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逆にとられて第一話

説明パート

 「俺は·······ここは······また、か。そうか、死んだのか。やっぱり······夢で、なく。」

乳白色のもやに包まれた何処までも際限なく続く【天界】。ここは、死者が訪れては次の世界へと向かうための地。ただひたすらに何もなく、何も見えず、感じない。実は人は転生できず、全く別の魂がここより現世に向け偽の記憶を植え付けられて送られていると言われても信じるだろう。そんな、不気味な白紙の世界。


天界と言えども神様が訪れるのはごくたまにの事で、何か不備があった時だけだ。普段は自動的に魂は振り分けられ、次の世界へ向かう。


 「すみません、真鍋凛太(りた)様。なにぶん神代始まって以来二度目の出来事でして······」

三角形に体を折り畳みゆらゆら漂っていると、背後から前髪で顔を隠した背の高いお姉さんが、頭に汗マークでも飛ばしてそうなほどに焦った様子で宥めてくる。

金髪パッツンの綺麗な髪の彼女は女神様。新米も新米で、本来なら若葉マークの冠を着けてベテランについて回るのが仕事のはず。しかしながら今彼女の金糸のような髪を飾るのは高位を示す金糸を織り込んだオリーブのもの。金の量も装飾として申し訳程度に絡んでいるのではなく、しっかりともう1本の蔦のように巻かれている。ここまでは、前回死んだときに聞いた。

その時に、俺の魂がとんでもないぐらい格が高いことも聞いた。たまにいるらしいのだ。とんでもない素質持ちとかが、才能を腐らせてそのまま死ぬ。その余った輝きが一際強いそうだ。


全く嬉しくない。


さて、なぜ新米彼女がそんなに偉いのか、は残念ながら教えてもらっていない。ノリで聞いたスリーサイズは教えてくれたのに。それほど大切な事なのだろうか。

俺はゆっくり身を翻して、

 「まあ、仕方ないさ。どうせ、一度は死んだんだし。一回も二回もそう変わらない……」

つつ、と頬を伝う涙。あ、ヤバいヤバい。溢れる溢れる。と咄嗟にまた三角形のポーズに移行した。クソ。割りきれるもんじゃあねぇな。畜生。

 「……悔しい」

フラッシュバックした憎らしい太った王を、掃き散らすように腕を振り回した。




 「······そろそろ、よろしいでしょうか?」

ああくそ、最悪だ。ずいぶん女性に心配かけたもんだよ。俺はあんまり他人に心配かけたく無いのに。

泣きはらした鼻水と涙を誤魔化そうと、ぼそりと「ああ」と呟く。実際は誤魔化しきれておらず、声は湿っていただろう。また数分して、多少は落ち着いてから、咳払いのもとにまた新たな説明が始まった。

 「神に遣わされた【勇者】である凛太様が、【魔王】を倒したのにも関わらず人間に迫害を受け、【殺される】。そんなことは天界(こちら)としても二度目の事で、しかも前回対応した方は現在……出払っています。こちらでもどうすれば良いのか分かりかねているのです。そこで、何かお力になれることはございますでしょうか?」

考える。やつらに災いを望むか?無駄だろうそんなもの。【均衡の崩れた世界】を守ろうと勇者になった俺が遣わされたんだ。一個人がどうこう言ったところで世界は滅びない。そんなことよりも、そうだな。やはり建設的にいきたい。影響とかがでかくなくて、かつ自分が最も幸せになれるモノ。なんだろう。

 「そうだな············」

定番で単純なものだとすると、ひとつだ。続きを言う。

 「元居た世界で、このまま平穏に暮らしたい。魂の安らぎというか、そんな感じ。5年も戦ったし、100年ぐらいのんびりしたい。今度こそ、格が欠片も残らないぐらい目一杯。」

神妙な顔で聞いていた女神様は、ひとつ深くうなずくと、「それだけでよろしいでしょうか?」と付け加えた。


 「じゃあ、おまけとして······」




その日、空に季節外れの流星群が起こった。流星群といっても、何かが燃えながら落下した訳ではない。少ないデータを参考に考えると、どう見ても光がそのまま落下していた。

観測外からの突然の発光に、宇宙人説、神説、隠された物理法則説などが立てられ議論が山の落ち葉のように積み重なっている。

でも俺は思う。

それ俺だよ、と。

時期とか、そうとしか思えない。前にも似たようなことがあった。向こうの世界へ向かった時は「空の指針が光を示した」だとかなんとか言われたものだ。指針は光を見れませんでしたがね、光を見れた人はいるんですかね。


死んだときのまま放置され何もかも残っている俺の家。二週間昏倒してたと医者は言った。あの5年はこちらでは二週間と聞いたときに、なにやらまた余計なものが溢れかけた。むなしさほどの生き地獄はないと思う。

平日昼下がりでただ座っているだけなのもむなしくなる。心が腐る。なにもできる気がしない。何かはしなくてはいけない。それは冷蔵庫で腐った食品たちも同意見だろうけども、こうむなしさに絡められていると、本当に何にもやりたくなくなってくる。久しぶりの孤独や喪失感もヤバい。イカれるのでは、という不安が頭をよぎり、連鎖的にストレスになる。あのとき消えてしまうのもよかったかもしれないな。どうせ俺には遺す親族もいないし、バイトも首になったし。


そんなとき、ノックの音が飛び込んだ。数は一つだけ。

のそり、しばらくぶりに起き上がる。誰だろうか?まあ宗教かセールスだろう。これもまたいつもの事だ。日常は感じるけど、まるで嬉しくない。


玄関を開けると、生来初めて見る見慣れた金髪が目に入る。ふわりと長い髪。目元の隠れた密やかな笑顔。

 「えっ」

今にすれば間抜けな声をあげ驚いた俺を見て、「あれっ、こういう事では無かったのでしょうか?」と当惑する彼女。脳みそがフルで回りだす。何をどう勘違いしたかはわからないが、打算でも感情でもこれはプラスだ。少なくとも絶対に離してはいけない。

希望が湧いてきた。懐かしい感触だ。気分が良くなる。

 「ああ、いや、思ったより……そうだな。遅かったもんでさ。目覚めたとき隣にいなかったからダメだったのかと思ったよ。」

やはり嘘はイマイチ下手だ。台本を用意すればまた変わるがね、と1人負け惜しむ。

あのとき願ったのは【私をそのまま】【平穏なこの世界へ】だ。そのままの状況か?平穏を守るためにか?とにかく、多少散らかったままだけれども上がってもらった。


 「何も、ないですが……」

 「いえ、大丈夫ですよ。早速本題に入ろうと思うのですが、よろしいでしょうか?」

椅子にちょこんと座った彼女が、柔らかい物腰を崩さずに切り出す。

しかしあれだ。普段のゆったりしたバスタオルみたいな服だとわからなかったが、でかいな。

白いワンピースを着て際立った胸元。じっと見てしまう。そういうサガなのだ。しかたないね

 「ああ、はい。どうぞ。」

 「まずはですね……」


天界にいた神が(理由は伏せられたが)減り、世界は混乱しはじめた。大きな混乱のあった世界は2つ。うち1つは奇跡的なバランスと残った神の奇跡により平穏に安定した。もうひとつの世界は自身では混乱を押さえられず、奇跡を多目に起こし均衡を保とうとしたがダメだった。それが俺の行った世界。これからどうなるかはわからないが、神々による審議会においても俺の望みは叶うらしい。しかし、どうにも願いの中にあった【そのまま】の箇所が本当にとことん死んだときのままらしい。つまるところ俺はまだ魔法が使える。しかも、俺の仲間たちまで一緒らしい。そんで、そのお目付け役として女神が来た。といった話だ。

何かやるつもりもないし、出来ることといえば戦争ぐらいのものなんだが、どうにも一番最初に混乱した世界というのはこの世界らしい。そりゃお目付け役も送るわな。


というのも俺の魔法は超遠距離に届く高火力の砲弾。城塞を砕き、門を砕き、城を焼き払える究極戦術魔法。だからほとんど家から出ずに俺の主な仕事は終わった。バカスカ撃てないから作戦を叩き込み前線と連携し魔力消費の激しさにゲロを吐いてなお頑張った。泥臭い王道ではなくゲロ臭い最悪の勝ちだったが、俺なりにやったのだ。頑張ったんだ。情報弱者の国に代わり情報をかき集めてきて、そして────ああ、忘れたいのになあ。記憶の蓋から中を覗くと、要らないものまで出てきてしまう。

ともかく、俺の能力は弾道ミサイルよりも格段に強い攻撃魔法だ。


 「……なるほど。話は理解しました。が、俺はこれから緩やかに生きていくつもりなんですよね。せっかく来てもらっても、無駄というか」

 「いえ、神界の仕事に比べればこちらはずいぶんと楽なので、監査にかこつけて羽を伸ばさせて貰いますからお構い無くです!」

おとなしいだけでなくずいぶんたくましいな。見習う所もあるな。と気合いを入れ直した。

 「あ、所で今日の寝床を貸していただけないでしょうか?」

 「あー、はい。どうぞ。よく友人が泊まるんで布団はありますよ」

ありがとうございます、と。本当にたくましい奴だな。いや、図々しい?うーむ、なんとも上手い言葉がハマらない。もどかしい。

とりあえず、何もかもは明日にしようか。バイト探さねばな……

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