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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

風魔法しか使えない魔法使いはいらないと追放された少年〜実は高度な魔法を使って支援していました。「今更戻ってこい」と言われても遅い! 俺は自由に冒険者活動をするからお断りします!

作者: 影崎 統夜

 強い雨が降る日の夜。宿屋の前で剣や盾を持った男女3人が1人の少年を睨んでいた。


「ツキト、お前は必要ない」

「は?」


 ある冒険者パーティの一員で魔法使いのツキトは、リーダーであるトレンにそう言われた。


「言葉の通りだ。魔法使いなのに風属性しか使えないお前は役立たずだと言っているんだ!」

「それに魔力もそこまで高くないから使えない」

「コストの無駄よね」

 

 トレンの言葉に同じパーティの2人もうなずき、ツキトを見下していた。


「さてと、これで話は終わりだ」

「ま、待ってくれ!」

「雑魚のお前は必要ないんだよ!」


 前衛の戦士に突き飛ばされて地面に転がった少年、ツキト・クロウエスは倒れたまま拳を握りしめた。


(俺の得意な分野で成り上がってアイツらを見返してやる)


 ツキトは硬い意志を持って立ち上がった。


 ーー〈1ヶ月後〉


 冒険者とは何でも屋であり、基本的にどんな仕事でも依頼として請け負う。その中の冒険者の1人、ツキトは今日も街の外の草原で魔物退治に勤しんでいた。


 彼は今日も弱っちい雑魚魔物であるグリーンキャタピラー。その雑魚に向かって、ツキトは杖を構えた。しかし、魔力の半分以上を消費しているため額からは汗が流れていた。


「ウインドカッター!」

『ギャピ⁉︎』


 杖の先に緑色の魔法陣が現出。中から刃が飛び出しグリーンキャタピラーを切り裂く。


「ふう、雑魚を倒すだけでも一苦労だな」


 ツキトは腰から短剣を引き抜き、グリーンキャタピラーの体の解体を始める。理由は換金できる部位を剥ぎ取るためである。


(雑魚狩りで食いつなぐのは嫌だな)


 本人は自分の実力の無さに唇を噛み締めた。ただ、その思いは無常に空をきった。


(ただ、風属性しか使えない俺は魔法使いでは底辺だ。その中で強くなるのは難しい)


 基本的に魔法使いは火、水、土、風、無の中から2属性を使用でき、種類の豊富さでら戦い方を切り替えるのがセオリー。

 でも、ツキト自身は風属性しか使えないので底辺魔法使いと冒険者達から言われていた。


「……ん? あれはなんだ」


 今いる草原から近い、木が生い茂って薄暗い森の入り口。その中で悲鳴が耳に入り、その声を聞いたツキトは逃げる準備を始めた。


(死にたくない!)


 そして、準備してその場を離れようとしたツキトだが……。


「た、助けてください!」

「無理だ!」


 助けの声に無理と答えた時には、すでに巻き込まれていた。


(待て待て!?)


 逃げてきた人物は金髪ツインテールの少女でボロボロの姿で走っていた。ただ、その後ろでは鋭い牙と爪を持つ魔物がヨダレを垂らしていた。


「ちょっ、コッチにくるな!」

「そ、そんなことを言わないでください!」


 少女は半泣きになりながら言葉を発するが、ツキトは必死に逃走を図る。


(無理無理!? 相手はEランクの野犬だぞ!)


 さっき倒したグリーンキャタピラーはFランクの魔物で、ツキト自身がギリギリ倒せる相手。

 その為、一つランクが上のEランクの魔物には勝てないツキトは一目散に逃げ始める。しかし、体力がないのですぐにへばり少女と野犬に追いつかれた。


「あ、あの、私一人では無理なので助けてください!」

「おまっ」

「え? きゃぁぁ!?」


 少女のお尻に野犬が噛みついたので、放置して逃げようとするツキト。しかし、目の前にはグリーンキャタピラーいて逃げられない。


「……マジか」


 絶望を目の前にしたツキトはビビりながら自分の杖を腰から引き抜く。


「こうなったらやってやる」

「そ、その前に私を助けて!」


 お尻を噛まれている少女に振り向いて一言。


「頑張れ」

「ちょ、痛い痛い!?」

「俺は逃げ……グホッ!」


 グリーンキャタピラーの突進をくらい、吹き飛ばされたツキトは地面に転がった。


(グリーンキャタピラーは、動きが遅いから俺でも倒せるのに!)


 鈍い痛みに耐えながらなんとか立ち上がるツキトは杖を構える。そして、魔法を唱え空に魔法陣を出現させて。


「ウインドカッター」


 空に書いた魔法陣から風の刃が飛び出し、緑色の芋虫はぐちゃぐちゃに切り裂かれた。

 

「あの! その魔法をコッチにもお願いします」

「あー、無理だ!」

「え? なんでですか!?」

「俺は魔力が高くないから温存しておきたい」


 ツキトの魔力は一般の魔法使いよりも少し低いため、温存するために拒否をした。ただ、少女は四つん這いになりながら言葉を発する。


「わ、わかりました! それなら助けてくれたらお礼をします」

(お礼? いやいや、命と釣り合うお礼はあるか?)


 汗だくになっている少女を放置する。そして、一つの答えに辿り着く。


(コイツは腰に剣を刺しているから前衛なのは間違いない。そうなると……いけるぞ!)


 ツキトはニャッと笑い。杖を野犬の方に向けて魔法を放つ。


「ウインドボール」

『ギャン!?』

「きゃあ!」


 少女に噛み付いていた野犬に風の球体が命中。敵を離れさせることに成功した。


「約束通り助けたぞ」

 

 ドヤ顔になっているツキトに半泣きの少女が叫んだ。


「助けるならもっと早く助けてください!」

「おい、助けてもらってその言い方はないだろ」


 贅沢な言葉に思わずツッコミを入れるツキト。ただ、2人はあることを忘れていた。


『グルル』

「「あっ……」」


 野犬が唸りながら2人を見ていた。なので、お尻を抑えながら立ち上がった少女と体力を使ったツキトは顔を見合わせる。


「このまま逃してはくれないよな」

「はい、こうなったら戦うしかないですよ」


 ツキトはため息を吐き。少女は腰の剣を引き抜き戦闘態勢に入る。そして、野犬が牙を剥ぎ出しにして攻撃をしてきた。


 少女は果敢に剣で野犬を攻撃する。しかし、相手は軽快なステップで回避して爪で反撃してくる。その中で、ツキトはどうするかで考えていた。


(あんなに動かれると魔法が当てにくい。それと前衛がどれだけ持つかわからないな)


 勝ち目が薄い戦いことが分かっているツキトは、最低限の働きを始めた。


「ウインドエンチャント」 


 少女が緑色の光をまとい動きが鋭くなった。ウインドエンチャントは身体力を上げる魔法だ。


「くっ、強いですね!」

「Eランク魔物だから当たり前だろ!」


 ツキトはウインドボールを連続で放ち、野犬の動きを制限するように攻撃する。

 しかし、少女の斬撃が全く当たってない。そのため、ただ魔力を消耗するだけのツキト。


「あとさ、なんで攻撃が当たってないんだよ!」

「そんなの決まってます。攻撃が下手だからです!」

「自身で言うな!!」

「いえ、貴方のことを言いました!」

「それブーメラン発言なのを知っているか?」


 2人はボケとツッコミを繰り返しつつ、野犬との戦闘を続けた。


 ツキトの魔力はかなり消耗して少女はボロボロ。野犬の方はまだまだ余裕。この状況では後者の方が有利なのがわかる。

 ただ、ツキト達は諦めていなかった。


(こんなところで夢を諦めてたまるか!)


 そう思ったツキトはある作戦に出る。


「おい少女。少しだけ動きを止めるからその時にフルパワーで攻撃をしてくれ!」

「ハァハァ、わかりました!」


 少女はボロボロの体に鞭を打ち剣に光を灯し、ツキト本人も覚悟を決める。


「ウインドチェーン!」


 ツキトの前に魔法陣を書き。中から緑色の鎖が出てき攻撃をしかけようとしていた野犬に絡まる。

 そしてチェーンに絡まって動けなくなった野犬を見た少女は、高速で接近する。


「ソニックスライド!」


 ソニックスライドは高速で接近して横薙ぎに剣を振るう武術で、動けない相手にクリーンヒットした。

 

『ギャンン!?』


 顔から真っ二つになった野犬を見たツキトはへたり込む。


(ハァァ、しんどい! というか、なんで野犬と戦う目にあうんだよ!!)


 心の中でツッコミを入れるツキトに、向かって少女が飛び込んできた。


「た、助かりました!」

「ゴブッ!?」


 半泣きの少女に泣きつかれているモブ顔の少年。一見、羨ましい光景だと思うが実際は違う。


(革鎧がザラザラして微妙に硬い!)


 名前も聞いていないのに抱きつかれる光景は、ツッコミどころしかないと思ったツキトだった。


 2人が落ち着き、野犬とグリーンキャタピラーの素材を剥ぎ取りながら会話を始めた。


「あの、お名前はなんというのですか?」

「名前を聞く時は自分からと教わらなかったのか?」

「あー、そうですね」


 少女がニコニコしながら頷いているので、多少イラつくツキトだった。ただ、そのことを知らない少女は改めて口を開く。


「私の名前はアルミア・ハンドクラップです!」

(なんがバカそうだな)


 ツキトは内心で笑いながら話を変える。

 

「よし、素材回収が終わったから帰る!」

「えぇ!? 貴方の名前は?」

「……チッ、ツキト・クロウエスだ」

「ツキトさんですか。って、その舌打ちはなんですか?」

「お前、あの光景を見て驚かないか?」

「はい?」

(何とか誤魔化せたか)


 ツキトは内心で焦りながら森の方を指さす。


「消耗している俺達がここにいるのは危なくないか?」

「あ、確かに」


 野犬に襲われたアルミアは納得したように頷く。


(コイツ、チョロいな)


 ツキトは心の中で笑いながら人生の進み方を考え始めた。

ただ、このアルミアとの出会いがツキトの人生を変えるとはこの時、本人も思ってなかった。


 

 ツキト達は街に戻って、素材を換金できる冒険者組合の中に入った。

 すると、受付で騒いでいる冒険者がいた。


「た、助けてくれ! 魔物ランクBのトロールに仲間が襲っているんだ!!」

「は? 何を言っているんだお前?」

(ん、なんかあったのか?)


 ツキトは騒いでいる冒険者を無視して、隣の受付に立ち換金する素材を出した。


「すみません。換金をお願いします」

「はい、わかりました」


 受付の職員はツキトが出した素材を受け取り、状態の確認を始めた。


(さてと、今日は豪華に食べようかな)


 ツキトは豪華な夜ご飯の内容を考えていた。ただこの時、彼はあることを忘れていた。


「お兄さん! そのトロールのことを聞かせてください」

「え? 君、話を聞いてくれるのか?」

「もちろん!」

(話がまとまって、ん? どっかで聞いた声だよな)


 聞いた事のある声で横を見ていると、アルミアが騒いていた冒険者と話していた。


(おいぃ!? 何をやっているだ!)


 心の中で思わず突っ込んだツキトが振り向くと、隣にいた冒険者と顔が合う。


「トレン……」

「つ、ツキトか!」


 冒険者、ツキトを追放したパーティのリーダーであるトレンが半泣きになっていた。


 ーー


 あの後、素材の換金が終わったツキト達はロビーの椅子に座った。


「なんで、俺を追い出したお前の話を聞かないといけないんだ」

「そ、そんなことを言わないでくれ! 元は仲間だっただろ」

「俺を地面に叩きつけて心許ない言葉を吐いたのに、都合のいい時は仲間扱いか?」

「……その節はすまなかった」

「あのツキトさん。この金髪のお兄さんと知り合いなのですか?」

「あぁ。元パーティ仲間のトレンだ」

「えぇ!?」


 ツキトはトレンを睨みつけながら言葉を発する。


「あくまで()()。しかも、俺はパーティから追放されている」

「え? なんで追放されたのですか」

「それは本人から聞いてくれ」


 トレンは、ツキトの言葉に渋い顔をしながら喋る。


「ツキトは意外と慎重派で、勢い派であるオレ達のパーティ内では空いていた。それに魔法も風属性しか使えないから、この時点で邪魔だったんだよ」

「そんな理由でツキトさんを追い出したのですか!」

「あぁ、返す言葉もない」


 アルミアの発言に黙り始めたトレン。その中でツキトは現実を叩きつけた。


「パーティを無理矢理追い出した相手に助けてくれ、と言われても嫌に決まっている!」

「そうだよな……」

「それに相手は魔物ランクBのトロールとか普通に無理だ」

(ただ、奥の手を使えばいけるかもしれない)


 ツキトは、周りに知られていない自分の奥の手を思い出す。ただ、この手は使いたくないと感じて口を閉ざす。


「ツキトさん。この人の話を聞きましょうよ!」

「は? なんでコイツの話を聞かないといけないんだ」

「それは、私はトレンさんの辛い気持ちもわかるのでお願いします!」

「もしかして、聞いてくれるのか!?」

「はい! 仲間の大切さは私もわかります」

「いやいや!? なんで意気投合しているんだ!」

「ツキトさんはわからなくていいですよ」


 アルミアはトレンとガッチリ握手した。その光景を見たツキトは、心の中で疑問符を浮かべる。


(いきなり出会った奴を利益なしに助けるのか?)


 ただ、このまま流れを壊さず動くツキト。そして、トレンは2人に向かって細かい理由を話し始めた。


「実は、この街から少し離れた渓流にトロールがいたんだ」

「は……百歩ゆずってトロールはともかく、なんでそんなところにいるんだ?」

「それはオレも知らない。ただ、オレ達は調子に乗って攻撃を仕掛けて返り討ちにあった」

「そんなことがあったのですね」


 冷静にうなずいているアルミアを見て、頭痛がするツキトはある質問をする。


「そういえば、ガランとベールはどうしたんだ?」

「それは、オレを逃すために囮になった」

(ガランは前衛の戦士、ベールは斥候の盗賊。この2人が、トロール相手で生きて居る可能性は低いな)


 ツキトは分析をして最悪の結果を思い浮かべる。ただ、アルミアは椅子からたちがって言葉を発した。


「それなら、すぐに助けに助けに行きましょう!」

「だから! なんでそうなるんだよ!」

「……なら、ツキトさん。私とトレンさんだけで行くので、貴方はついてこなくていいです」

「あぁ、そうさせてもらう」


 ツキトも椅子から立ち上がってアルミアの隣を通る。その時にアルミアの小声が聞こえた。


「臆病者」

「……」


 ツキトはアルミアの言葉を無視して冒険者組合から出た。


 次の日。ツキトはスッキリしない気持ちで冒険者組合に到着した。


(アイツらはバカだろ)


 アルミア達をバカだと思ったツキトは、受付に向かって歩く。その時に、周りにいる冒険者の声が聞こえた。


「昨日のバカ達がトロールから逃げれるか賭けようぜ」

「なら、おれは逃げられないに賭ける」

「アタシも!」

「僕もです」

「おいおい、それじゃあ賭けにならないだろ」


 昨日のバカとトロールのキーワードで、ツキトはアルミア達を思い出す。


(なんでアイツらは……)


 仲間なんて、互いに利用価値があるから組むと考えたツキトだが。


(ここに来て、アイツらを見捨てたくない。そう思うのはなんでだ?)


 いつもは思わないことを思ったツキトは答えに辿り着く。


「あぁ、簡単だな。アイツらに借りを返してもらってない」

 

 斜め上に結論付けたツキト。そして、彼は笑いながら冒険者組合を出た。


 街の外に出て、街の近くの渓流に到着したツキトはある光景を見た。


「簡単に見つかったな」


 トロールの見た目は身長が二階建ての家くらいの大きさ。身体は脂肪に包まれていて巨漢。手には武器を持っておらず、拳で戦っていた。

 その光景を見たツキトは、戦っている顔見知りの冒険者達に声を張り上げた。


「大丈夫か?」

「つ、ツキト! なんでアンタがここに」

「そんなのは決まっている。お前らに借りを返してもらうためだ!」


 赤髪の少女、ベールに向かってイラつくように言葉を吐くツキト。


「このままお前らが死んだらザマァできないだろ」

「そんな理由できたのか!」

「当たり前だ!」


 折れた大剣で、トロールの攻撃をかろうじて防いでいる戦士のガラン。その余裕のない本人が思わず突っ込んだ。ただ、その言葉にツキトは笑う。


「さてと……逃げるぞ!」

「それが無理だから戦っているんだ!」

「そうですよ!」

「は?」


 ツキトはトレンとアルミアの言葉を聞いて固まる。


「え、マジか?」

「当たり前だ!」

 

 まさかのブーメランが返ってきた。そして、ツキトの頭は真っ白になった。


 ツキトがなんとか復活して言葉をブツブツ発し始めた。しかし、トレン達はすでにボロボロで援護なしではキツイ状況。


「も、もう持たない!」


 ガランがトロールの拳を受けて吹き飛び。隣にいたベールも裏拳を食らって地面に沈んだ。


「こ、こいつ」

「アルミア!」


 アルミアが剣を横薙ぎに振り払う。が、トロールの皮膚に弾かれた。そして、トロールの攻撃を受ける寸前にトレンが割って入って盾で受けた。ただ、その勢いで地面に転がった。


「このままでは!」


 なんとか直撃を避けたアルミアが剣を地面に刺して立ち上がる。でも、頭から血を流し満身創痍の状態。しかし、ツキトは何かをブツブツ言っていた。


「ツキトさん! 援護をください」

「風よ! 我が想いに応えろ!! 上級風魔法、ウインドシュレッダー!!」

「は?」


 ツキトの目の前には背丈ほどのある魔法陣が出現。ウインドカッターとは威力の次元が違う魔法で、大量の刃がトロールを襲った。


『グオオォ!!』

「「「「ええぇぇ!?!?」」」」

「ハァァ、しんどい」


 トロールが風の刃を受けて、粉々のミンチになった。その光景を見たアルミア達は、口を大きく開けて唖然としていた。


「魔力よほとんどを使い切ったな」

「いやいや!? なんだ今の魔法!」

「あー、アレは俺の奥の手」

「それで納得できないわ! それに最初から使いなさいよ!!」


 ベールはツキトの胸ぐらを掴んで前後に揺らし。揺らされた本人は気持ち悪くなっていた。


「奥の手を簡単に使うかよ! それよりも揺らすな!!」


 なんとか手を振り払ったツキト。彼は襟首を戻してなんとか立ち上がる。


「さて『ドシン』……え?」

「「「「は?」」」」


 少し遠くて地鳴りが聞こえたツキト達。彼らは音がした方に振り向くと少し離れた場所に一体のトロールがいた。


「……逃げるぞ!!」

「「「「はい!!」」」」 


 ツキトは倒したトロールの魔石だけを手にし、他の素材は無視した。そして、5人は急いで街に戻った。


 ーー


 あの後、ツキト達はトロールから逃げて街に戻ってきた。


「ハァハァ。なんとか逃げ切れた」

「そうですね……」


 街の中に入ったツキトは、かろうじて逃げ切れたことに安堵する。


「ねぇ、ツキト。なんでアタシ達を助けたのよ」

「おれ達はお前を追放したんだぞ!」

「そんなの決まっているだろ」

 

 ツキトは、ベールとガランの質問に対してニッコリ笑いながら答えを返した。

 

「お前らがボロボロになっている姿を見て、笑いたかったからだよ!」

「「「「コイツはクズだな」」」」


 アルミア達4人の言葉が被った。ただ、ツキトは笑ったままだった。


「クズで結構!」


 ツキトは心の中であることを思う。


(トロールの魔石は回収したから当分は余裕だな。後は、コイツらにザマァできたのは気持ちよかった!)


 最後までクズだったツキトは、心で笑いながら前に進み始めた。

 

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