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 死。

 それは誰しもに平等に訪れる人生の終着点である。

 目の前の若い娘に似合わぬ言葉だと思うと共に、王子は思い出した。目の前にいる聖女モリーナは歳若い娘ではなく、70という老齢であったことを。


 王子の祖母である皇太后は、77で亡くなった。それと程近い年齢であるモリーナ。

 王子にとって遠く離れた物と捉えていた死が、己の目前に立ち塞がっているような気がした。



 民を守るために聖女として選定され、自分がたった1ヶ月で嫌気がさした牢獄のような場所で、民のために祈り、死を迎えるまで過ごす。その日々をどのような思いで聖女が過ごしているのか、王子には想像もつかず、何と言葉を返してよいのかわからず、二の句が継げなかった。




 翌日、教皇の定例訪問を側仕えから伝えられると、王子は神妙な顔つきで応接室に向かった。聖女のことを考えれば考えるほど足取りが重くなる。

 付き添う側仕えも、王子の表情の陰りに気づき心配そうにその様子を見ていたが、教皇に任せるしかないと、応接室のドアをノックした。



「おはようございます、王子様。」



 教皇が挨拶をしても、王子は押し黙ったまま小さく頷くだけだった。いつもは野原をかけまわる子犬のように元気に応接室に飛び込んでくる王子が、つい7日前とはあまりにも違う様子に、教皇は驚いた。

 王子の表情はあまりにも暗い。

 どういうことかと教皇が側仕えに視線をやれば、側仕えにもわからないのか、首を左右に振ってかえしてくる。

 王子は教皇の対面にあるソファーに座るや否や、教皇が問いかけるより先に口を開いた。



「教皇に聞きたい。聖女が祈りの塔を出てはならぬのはなぜだ。」


「祈りの力を最大限に発揮する為に、この塔を媒介にするのが1番だからです。この塔には祈りの力を溜め込む輝石があり、逆にこの国の最端にはその力を放出する輝石が置かれています。その2つが作用することで…。」


「それは出てはならぬ理由ではない!媒介にするのが理由なら、聖女は通いで来てもらうだけで良いではないか!」



 真剣な表情で王子が叫ぶように言えば、教皇は笑顔を浮かべた。この方は良い王になられると、確信したからに他ならない。

 王子は教皇が笑っている意味がわからず、ムッとしながら更に続けた。



「何十年も牢屋のように閉じ込めて、聖女が可哀想ではないか。教皇にとって、聖女とは何なのだ。」


「国のために祈りを捧げて、魔物より民を守ってくださる存在です。」



 前に質問した時と同じ、教本に書いてあることをそのまま読んだだけのような言葉が返ってくる。



「聖女も、守られるべき民の一人ではないか!」


「だから、聖女は祈りの塔におられるのです。」



 教皇の言葉に、王子は聖女について知っていることを、今ひとたび思い返した。

 聖女の祈りの力が、国を魔物から防ぐ盾になる。

 他国は魔物の脅威にさらされる中、自国だけは聖女の力で魔物から守られている。

 つまり、力がある聖女がいるのはこの国だけ。



「聖女に守ってもらうのと同時に、聖女が他国より拐われぬよう、守っている………ということか。」



 そうだとしても、国のエゴで、人を祈りの塔に閉じ込めているという事実に変わりはない。

 王子は気づいた。1000年前の王が、なぜ王となる王子に、聖女と共に過ごす期間を設けたのか。

 王の導き手というたいそうな名をつけた意味を。



「守る為にと言いながら、5人の聖女の犠牲の上に、この国は成り立っているのか。」



 王子は最初にモリーナに会った時のことを思い出した。

 自分を出迎えるモリーナの腕は細く、国の守りが、か弱い双肩にかかっていることに覚えた不安。

 国の安寧を守るのは王であるべきであったのに、聖女に任せきりであるのを当たり前と思っていたからこそ、浮かんだ不安だ。

 それは民とて同じだった。教育係すら、国を守っているのは聖女だという気持ちがあるから、王子にしつこく貴ぶように言って聞かせたのだ。



「俺は……民が自由に過ごせる国を、作りたい。」



 その民の中にはもちろん、聖女も含まれていた。

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