呪われた幸運の剣
はじめましての方はどうぞよろしくお願いします。他の作品から来て下さった方はありがとうございます。作者の兄琉です。
このお話は…読んでいただければ分かると思いますが普通のファンタジーものでは全くありません。一人の冒険者と呪われた剣のお話です。
そんなに長い作品ではないので軽く読めるかと思いますので、ゆっくりと楽しんで行ってください。
俺は至って普通の冒険者。
よくある設定として英雄になる事を夢見て旅に出ている。
まぁ正直腕は普通だし、両親は普通の農家だ。
普通とは言ってもゴブリン位なら倒せる。
後は両親が普通と言うのは多少の語弊があるが…。
何故かと言うと、うちの親父は頭がおかしかったのだ。
ワシの爺ちゃんは勇者だったからお前も勇者だと俺は言われて育った。
勿論そんな都合のいい話俺が信じるわけもなく、いい加減田舎に嫌気がさした俺は勇者になると親に宣言して(当然嘘だが)多少の路銀をもらって家を出た。
きっと俺が勇者になって「勇者はワシが育てた」なんて事を言いたかったのだろう。
勝手な親父だ。どこかの監督みたいに。
因みに、今の世には魔王はいるらしいが今は大きな動きを見せておらず、時々魔物の被害が出るほかは至って平和である。
別に俺は魔王なんてどうでもいい。
冒険者としてお宝の一つでも当てて、ゆっくりと過ごせればそれでいい。
もう一度言う、俺は至って普通の、そこら辺に生えている雑草の数程いる冒険者のうちの一人だ。
俺は田舎からヒィヒィ言いながらもなんとか王都に着いていた。
来る途中に可愛い女の子の魔法使いを助けて仲間にしてと頼まれたり、世界を救えなどの耳鳴りがしたりしたが仲間が増えると宝を見つけた時の取り分が減るし、長旅の疲れで幻聴まで聞こえる始末だ…。
だが未だに物陰からはその女の子の視線を感じるし、時々苛立っているような幻聴まで聞こえてくる。
一日ゆっくりと王都の安宿で体を休めて俺は旅の準備とやらに街に繰り出していた。
今まで体験した事のないような人の多さに気が滅入るが俺は冒険者。
こんな街にいる事なんて滅多にないのさ、と考え我慢する事にしていた。
街を歩いている途中でなにやら神官を怒らせて決闘をして勝ってしまい私を旅の供に!だとか
スリをした少年を捕まえて、財布を返してもらって見逃してやったら何故か見返りに王様が偽物だという情報を聞いたり
はたまたあの時の魔法使いの女の子とぶつかってこれは運命の再会ね!とか言われたりした。
だが全部、殴って黙らせて、だからなんだと無視して、逃げてきた。
そこでふと目に止まった店を見て俺はある重要な事を忘れていたのを思い出したのだった。
「武器、買ってなかったな…」
そう、冒険者と言えば武器。
武器と言えば冒険者。
実家を出た時には先祖代々伝わるとか言う剣を持っていた。
だけど今は持っていない。
あれは女の子を助けた少し後のことだったかな…。
旅の途中で休んだ時に近くにあった穴に立てていたら、何やら洞窟が開いて剣が抜けなくなったのでその場に置いてきた。
何故その洞窟でお宝を探さなかったかって?
俺も探そうと思ったね。でも中に入ってすぐに岩でできたゴーレムがいたから逃げて来たんだ。
魔法でもないとあんな奴倒せないね。俺素手だったし。
そんなわけで剣を求めて俺は武器屋へと足を踏み入れたのだった。
…が
「た、高い…」
因みにこの武器屋は王都でも一番安い武器屋らしい。
しかし、ある武器はどれも俺の残り資金では買えるものではなかった。
「2,000G、1,980G…3,450G…」
俺はチラリと懐具合を確認する。
「…700…ゴールド…」
無・理
失意に飲まれる俺はふと武器屋の隅にある籠に目が行った。
そこには
【展示品限りの大奉仕価格!!さぁ、持っていけィ!】
ガシィっと俺はその籠に飛び付き籠に無造作に放り込まれている剣達を目をおっぴろげて見た。
だがどれも1,000G程度の値段でギリギリ手を出せないものばかりだった。
しかし!天は俺に味方をしてくれるようだ。
二つだけ、二つだけ俺の現在の所持金(700G)で買える剣があったのだ。
一つはなぜこんな所にあるのか不思議なほど鍛え上げられた剣。
奥の奥の方に隠されて埃かぶっていたからきっとだれも見つけられなかったのだろう。
そしてもう一つは先ほどの物ほどではないが素人の俺が見てもまともな剣だった。
ツカの部分に真っ黒な宝石が埋め込まれている事を除いてだが…。
値段は前者は700G、後者が300G。
俺は苦渋の選択の末、前者を選ぶ事にした。
所持金は吹っ飛ぶが、まさに俺に見つけてほしいと言わんばかりの剣だったからだ。
なに、金は明日にでも稼げばいいさ。
そしてなにより後者の剣はなにか嫌な空気を醸し出していた。
それに前者は持ってみると不思議と俺の手に馴染む感じがする。
もし俺が勇者だったら「こ、これが神の宿りし剣、ホーリージャッジメントッ…!」等という展開になる事うけあいだろう。
「よし、これだな…」
俺は意気揚々と剣をカウンターに持って行こうとして剣を掲げた。
すると…
『ようやく、私を手に取ってくれたのですね』
………俺はくるりと踵を返し
丁寧に剣を元の奥の奥に戻し
300Gの剣を持って再びカウンターに行った。
何か剣が叫んでいる気がする。
あーあー、聞こえない聞こえない。
何故剣をもっただけであの幻聴と同じ声を聞かにゃならんのだ…。
俺も遂に精神を病んでしまったのかなぁと軽く落ち込んだ。
「これからはお前が相棒だ、よろしくな」
武器屋を出た俺は買った剣を大事に腰につけると宿に戻り、部屋で一度抜いてみた。
やはり宝石が黒い以外は全くもって普通の剣だった。
『ククク…遂に抜いたな…これでお前呪いがかけられたぞ…』
頭の中に今までの鈴の鳴るような透き通った声とは全く逆の、鉄を擦り合わせ地を鳴らすような声が聞こえた。
「………」
ガサガサガサッ、ガチャン!
流石剣、二階から落とすと結構な音がするもんだ。
いやぁ残念、買ったばかりの剣が消えてなくなった。
明日は適当な仕事でも見つけて金を稼ぐか。
そう言って俺はまた安宿の固いベッドで眠る事にした。
もう一度言っておこう、俺はジャガイモ畑に咲くバラのバラではなくて、取るに足らないジャガイモの一つ、普通の冒険者だ。
今日もいい朝だ。
小鳥が窓の縁でさえずっているし、雲ひとつない快晴だ。
何も変なところなんてないぞ、だからきっと…
『クハハハ、我を手放そうとしても無駄だぞ勇者よ…呪いが続く限り貴様は我を手放す事は出来ぬのだからなぁ、ハァッハッハッハ』
これも幻聴だ。
今日はしっかり働いて、資金を貯めよう。
丁度一階の料亭でバイトの募集があったはずだ。
俺は声を無視して、いや元々幻聴だから気にせずに、下に降りていった。
それから数日が経ち、資金も順調にたまり、俺は旅に出た。
そして分かった事がひとつある。
『………』
この剣、幾ら捨てても戻って来るのだった。
河に捨てては洗濯のおばさんが拾って持ってきてくれるし。
王都の郊外の土に埋めては犬が掘り起こして拾ってくる。
しまいには100Gで冒険者に売り払ったのだが、その冒険者が死んで何故かその仲間が俺の下に返しに来た。
「なぁ、お前って本当に呪いの剣なわけ?」
『む…よ、ようやく話しかけてくれたか…我は寂しくてさみし…いや!別に貴様が話しかけてくれなかったから寂しいわけでわないぞっ!』
どうやら自称呪いの剣はツンデレらしかった。
遂に俺も何もないところで話す精神異常者の仲間入りかと思うと嫌な気持ちだったが、気になるモノは仕方ない。
どうやら俺も一人旅で寂しいらしかった。
『ハッ…いやいや、うむ。我こそは魔王様直々に呪いをかけていただいた剣であるぞ!どうだ、勇者よ!』
「いや、そもそも俺勇者とかじゃないし…」
『ククク、隠しても無駄だぞ、我には解るのだからな、クハハハハ』
「あ、そ…」
付き合いきれない…。
俺はそれ以降その剣を無視して旅を続ける事を心に決めた。
何度でも言うが、俺は河原の石ころのような普通の冒険者なのだ。
それから十数年が経ち、俺はついに念願の豪邸を建てる事に成功した。
あの剣を手に入れてから寧ろ俺は運が向いてきていたのだ。
剣を手に入れて以来あの鈴の鳴るような声は一切聞こえなくなったし(自称呪いの剣の声は聞こえていたが)。
変な武芸者や神官や魔法使いなどとの面倒な遭遇イベントにも会わなくなった。
少し休んだところが偶然スイッチになっていて強い敵のいる洞窟が口をあける事もなくなったし、王様などのいらない情報も聞く事がなくなった。
それどころか偶然死にかけていた富豪を助け、多額の謝礼金を得て、剣の言う通りに投資するとみるみる内に金は増えて行き俺は一大商社を築くまでに至った。
十数年前まで田舎にいた少年とは思えないほどである。
俺は正に出世街道爆進中だった。
富豪を助けて以来俺は常に剣を携帯するようになり、話も少しするようになった。
そんなある日、愛する妻と娘がピクニックに行くと言い、俺は書斎にかけていた剣を外して腰に差した。
そして俺はふと、ずっと気になっていた質問を剣にしてみた。
「なぁ、自称呪いの剣よ」
『クッ、だから自称は余計だっ。で、なんだ?』
相変わらずの地が鳴るような声で、しかし少し友好的になった口調で剣が言葉を返す。
「お前はどんな呪いを俺にかけたんだい?そろそろ教えてくれよ」
そう、剣は話すようになってからもこの話題については全く答えてくれなかったのだ。
ふむ…と剣は少し悩んでから口(まぁ口なんてないが比喩ってやつだ)を開いた。
『我が貴様にかけた呪いは…』
今まで何も起こってないにしろやはりこういうものを聞く時は緊張する。
俺は喉をごくりと鳴らして剣の次の言葉を待った。
『主に金に関する【幸運】…だ』
「………は?」
俺はぽかんと口を開けた。
剣は『実際には勇者の発する気が出ないようにもしていたのだがな…』等と言っているが俺には関係ないので聞き流した。
「いやいやいや、幸運ってプラスじゃないか」
『まぁ…貴様にとってはそうなのかもしれんな…。そもそも冒険をさせない様にする為の呪いだからのぉ…』
「まぁよくわかんないけど…まぁ死ぬとかじゃないならいいや、ありがと」
『…礼には及ばんよ、勇者』
そうしてその30年後、俺は愛する家族と自称呪いの剣に見守られながらその幸運な生涯に幕を閉じたのだった。
最後にもう一度だけ言っておく、俺は数ある目立たない星の内の一つになった、至って、全く持って普通の冒険者…だった。
おしまい
『呪われた幸運の剣』いかがだったでしょうか。
書きたい事はあるのですが、敢えて伏せようかと思います。このお話を読んで色々と妄想(?)を広げていただければ作者としては嬉しい限りです。
ご意見感想、叱咤激励心よりお待ちしております。