3話『すき』
次の日、俺は意を決して、アイラの元へ向かった。
この場合の『意』というのは昨日レナと話した結婚の件だ。
このチャンスを逃したら次はない。
ならば、俺はチャンスを逃すのか?
みすみす、目の前に転がっているチャンスを逃すのか?
嫌だ。俺はアイラと付き合いたいし、娘とか息子も見てみたい。
というか、アイラがお嫁さんだったら、それだけで幸せな想像ができる。無限に。
だから、俺は逃げない。今度こそッ!
俺はアイラに告白する!!
「なに? 私は魔術の研究で忙しいのだけど……(な、な、な、な、な、な、なんで? わたしが誘おうと思ってたのに、なんで私が誘われてるの!? ノアに誘われるなんて……)」
ツンとした表情で俺を見るアイラ。
俺はアイラを真剣な表情で見つめ返す。
「アイラ……伝えたいことがある」
俺は大きく息を吸い込み、そう言った。
「何かしら? つまらないことなら、直ぐに帰るわよ。(えええええっ!?!? 伝えたいこと!? き、き、き、緊張してきたわ……何かしら!?)」
アイラはフンっと向こうを向きながら言った。
その反応に少し俺は怖気付いた。
もしかしたら、告白は失敗するんじゃないか? と考えてしまった。
しかし、俺は逃げられなかった。
「アイラ……好きだ。付き合ってくれ」
一世一代の大告白。
俺は目を閉じ、頭を下げ、そう言った。
俺は高鳴る鼓動を感じながら、返答を待った。
「(隙だ……? どういうこと? ノアは何を伝えたいのかしら……私に『隙』なんて……。ま、まさか!? 私がノアを学園に推薦するための労した時間が”隙”!? そして、この場で私が推薦状を渡そうとしていることも”隙”!? そんな暇があったら、俺に勝てるように努力しろってことなのね!!)」
ガサガサっとアイラの方から音がする。
そして、アイラは「なるほど」と小さく呟いた。
「あの……アイラ?」
俺は何のことかと、顔を上げる。
「ふっ、全部お見通しってわけね。私が貴方を学園に推薦したことも、ここで渡そうとしてることも……」
すると、アイラは微笑みながら、俺に1枚の紙を渡してきた。
「……推薦状?」
その紙には『推薦状』と書かれており、王立第六学園に招待するとデカデカと記してあった。
血、地、知、値、ち、ちょっと待て。
……どういうこと?
俺は「好きだ」と告白した。
すると、学園の推薦状をアイラから渡された。
ちょっと理解不能。脈絡が崩壊している。
「貴方は今日から、私と同じ学園生よ。普通はできない途中入学になるけど、そこは私の権力を惜しみなく使ったから問題ないわ」
アイラはニッコリと笑って言った。
「貴方のような世界最強で無敵で完璧な存在を、遊ばせておく余裕はこの世界にはないの。貴方には表舞台に出て、世界を救う英雄になってもらうわ」
アレアレアレアレアレアレ??
勘違いされ続けて、勘違いされ続けて、ここまで来てしまった。
俺はアイラから『世界最強で無敵で完璧で、将来的に世界を救う英雄になれる』と思われているらしい。
はっきり言おう。
無理!
当たり前でしょ!! どうしろって言うの!? レベルは1!! 能力値は平均の5分の1! いや無理無理無理!!
王立学園も無理無理無理!! 数万人受けて受かるのは数百人。そんなエリートの集まりに飛び込むなんて無理無理無理!!
……あ、あれ? でも、アイラと同じ学園生なら、告白のチャンスは多くなるな。
それにアイラに真実を打ち明けることも、出来るかもしれない。
そう考えると……割とあり……?
あー! ちょっと考える時間がいるな。返事は保留して、どっちにするか、じっくりと悩もう。
「──あ、学園への出発は明日よ」
「へ?」
☆☆☆
「んあーーっ!! 今日も受かりませんでした! フ○ックッ!!」
数時間後の夜。またいつもの酒場でレナと酒を飲み交わしていた。
いつもの調子でストレスを発散するレナ。
しかし、俺はいつもと違い対照的に暗かった。
「いつもは突っ込んでくれるのに、今日は来ませんね。何かありました?」
レナが心配そうに俺を見てくる。
「……告白した」
「え”””ッ!?」
レナが女性とは思えない声を出す。
「アイラさんにですかっ!? 凄いですね! 返事はどうでしたか!? もしかして!!」
レナは興奮気味に尋ねる。
「……王立第六学園に入学にすることになった」
俺の言葉に、レナは口をぽかんと開けて、小さく「は?」と呟いた。