表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/4

4話『銀髪少女』

「え、えーっと……Cクラスに入ってきましたノアです。よろしくお願いします」


 目の前には数十人の生徒たちが机に座っている。

 その全員が冷ややかな目線を俺に送っている。


 強引にアイラに連れていかれ、その日の授業に出席させられるという、常人には理解できないステップを飛び越え、俺はここにいる。


 俺が入ることになったクラスはFクラス。

 まあ、1番下のクラスだな。アイラの権力でも、流石にAクラスには入れられなかったらしい。


 そりゃあ、成績最底辺の男をAクラスに入れることほど困難なことは無いだろう。


 しかし、Fクラスといえど、彼らは血のにじむような努力をして、才能に満ち溢れているエリート達だ。


 何処の馬の骨とも知らない俺に、冷ややかな目線を送るのは当たり前だろう。


「ああ、君はあの席に座りたまえ」


 すると、教師が教室の隅っこを指さして言う。


「は、はい……」


 俺は申し訳ない気持ちで席に向かう。

 生徒たちの机の間を通り抜ける時に感じる冷ややかな目線は、最悪なものだった。


「アイツ……コネで途中入学したらしいぞ」

「ふざけんなよ……なんで無能を入れるんだよ」

「実技0点らしいぞ。あいつ……」

「は? ありえねー」


 陰口が俺の背中に刺さる。

 俺は平常心を忘れずに席に座った。


 正直、平常心は決壊しかけだった。


☆☆☆


「……コネで入学するなんて、貴方、恥ずかしくないの?」


 授業が終わり昼休みに入ると、横の席から唐突に鋭い言葉が聞こえてくる。


 驚いて横を向くと、そこには銀髪の少女が座っていた。

 俺の方を向いておらず、ただ真っ直ぐを見つめているが、俺に向けられた言葉だとすぐに分かった。


「う……(ダメージ999)」


 その言葉に俺は致命傷を負ってしまう。

 だって、事実だから。


「せいぜい、私の邪魔はしないでね。本当は試験でお腹が痛くさえならなければ、Aクラスでアイラ様と同じになれたのに……。こんな男と同じになるなんて。私も運が悪いわ」


 銀髪の少女は悲しげな表情をして言った。


「あ、アイラと同じ? アイラと知り合いなのか?」


 俺が何気なく銀髪の少女に質問すると、少女はムッと表情を険しくした。


「あのね……アイラ様の名前を口に出す時は『様』をつけなさい。いや違うわね。貴方のような存在はアイラ様の名前を口にすること自体が駄目ね。今すぐ自殺してきなさいよ、貴方」


 物凄い早口でとんでもないことを言う銀髪の少女。

 流石の俺も少しだけ引いてしまった。

 こんなにも熱狂的なファンがいるのかアイラには……。


「ノア。一緒に食べるわよ」


 すると、銀髪少女の後ろからアイラが顔をのぞかせる。アイラの手には弁当箱があった。


 もしかして、一緒に昼食を食べに来たのだろうか?


「あ、アイラ? ここは違うクラスだよな? 昼食なら食堂で……」


 俺がそう言うと、銀髪少女は勢いよく席を立つ。


「貴方! 何度言ったら分かるの!? アイラじゃなくて、アイラ様って──ふぇっっ!? あ、アイラ様ッッッ!?」


 銀髪少女は俺に怒鳴り声をあげている途中で、アイラが背後にいることに気づき、悲鳴をあげる。


 周りのFクラスの生徒たちもガヤガヤと騒がしくなる。


 彼らからしたら、憧れの的であり、完璧な理想像。

 未来の歴史の教科書に必ず載るであろう人物がそこにいるのだ。それも、自分の極めようとする分野の偉人だ。


 彼らにとって、そういう存在が近くにいると言うのは、とんでもない事なのだろう。


「ど、ど、ど、ど、ど、ど、どうしてFクラスにいらっしゃったのですか? 何か御用で……」


 銀髪少女も、さっきまでの堂々とした立ち振る舞いはとっくに消え去り、アワアワと慌てる可愛らしい少女になっていた。


「ノアと弁当を食べに来たの。貴女が気にすること?」


 アイラは弁当箱を控えめに見せて言った。


「の、ノアと言うのは……どんな方なんですか? もしかして、伝説の英雄とか、大国の王子様なのですか? しかし、このクラスにはそんな人はいませんよ?」


「ノアは貴女の後ろにいる彼よ」


「後ろ……?」


 銀髪少女は振り返って、後ろを確認する。

 銀髪少女の瞳に俺が入ってくる。

 俺がいる。そりゃあ、俺がいるだろう。


「……はは、私の後ろには誰もいませんよ?」


 銀髪少女は苦笑いをしながら言った。

 どうやら、俺の存在は彼女から抹消されてしまったらしい。


「いるじゃない。そこの彼よ」


 アイラがピッシャリと、俺を指さした。


「な、な、な、な、何の冗談ですか? この様なコネで入学した権力の腐敗の象徴であり、実力主義の学園において不要な存在である彼と、貴女のような世界に誇る人材が一緒に弁当を食べるなんて、有り得ません!! それならば、まだ私の方がマシですッ!!」


 銀髪少女は十八番である高速早口で、俺の罵倒を混じえつつ言った。


「貴女……言っていいことと悪いことがあるわ。彼は天下無双の世界最強の完璧超人の世界を救う英雄になる(予定)男よ。そんな彼が私と弁当を食べるのが悪いことなのかしら?」


 アイラはムッとした表情で言い放った。


 アイラの言葉に銀髪少女はハッと何かを思い出す。


「まままま、まさか……アイラ様が常におっしゃられていた……アイラ様が絶対に勝てず、世界で最強の存在というのは……」


 銀髪少女が俺の方を見ながら後退る。

 その表情はプルプルと震えており、ありえないものを見る目だった。


「そうよ。彼こそが……私の『原点』よ」 


 アイラがドヤ顔でそう言い放つ。

 それと同時に銀髪少女は腰を90度曲げる。


「──ずっと応援してました。貴方のファンです。サインください」


 銀髪少女の両手にはサイン用の色紙とマッキーが握られていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ