裏ギルド
「ふんふふーん♪」
私はヒーラ! 冒険者の集まりパーティの中では回復担当の魔術士やってます!ブランドの髪を整え、白いローブを羽織り、杖も準備万端!
ちょっとドジな所もあるけど、今日も元気にみんなを回復させますね♪
「君、首ね」
「ほえ?」
朝、パーティの皆さんに合流した途端、団長から無慈悲な一言を告げられる私。
「何言ってんるんですか!団長ぉ!」
「いやー、ヒーラちゃん回復は優秀なんだけど、ドジ過ぎてねぇ。この前、間違えて敵に回復使ってパーティ全滅しかけたでしょ?やっぱみんなの命の責任を持つ団長としてはねぇ……。ごめんね?」
「そんなぁー!」
その場にうずくまる私。明日から生活費どうやって稼ごう……。
「はいこれ、退職金」
小袋に入ったお金を渡された。これでもう私はこのギルドとはおさらばと言うことになる。
「うぅ、お世話になりました……」
とぼとぼと帰る私を見かねたのか、団長は声をかけてきた。
「おーい」
「なんですか!?再雇用ですか!?」
「いや、違うだけどよ。裏ギルドって知ってるか?」
「裏ギルド?」
「なんでも世間からあぶれたやべー奴らが徒党を組んでいるらしい。そんで通常のギルドでは請け負ってねぇやべー仕事すらも金次第でどうにかなっちまうらしい」
「へぇー、そんなギルドがあるんですねぇ……」
「お前、そこ入ってみたら?」
「いやいや、嫌ですよ!そんなアウトローなギルド!」
「噂じゃ、表のギルドに時々スカウトに来るらしいぞ。俺の情報網では水曜の朝方によくいる女騎士が怪しいらしい」
「今日じゃないですか!」
「正直、お前のドジっぷりは並みのパーティじゃ持て余す。ま、考えてみてもいいんじゃねえか?じゃあな!」
そう言い残すと団長はパーティを連れて、モンスター討伐任務に向かう。
「裏ギルド……かぁ……」
☆
ここは冒険者ギルド。屈強な冒険者が集い、パーティを組んだり、そのパーティでギルドが仲介する任務を請け負ったりする場所だ。
「えーと、女騎士さん、女騎士っと……あっ、あの人かな?」
ギルドの隅で何をするでもなく佇んでいる女騎士が一人いました。白銀のさらさらの長髪に、整った美貌、銀色の鎧を見に纏い、只者ではない気配に満ち溢れています。
「あの、すいません……。もしかて裏ギルドの方……ですか?」
「誰だ貴様は?」
キリッとした表情でこちらを向く女騎士さん。透き通った声もまたお美しいです。
「はい、ヒーラっていう回復魔術士なんですけど、今日を持って首になってしまいましてぇ……。」
「よく裏ギルドの事を嗅ぎつけたな。それで裏ギルドに入ってみたいと?」
「あ、はい。一応、体験?みたいな感じでお願いします」
「了解した。ついてこい」
女騎士さんは身を翻すとサクサクと歩いて行く。
「あっ、待って下さーい!」
☆
「そういえばお名前はなんとお呼びしたら?」
「ナキ。好きに呼ぶがいい」
「ではナキさんと」
そうしてナキさんについて行くこと15分。どんどんと人気がない怪しい方面へと歩いていく。
流石に裏ギルドともあれば人目につかない所にあるのだろう。
「よし、ここだ入るぞ」
「へ?」
目の前にそびえ立つは、中華料理店三郎。なんで?
「親父、空いてるか?」
「へい、らっしゃい」
慣れた様子で中華料理店三郎に入店するナキさん。
慌てて私も入店する。
「今日のメニューは何にしやす?」
「ヤサイマシマシカラメマシアブラスクナメニンニク」
なにを言ったんだこの人?呪文にしか聞こえなかった。
「これはもしかして……」
テレビか何かで見たことがある!何気ない料理店に入り、通常存在しないメニューを言うことで隠し部屋に案内される展開を!これらそれに違いない!
「お前は頼まないのか?」
ナキさんは私に注文を促す。つまり裏ギルドに入りたければ先程の呪文じみた暗号を覚えろということだろう。
「えーと、ヤサイマシマシカラメマシアブラスクナメニンニクで!」
「ほう、君もなかなか行けるクチだな」
「ありがとうございます!」
恐らくナキさんに一瞬で暗号を覚えられたことを褒められた!嬉しい!
〜数分後〜
目の前に現れたのは想像を絶する物体。どんぶりの中にこれでもかと詰め込まれた野菜野菜野菜。にくにくにんにく! なんだこれは?本当に人間の食べ物なのだろうか?
「ん?食わんのか?冷めるぞ?」
ナキさんは割り箸を綺麗に割り、特盛りのどんぶりの手を伸ばす。
まさか入団試験が既に始まっているのか?もしかして、これを食べきれないといけないという、忍耐力のテスト?そうなら頑張って食べなくちゃ!
割り箸を割り、気合入れてどんぶりをむしゃぶり尽くす!むしゃぶり尽くしたら先にようやく麺が見えてきた!
「クスクス、おいしそうに食うやつだな君は。気に入ってもらったようで何よりだよ」
☆
「食べ終わりました!ゲプッ!
「ご馳走様。店主、金はここに置いて置く」
「毎度〜」
颯爽と店から出るナキさん。
「あれ?店の裏に通じる隠し通路に案内されないんですか?」
「ん?ただの朝食だが?」
「え!?」
「ほら、にんにく口臭対策のガムをやろう。女子力というものはこういう所で差がつくものだ」
「ほんとに女子力高いなら朝からあんなもの食べないと思うんですけど!」
「さて、行くか」
「あっ、待って下さーい! あっ、奢ってもらってありがとうございます!」
こういう勘違いをしてしまうのもドジなせいなのだろうか?いや、この場合は何か違う気がする……。
☆
ついた場所はギルドの裏にあるこじんまりとした事務所。看板には裏ギルドとでっかく書いてある。
「ここだ」
「ギルドの裏にあるから裏ギルド!?」
ナキさんに連れられ入った部屋には少し背が小さめな黒髪な少年がバナナをかじりながら座っていた。
「リラ、新人を連れてきたぞ」
「ナキさんありがとう。君が新人だね?歓迎するよ、ようこそ裏ギルドへ」




