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好きな人に逢いたい  作者: 谷兼天慈
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第3話

「さあ、思い切り話してごらん」

「えっとぉ」

「遠慮はいらないよ。何でも聞いてあげるから」

「…………」

(そう言われてもねえ)

 わたしは目の前に座って、真面目な顔している真人に戸惑いの目を向けた。

 だってさー、これはあんまりにも変だよ。

 これって絶対変!

 だって、わたしたちってば、ラブホのベッドの上で向かい合って正座してるんだよ?

 まあ、誰か見てるってわけじゃないから別にいいんだけど、でも、これを変だと思わずになんとしよう───ってな感じなのよ、今のわたしの気持ちは。

「…………」

 わたしは上目使いになって恨めしげに真人を見つめた。

 別によかったのにさ。

 わたしはこのまま真人に押し倒されて、そのままエッチしちゃってもよかったのにって。

(あちゃ。なんというか、全然この人ってその気じゃないみたい。なんか女として傷付いちゃうなあ)

 なんていうバカなことまで考えてしまったわたしだった。

 つまりだ、こういうことなのね。

 彼は、わたしが何か悩みを抱えてると思ったと。

 それで、自分にその悩みを打ち明けたいと、そう思っているらしいのよね。

(まったく、なんて生真面目というかなんと言うか)

 わたしは心で苦笑してた。

 まあ、そこがいいんだけどね、この人って、とは思ったけど。

 それにしても、実際に自分は経験したことないけど、会社の女の先輩なんかは、好きだって知られたとたん、あっというまにエッチまで持ってかれちゃって、それでポイってされちゃったという人もいたんだけどね。

 まあ、そんなひどいケースばかりじゃないだろうけど。

 そんな感じでエッチしちゃっても、意外と二人とも意気投合しちゃってそのまま付き合っちゃうってことだってないとも言えないし。

 亜矢と真人がその典型か───

(やっぱダメなのかなあ)

 わたしは心でため息をつくしかなかった。

 わたしの気持ち聞いても、即エッチじゃなくて、あたしの悩みを全面的に聞いてあげようと思うだけなんて、ほんとこの人っていい人過ぎだよ。

 なんか、いい人過ぎてちょっとイラつくかも。それは言い過ぎか。

 わたし、そんなにいい子じゃないのにな。

 別にいいのに、遊びで寝たって。

 そりゃ、そのまま付き合えたらいいなあって思うけれど、この人ってそんなことしそうな感じじゃないし。

 そうじゃなきゃ、今こんなとこでこんなバカなことしてないよね。

「じゃあ」

 わたしは実際にため息をつくと、話し始めた。

 日頃のウップン、いろんなことについてのわたしの正直な気持ちや想いっていうのを、ここぞとばかりにぶちまけようと思った。

 不思議だ。

 わたしは今まで絶対そんなことしたことなかったし、しようとも思わなかったのに。

 なんでか真人にだけは「話したい」と思ったんだ。

 たぶん、それこそが真人の魅力っていうか、真人の真価なんだろうなって思った。

 どんな人の本音をも聞きだす能力のある人ってことで。


「でね、そのとき思ったんだ、だってさ、あんまりじゃない、そんなこと言うなんてさー、もうあったまきちゃって」

 わたしはあれから一時間くらいぶっ続けでわめき続けていた。

 自分でもかなり興奮してたなと思う。

 普通、好きな人相手にこんなこと言うか? ってことまでまくし立てて。

 でも、ほんとにすっきりするんだよね、これが。

 わたし、やみつきになるかもって思った。

 けど、わたしが今喋ってることは、名前こそ言わないでいたけれど、実は亜矢に対する不満がほとんどだった。

 で、ちょっと気持ちが高ぶり過ぎちゃったみたいなんだ。

「あぁぁぁぁーなんか思い出したら、も~涙出てきちゃうよぉぉぉぉ!」

「貴世子さ……」

 わたしはさめざめ泣き出した。

 確かにさ、亜矢は好きだよ。

 正直に何でも言ってくれるから、だからそれで安心できるって。

 けどね、それと同時に、その正直過ぎるところで深く傷付くこともあるんだよね。

 それはちょっとやめたほーがいいよーとか、自分はあんまり好きじゃないからあんたもやめときなよとか、ことあるごとにわたしに注文つけてくるとき。

 そんなときには無性に亜矢が憎たらしくなる。

 いいじゃん、勝手じゃん、わたしはわたしのやりたいよーにするよ、なんでそんなことまで口出すのさって───亜矢のようにそう言えたらなーっていつも思う。

 でね、それ以上に傷付いたのが、ある人の言った言葉なんだけど。

「自分の気持ちは言ったほうがいいって?」

「うん、そーなの。そう言われたんだよね。嫌われてもいいからちゃんと言うべきだって。それで嫌われたとしても伝えなくちゃダメだよって」

「ふーん。まあ確かにそれはそうだよね」

「真人さんもそう思うんだ?」

「いや、うん、そうだね。それは正論だと思うよ。ただ、それを言い切れる人というのは、かなり自分自身に自信がないと言えないことだよね。僕はやっぱり言えないことは言わないほうだね。僕は臆病なんだ」

「え? 真人さんも?」

 驚いた。

 あ、でも、うん、それはそうかもしれないなとわたしも思った。

 真人の持つ雰囲気って、確かにそんな感じ。

 いつも誰に対しても優しい態度でいて、黙ったまま静かに他人の言うことを聞いてる人。

「だけど、僕も彼のことは好きだよ」

「ゲクトが?」

「うん、自分とは正反対の人間だからね。だから惹かれるんだと思う」

「ああ。そっか」

 そうか───そうなんだ、真人もそうなんだ。

 亜矢に惹かれたのはそれでなんだ。

 そういえば、亜矢とゲクトって似てるかもしれない。

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