたしは何だかちょっぴり罪悪感を感じながら聞いていた。

 でも、ほんのちょっとだよ?

 だって、やっぱり、こんなことをゲクトに相談する亜矢を馬鹿だと思うし、わたしが誘ったとはいえ、それに応じたのは真人だし───と、まあ自分に都合いいようなことをわたしは考えてたわけだ。

「ねえ、ミンミンちゃん。なんで彼氏は君に白状したと思う?」

「え?」

「僕は君の彼氏じゃないから、彼の本当の気持ちはわからないんだけど、そうだな、男として浮気しちゃった場合、僕としては二つの選択肢があると思うんだ」

「二つ、ですか?」

「そう。二つだよ。一つは今回ミンミンちゃんの彼氏がやったように正直に白状しちゃうこと。もうひとつは徹底的に秘密にして隠すこと。まあ、当たり前の選択肢なんだけどね。他にどういうのがあるのか教えてほしいくらいだけど」

 ゲクトはそう言うとハハハと笑った。

 う~ん、笑い方も素敵だぞ、とヘンなとこに反応するわたしだった。

「で、参考になるかどうかわからないけれど、僕の気持ちを教えてあげるね。僕だったら白状しないよ。そうだな。僕だったら失いたくない女の子に対して隠すべきことはキッチリ隠すね。絶対に真実は話さないよ。というかね、浮気の状況にもよるけれどね。ちょっとふらふら~って感じでいいなあって思った子とエッチしちゃった場合だったら、余計に黙ってると思うよ」

「黙ってる、ですか?」

「うん、そう、黙ってる。男ってさあ、馬鹿だから、ガマンできないときもあるわけよ。それをまあ彼女に慰めてもらうわけなんだけど」

「あたし、あたしが、悪いんです」

「ミンミンちゃん?」

 亜矢が突然泣き出した。

 ゲクトの慌てた声がラヂヲから流れる。

「どうしたの? 誰も君を悪いなんて言ってないじゃない」

「違うんです、みんなあたしが悪いんです」

 そうして、亜矢は結婚するまでは───の話をゲクトにしたのだった。

 泣きながらだったので、途切れ途切れだったけれど、というか、放送時間大丈夫かしらんと思ったわたしってば、やっぱ冷たい?

「ああ、そうなんだ、そっか」

 すべて聞き終わってからゲクトは言った。

「う…ん、それは確かに彼氏にとっては辛いよなあ。そうだね、ミンミンちゃんの気持ちもわかるよ。けどね、ちょっとキツイかもしれないけれど、そうだとしたら彼氏の浮気を責めちゃだめだよ」

「でも…」

「うん、責めたい気持ちはわかるけどね。でもね、こう考えられないかな。ミンミンちゃんが結婚までエッチはしないっていうのは間違っちゃいないよ。それはミンミンちゃんの決めたことなんだからね。でもね、それを他人にまで押し付けるのはよくないよ」

「押し付けてないです」

「いや、押し付けてるよ。君がそう思わないだけで、他人は押し付けられてると感じるものなんだ。現に彼氏には押し付けてたわけだし」

「…………」

「あのね、僕の場合はね、好きな女の子は抱きたいと思うよ。それが普通の男の子だと僕は思ってる。もちろん、好きだから抱かない、大切にしたいっていう男の子もいるだろうし、それが悪いわけじゃないけど、僕はそういうのは嫌いなんだ。僕は好きだと思ったら抱く。で、ミンミンちゃんの彼氏もそういう男の子なんだよ」

「あたしを抱きたいって?」

「そう。とても抱きたいと思ってたんじゃないかなあ。そんなときに、近くに抱けるような相手がいたら、ついフラフラ~ってなっちゃうのは、もう仕方ないと思うよ」

「やっぱりあたしが悪いんだ」

「ああ、違うよ。そうじゃなくて。ええとね、そうだな。許すのも許さないのも君の自由なんだけど、けどね、考えてごらん。君は浮気されても彼のことが好きなわけだよね。だったら、考え方を変えるしかないと思うんだ」

「彼とエッチするんですか?」

「そうじゃなくて、結婚するまではエッチしないというのを曲げたくないならそれでいいんだよ。けれど、そうであったなら、彼氏が他の誰かとエッチするのは許してあげなくちゃだめだよ」

「えーそんなー」

「それはしかたないよ。君とエッチできないんだから、他の子とするしかないでしょ」

「…………」

「それも嫌だというなら、もう君の取る行動は一つしかないよね」

 出るぞ。

 いつものやつが。

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