バナナ
ーーーーなんでもない平和な日常は唐突に終わりを迎える。
「増税しちゃったなぁ。あっ、お腹空いたからバナナ食べておこうかな」
消費税増税に少しブルーな気持ちになりながらも、帰り道にある馴染みの八百屋に寄ってみる。
「おー、坊主かよ!」
八百屋に到着すると顔馴染みの恰幅の良いおじさんが声をかけてきた。ここの店長で昔からよくバナナのお世話になっている。
「おじさん、バナナ一房!」
「あいよ! 相変わらずだなオメーは」
店の中で一番新鮮なバナナを見繕うとそれを手渡してくれた。
僕は料金を支払い、店長と雑談話始める。
「消費税増税しましたけど、売上大丈夫なんですか?」
「軽減税率って知らねーのか? 坊主?」
「?」
「まぁ、簡単に言うと飲食料品は増税しないって事なんだけどな」
「そうだったんですか!? 知らなかったです……。と言うことはまだバナナ安く食べられるんですね! ムシャムシャ」
「まぁそういうこった。ってお前店内でバナナ食ってんのかよ!」
「恥ずかしながら…ムシャムシャ、お腹がムシャムシャ、空いてましてムシャムシャ」
「馬鹿野郎!軽減税率は持ち帰る商品に限るんだよ! ここで食っちまったら残り2%払わにゃならんぞ!」
「えー! そんな……」
「見なかった事にしてやるからさっさとバナナ持って帰んな坊主!」
「ありがとう、おじさん! またバナナ買いに来ます!」
颯爽とバナナを片手に横断歩道を渡ろうとした瞬間ーーーー
「へ?」
トラックが真横から僕に突っ込んできた。
☆
「うーん、ここは?」
目を覚ますと辺りは一面は真っ白な世界。まるで雲の中にでもいるみたいだ。
そんな中で一際、神々しく輝く老人が一人。
「ムシャムシャ、このバナナ美味いのぉ」
「あー!僕のバナナ!」
間違いなく僕のバナナだ。黒い点々の位置まで完全に一致しているから間違えてようがない。己の中のどす黒い怒りが込み上げてくるのを全身に感じる。この男は存在を許してはならない。必ずや報復をーー
「ワシは神なんじゃが……ムシャムシャ……」
「黙れ!電波ジジイ!人様のバナナも分からない位に耄碌しやがったってんなら姥捨山にでもぶち込んでやる!!!」
「最近の切れる若者こわっ!結構、好青年だったよね君!?」
「バナナを返せ!」
僕は老人に突っかかるが、ひょいと躱され、勢いを殺せず僕は地面に突っ伏してしまう。
「わーるかったって、ホレ、別の新しいバナナやるわい!」
老人から新しいバナナをパイっと貰うと、怒りはいつの間にかすっと止んでいた。
「あんたいい奴だな……」
「えぇ……、お前さんの切り替え早くね?若干引くんじゃが……」
☆
「ふぅ、先程は失礼しました。おじいさん」
「やれやれ、やっと落ち着いたか……。これでようやく話ができるのぉ」
「冷静になって考えてみるとここは……」
「そう、あの世じゃよ」
「トラックに轢かれる直前までは覚えています。だからその後……」
「おお、その後はぶつかってきたトラックが大破してのぉ、幸い運転手は無事だったが」
「え?トラックが大破?あの後どこかにぶつかったんです?」
「いーや、お主の身体が頑丈過ぎたのじゃ。お主の前世はゴリラか何か?」
「知りませんよ! じゃあなんで死んだんですか?僕!?」
「食べ終わったバナナの皮を落としてそれに滑って頭打って死んだ」
「は?」
「大往生じゃったな……」
「どこがですか!僕の死因カッコ悪!せめて誰か助けて死にたかった!」
「お前さんの葬式、みんな笑い堪えるの大変そうじゃったぞ」
「ですよねー!もう死にたい!あっ!死んでる!うわーーーーん!」
「お前さんの両親からの言葉を送ってやろう」
「なんと?」
「来世では幸せなゴリラになって下さいーーと」
「なんで!?なんでゴリラ!?確かにバナナばっか食べてたけど!」
「これは両親の気持ちを汲むしかあるまい」
「汲まないでぇぇぇ!!!」
「今、流行りの異世界転生させてやるんだから我がまま言うじゃない。スライムにしないだけマシじゃろ?」
「いや絶対スライムの方がいいじゃん!むしろそれでお願いします!」
「いやコンプラ的にまずい」
「神なのにコンプラって何ですか!?」
「能力値は今まで食ったバナナの房×ゴリラでの力でええかの……」
「めっちゃアバウト!」
「ゴリラ3000倍じゃな。バナナの礼に記憶のオプションもつけくぞい。ほれ、来世は頑張れのぉ」
「そんな感度3000倍みたいに……んほぉぉぉぉぉ!!!」
目の前が真っ白になる。
☆
気がつくとそこは異世界だった!うほっ☆




