表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きな人に逢いたい  作者: 谷兼天慈
12/13

第12話

 ゲクトのライブは最高───と、聞いてた。

 わたしはまだ行ったことなくて、ゲクト繋がりの知り合いに聞いた話だったんだけどね。

 で、やっぱりすごいなと思った。

 こんなわたしでも、シャウトしたり、飛び上がって踊ったり、とにかくゲクトの軽快な歌に合わせて身体が反応して動いちゃう。

 周りを見渡すと、みんなそうだった。

 すると───

 突然、辺りが暗くなった。

 さっきまで、ゲクトの激しいまでの歌が耳を打ち、ひととき陶酔していたんだけど。

 あ、これは、もしかしたらバラードでも歌うのかしらと思った。

 そんな雰囲気が流れていた。

 わたしはゲクトのバラードが大好きだもの。

 何にも熱くなれるものがないわたしだったけど、それでも彼のバラードを聞くと、こうなんていうか心が熱くなってくるのを感じる。

 ヘンだよね。

 歌自体は熱くなれるようなものじゃなくて、静かで落ち着いてて癒されるって感じなのに。

 パッとステージにスポットライトが当たった。

 そこにはゲクトが一人ポツンと椅子に座ってギターを抱えていた。

 やっぱり。

 やっぱりバラードなんだ。

 どれ歌うんだろう。

───ポロロロン……

 ギターの音色が静かに流れる。

 聞いたことのないメロディだった。

 じゃあ新曲だ。

「この曲はね、さっき突然できた曲なんだ」

 ゲクトがギターを爪弾きながら静かに言った。

 会場はシーンとしてて、誰も咳一つしなかった。

「聴いてください。『好きな人に逢いたい』です」


休日の部屋で気だるく孤独感じてるわ

鳴らない電話を待ち続け

けれど誰もしてくれるわけじゃなく

愛する人も友達さえも

私の傍には誰もいない


熱くなれない

夢中になれない

何もかもどうでもいい

冷めた目で世界を見つめ


嘆くでもなし

泣くでもなし

私は無気力

私は怠惰

そんな毎日の繰り返し


鳴らない電話を待ち続け


けれど

何を待っているのかわからない

誰かわかってくれるかしら

こんな私の気持ちを

誰かわかってほしい

こんな私の気持ちを


鳴らない電話を待ち続け

愛について考えたわ


どうして好きになるの?

どうしてキスしたいの?

どうして一緒に眠りたいの?

どうして二人は抱き合うの?


わからない

わからないけれど


苦しいくらいの情熱を

切ないくらいの愛しさを

感じたいわ

とても強く感じたい

今見つめてるこの世界が

生まれ変わるくらいの

そんな好きな人に出逢いたい


好きで好きでたまらなくて

誰かにそれを聞いてほしくて

熱く熱く語りたい


私はきっと幸せになるわ

そんな自分になればきっと


眩しいほどの情熱と

貫くほどの愛しさと

夢中になって楽しんで

何時の間にか時間が過ぎ去ってる

そんな時間を過ごしたい


いつか逢えるわ好きな人に

きっと逢えるわ愛しい人に


私の好きな人に


 静かに静かに彼は歌い終わった。

 ギターの最後の音がすーっと消えるまで、誰も拍手しようともせず、じっと聞き入っているようだった。

 わたしは───

「貴世子、どしたん?」

「…………」

 わたしの隣にいた亜矢が心配そうに声をかけてきた。

 そのさらに隣にいた真人の視線も感じる。

「ううん、なんでもない、なんでもないよ」

「けど…」

 心配しないで。

 わたしだけじゃないじゃん。

 ほら、周り見てみなよ。

 みんな女の子たち泣いてるよ。

 ゲクトの歌で泣いてるよ。

 そうだよ。

 わたしも泣いてるよ。

 だって───

 だって───


いつか逢えるわ好きな人に

きっと逢えるわ愛しい人に


 なんで?

 なんでわたしの気持ちがわかるの?

 もお、泣くしかないじゃない。



苦しいくらいの情熱を

切ないくらいの愛しさを

感じたいわ


眩しいほどの情熱と

貫くほどの愛しさと

夢中になって楽しんで


 そうだよ。

 わたしの望みはそれだ。

 そうなりたいよ。

 冷たいわたし。

 熱くなれないわたし。

 それもわたしだ。

 だから無理に変わる必要なんてない。

 けど───

「変わりたいと思ったなら変われるよ」

「!」

 わたしはびっくりした。

 思わずステージのゲクトに目を向ける。

「この歌を変わりたいと思ってる人に捧げるよ。大切な君たちにね」

 わたしはさらに泣き出した。

 あとからあとから涙が溢れてきて、わたしはもうそれを止めることができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ